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路地裏にあるレンガ造りの小さな店には、
店主の趣味であるアンティークの調度品が飾られていて落ち着いた雰囲気だった。
席もメニューの品数も多くは無いが、
「通いまくって、全メニュー制覇したい!」
と、カガリが叫ぶ程だった。
アスランが笑いながら“キラも同じことを言っていた。”と言えば、
カガリは目を輝かせて“今度はキラも誘って来ような!絶対だぞ!”と食べ終わる前から約束をし、
益々アスランの笑みは深まる。
カガリはオムライスに添えられたメンチカツを頬張る、その拍子に香ばしいサクっとした音が聞こえた。
正面のアスランは、相変わらず美しい所作でロールキャベツを口に運んでいて、
カガリは懐かしさが溢れるように笑った。
不思議そうな顔を上げたアスランに、カガリは応えた。
「やっぱり、ロールキャベツなんだなって思って。
アスランの数少ない好物だもんな。」
「覚えてたのか。」
と、無防備に驚いた顔をするから、
カガリはそっと瞳を伏せた。
「忘れる訳、無いだろ。」
ーーアスランのことは全部、覚えてる。
美味しい料理は自然と心を開かせるから、
このままアスランへの思いまで露わになってしまいそうで、
カガリは何気なさを装って水を口に含んだ。
ーー忘れられる訳、無いんだ。
「良かった、アスランが元気そうで。」
カガリは食後のデザート盛り合わせと共に紅茶を、アスランがコーヒーを飲んでいる時だった。
まったりとした空気の中で、カガリは続けた。
「ミーティングの時、ちょっと気になったから。」
するとアスランは、“カガリは変わらないな。”と呟いて、
「俺は大丈夫だよ。体調が悪かった訳でも無いし。」
カガリの心には、あの時のアスランらしからぬ言動や寂しげな笑顔が引っかかっていたが、
“そっか。”といって、ミックスベリーソースのかかったフォンダンショコラと一緒に飲み込んだ。
注文を受けててから焼き上げるフォンダンショコラは絶品で、添えられた自家製ジェラートも然りで、
カガリは小さな拳をブンブンと振って全身で味わっていた。
そんなカガリを見て、アスランは懐かしさに目を細める。
「カガリと一緒に食べる食事は、いつも特別においしかったな。」
食事に興味が無いアスランは、生徒会の仕事や勉強に時間を割いて食事を忘れることが少なからずあった。
その度にゴハンとスイーツ命の双子に叱られて。
その頃はそれで良かったけれどーー
あの事故があってから、アスランは殆ど食事をとることが出来なくなって、
精神的にも肉体的にも限界を超えて…。
そんな時、アスランを支えたのはキラとカガリだったのだ。
そんな過去を知るカガリだからこそ、
「今はちゃんと食事してるんだろうな!」
厳しい視線を向けられ、アスランは苦笑する。
「一応、気をつけてはいるし、
自炊することもある。」
「一応ってのは気になるな。
この3ヶ月間は私が見張ってるからな、ちゃんと食べるんだぞ!」
と、カガリがビシっと指させば、アスランは“観念しました”と肩を竦めた。
店を出ようとすると、気づかぬ間にアスランが支払いを終えていて
そのスマートさにアスランが大人なんだという当たり前の事実に改めて驚いて。
“奢られっぱなしは嫌だ!”とカガリが言えば、“じゃぁ、また今度はカガリに。”と返されて、
それが社交辞令じゃ無いといいなと、カガリは願うように頷いて、
「その時は、アスランのリクエストに全部答えてやるぞ!」
と言えば、思わぬ答えがかえってきた。
「じゃぁ、カガリの手料理が食べたい。
カガリの作ってくれたお弁当も、誕生日の時のロールキャベツもケーキも、
みんな美味しかった。」
エメラルドの瞳は懐かしさに揺らめいて、カガリは目が離せなくなる。
「覚えていて、くれたのか…?」
「忘れる訳無いだろ。
大切な思い出だ。」
アスランがくれた大好きな笑顔を、
こんな幸せな気持ちで受け取る日が来るなんてーー
「私もっ。
大切な思い出だ。」
その時見せたカガリの笑顔は、一点の曇りも無い
キラキラとした陽の光のようだった。
ーーーーーーーーー
なんて平和なデートでしょう。
まるで高校生に戻ったような楽しい時間を過ごした2人なのでした。
ひとつの思い出を互いに大事に思っていたなんて、
カガリさんは嬉しくてキラキラスマイル出しちゃいました。
おいおい、アスラン、このスマイル見て何とも思わないの?
と、キラ兄様なら突っ込むことでしょう(^_^;)
平和なデートでしたが、
これで終わる筈無いですよね〜。
次回は新たな登場人物を交えてもう少し踏み込みますよ!
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と、カガリはアスランとシンに目配せをする。
カガリの本当の名前はカガリ・ユラ・アスハであるが、
父親の会社ではワーキングネームを使用し、父との関係性を公にしていなかったからだ。
“了解した”と言うかのようにアスランが軽く頷いてくれてほっとし、
担当者が変更になった経緯と自分の経歴を簡単に説明し始めたカガリを
シンがマイペースに遮った。
「堅苦しい自己紹介はいいって!
えーっと、簡単に言うとーー」
完全に主導権を握っているシンが、勝手にカガリの他己紹介を始めた。
「カガリと俺は、お互いスカンジナビアに留学した時に知り合って、
現地では1番仲良かったよな。
留学生仲間から親友になって、付き合って…」
「ちょっと!
元カノってこと!」
シンの恋人と思われる彼女は、怒髪天を突く勢いだ。
美人な分だけ凄みが増し、カガリはブンブンと手を振って説明しようとしたが、
「ルナの言う通り、元カノっていうのは事実だけど…。
でも、うーん、戦友っていうのが1番しっくりくる関係かもな。
留学先の勉強がキツくてさ、一緒に戦って乗り越えて。」
“な。”と、懐かしそうに目を細めて同意を求めてくるシンに、
カガリは“うん、まぁ。”同意を示しながらも、
現恋人である彼女の気持ちを考えると説明不足だと感じていた。
シンの説明では誤解を招いて彼女を傷つけてしまいそうだから。
「あの、詳しくは後でシン…じゃなかった、アスカさんから聞いて欲しいんですけど、
ルナさんが心配するような事は何も無いです。
むしろ、私はルナに笑われてしまうと思います。」
カガリは当時を思い出して恥ずかしさに小さくなった。
ルナはまだ完全には納得していない様だが、カガリの言葉に嘘は無いことは伝わったのか、
“後でキッチリ説明してもらいますからね!”と、シンの耳を引っ張り、
“イテテ…”言いながらも、まんざらでも無い表情を浮かべるシンに、
カガリはシンとルナの関係性を見た気がしてほっこりとしていた。
が、隣に座るアスランはどこか固まったような表情をしていて、
気のせいだろうか、顔色が悪いように思われる。
「アスラン、大丈夫か。
体調悪いのか。」
カガリが顔を覗き込むと、アスランは髪をかきあげながら応えた。
「大丈夫。
じゃぁ、カガリとシンは知り合いだから、
後はルナマリアの自己紹介を。」
と、今度はルナの方が話を遮った。
「アスランとヤマトさん、ひょっとして知り合いですか?」
流石は女の勘というやつか、瞬時に感じ取ったルナに驚きながらもカガリは頷いた。
「あぁ、高校の同級生。」
“な。”と、カガリがアスランに視線を向ければ、
アスランは“あぁ。”と、なんだか歯切れの悪い返事をした。
さっきからアスランの言動がらしく無いとカガリの心配は募るが、
ルナとシンは御構い無しの猛スピードのタックルのような質問責めを開始し、
そんな姿を見て、カガリはルナとシンは似た者同士のお似合いだと心底思うのだ。
こんなカップルだったら、
毎日楽しくて、
日常の中にたくさんの思い出が出来て…。
「アスランはどんな高校生だったんですか?
やっぱりモテたんですか?」
「へー、生徒会で一緒だったんだ。
アスランが会長ねぇ。」
「なんかいそうなタイプよね。
すんごいイメージ湧くもの。」
「それより、カガリ。
写真無いの、写真!」
「きゃー、見たい見たい!
カガリさん、写真見せてください!!
このとーり!!」
“おいおい、その辺に…”とアスランが待ったをかけようとした時、
カガリは“あった!”、と携帯の画面を2人に見せた。
生徒会室で、キラとアスランと3人で撮った写真だった。
高校2年生の頃、まだ恋も知らず、毎日が楽しくて仕方がなかったあの頃ーー
カガリの笑顔には一点の影も無かった。
「うわぁぁぁぁ!!!」「きゃーーーー!!!」
「カガリ、めっちゃかわいいっ!」
「アスランはイケメンすぎー。」
「なーんか、青春って感じだなぁ。」
「爽やかすぎるっ。
こんな生徒会だったら、全校生徒はみーんな生徒会のファンになっちゃうわ〜。」
と、二人は好き放題の感想を言い合い、
そんな姿が微笑ましくてカガリは笑みをこぼした。
「カガリさんのお隣のイケメン様は誰ですか?」
ルナの“イケメン様発言”に吹き出して、カガリは応えた。
「それは私の双子の弟のキラ。
で、アスランの親友。」
「美男美女の双子が生徒会に!
マンガみたい〜!」
と、ルナのテンションはどんどん上がっていく。
“じゃぁ、3人でとっても仲が良かったんですよね。”とルナは前置いて続けた。
「もしかして、高校生の頃、
アスランとカガリさん、付き合ってたりして!」
グサリと突き刺さった言葉に一瞬フリーズしそうになったカガリは、
バレー部で鍛えた瞬発力で切り返した。
「そんな訳無いだろ?
ただの友達だって!」
アスランにこの胸の痛みを悟られてはいけない、
新しく始まるアスランとの関係性を守って仕事を成功させること、
それが1番大事なことなんだ。
そう思えば、カガリはどんな痛みだって乗り越えらる気がしていた。
空気を変えようと、別の写真を探していると、
横から覗き込んでいたアスランが声を上げた。
その写真は高校3年生の文化祭のものだった。
ふとしたタイミングでアスランに告白してしまい、振られた後に迎えた文化祭。
写真の中の中のカガリの笑顔は、先程のものとは全く別だった。
笑顔の中に混じる切なさ、それに気づく者はこの場に居なかった。
“どんな痛みでも乗り越えてられる”と思った5秒後に、
カガリはズキズキとした痛みに襲われて思わず滲みそうになった瞳を凝らして
簡単に説明した。
「これは高校3年生の時の文化祭。
私のクラスの出し物は、アリスのティーパーティーで…」
写真には、ブルーのワンピースにフリルのエプロンを付けたカガリと、
制服姿のアスランとキラ、
そしてもう1人ーー
「この人、超絶かわいいですね!
ラクス・クラインにそっくりで。」
“あ…”と、カガリはアスランに視線を向けると、アスランは特に気にせず応えた。
「ラクスだよ。
俺の幼馴染なんだ。」
ーー幼馴染で好きな人…だろ。
胸の内でカガリは呟いた。
今はヨーロッパを中心に活躍する世界的な歌姫、ラクス・クライン。
ただし、当時はデビュー前の音楽高校に通うお嬢様だった。
失恋して間もない当時、アスランからラクスを紹介されて、
カガリが泣き出さずに済んだのは隣にキラがいてくれたからだった。
繋いだ手から、“頑張れ”の声が聞こえたから。
実際にラクスと文化祭を回ったのは何故かキラだったけど、
カガリのクラスの喫茶店でラクスと話をしてみると、澄んだ泉のように素敵な子だった。
ラクスとの思い出はこの一時だけだが、
今でもカガリの中でキラキラとしている。
「ラクス様が幼馴染って!
ここまでくると、アスランの設定が胡散臭く感じるわ。
マンガかよっ!」
と、ルナが好き放題言うので、
“それ、言えてる〜”と、シンとカガリは声を上げて笑った。
こうしてシンと笑い合っていると、留学していた当時を思い出せて
カガリはホッとするのだ。
シンの存在が、時間を高校生から未来へ動かしてくれた気がして。
そっとアスランを見れば、あの頃と変わらない困ったようは笑顔に
どこか寂しさが紛れ込んでいるような気がして、
ーーアスラン…?
共同事業の第一回目のミーティングは大半を雑談で占めることになってしまったが、
短時間でも内容の濃いものとなったのは、それだけシンとルナ、
そしてこの事業の責任者であるアスランが優秀だからであるとカガリは痛感し、
持ち前の負けん気の強さでやる気がムクムクと湧いてきた。
ミーティングを終え、これからお世話になる部署への挨拶回りと、
充てがわれたデスクの片付けを終えようとしたタイミングでシンがやってきた。
「カガリ、今夜予定ある?
再会を祝して飲みに行こうぜ!」
「あ、予定は無いけど、
えっと…。」
カガリは、誘いは嬉しいしシンと久しぶりに話がしたい気持ちはあったが、
金曜の夜に彼女を差し置いて他の女、ましてや元カノと飲むのに、
シンもルナも抵抗は無いのだろうかと不安が過ぎる。
ルナとはミーティングという名の雑談の中で打ち解けて、
名前で呼び合う間柄にはなったが…。
ーーそもそもシンは今夜、ルナに私との過去を説明すべきなんじゃ…!
そこまで思った時だった。
「シン、企画書の再提出は今日の午前中までだっただろ。
終わらせてから帰れよ。」
カガリの隣に、身支度を終えたアスランが立っていた。
「カガリ、一緒に帰ろう。」
まるで高校生の頃のように、
優しくて穏やかな笑顔でアスランが言うから、
「うん。」
カガリはそうなることが自然のように頷いていた。
大好きなアスランの笑顔を真正面から見たのは何年振りだろう。
あまりにも素直に胸が高鳴って、
頬が染まっていくのを隠すようにカガリは黙々と帰り支度をする。
そんなカガリの胸の内なんて知らず、アスランはカガリに話しかけて来るから心臓が持たない。
「せっかくだから食事でも。
カガリは何が食べたい?」
「アスランのオススメのお店は?」
「俺じゃなくて、キラの好きな店なら知ってる。」
「ケーキかパフェが美味しいカフェか?」
「小さな洋食屋なんだ。
キラはいつも食後のデザートに2、3品は頼んでるから、
きっとスイーツも美味しいんだと思う。」
「わぁ、行ってみたい!」
いつのまにかポンポンと会話が進んで、“大丈夫。”そう自分に言い聞かせ、
カガリはアスランに付いて席を立った。
“くそ〜!久々にカガリと盛り上がりたかったのに〜!”と悔しがるシンを、
ルナは“来週には、カガリの歓迎会で飲めるんだから、ね。”となだめた後、
思案するように2人が出て行った扉を見つめた。
「アスランが女の子を誘ってるの、初めて見たわ。」
ルナの驚きは最もだった。
何故なら、アスラン程の容姿に社長の息子という肩書きと申し分無い実績から
女子社員はもちろん、社外、さらには芸能人からのお誘いもあったと噂されているが、
アスランは全て断ってきたという。
もちろん、彼自ら女性を誘った等とは聞いた事も無い。
「アスランも、久々に話がしたかったんじゃねぇの?
同級生で、一緒に生徒会もやってた仲なんだし。」
するとルナは目を凝らすように細める。
「アスランみたいなタイプが、再会を理由にプライベートで誘うかしら?
仕事上のことであれば業務時間内に済ませるだろうし。
なぁ〜んか、引っかかるわね。」
“そんなもんかなぁ。”と、シンは伸びをして
すっかり忘れていた企画書に取り組むのだった。
ーーーーーー
今回もお読みくださり、ありがとうございます!
読者さまが少ないのでやりたい放題です(^_^;)
きっと、お読みくださってる皆さまは寛大な方ばかりなのでしょう。
甘えさせていただき、今後も好き放題な展開を予定しています。
と言っても、2人の恋路を邪魔する人物は出てきませんし、むしろ最大の敵は自分自身!?的な感じです。
なので、軽いノリのパロディを安心して読み進めていただけると思います。
さて、シンとカガリさんは元カレ元カノの関係でした(^_^;)
でも、皆さまがご心配されるような関係では無く、
それはそれは清いご関係でしたのでご安心を!
まぁ、別れた原因が清すぎるからなんですが(-ω-;)
高校生の頃の写真を見て盛り上がる皆さん!
ですが、何故かアスランは寂しげです。
その理由は後々…。
さて、次回はアスランとカガリさんのデートです!
アスランはどういうつもりなんでしょうかね。
それも後々…。
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金曜日の午後、一般的な社会人にとっては夜の飲み会や週末へのカウントダウンに心踊る時間帯であるが、
カガリはオフィスビルのエントランスを目前にため息をこぼした。
ーーまさか私がここに来るなんて…。
雫の音 ーshizuku no ne ー 3
カガリはオフィスビルのエントランスを目前にため息をこぼした。
ーーまさか私がここに来るなんて…。
雫の音 ーshizuku no ne ー 3
世界的な大企業であるザラコーポレーションはアスランの父親が経営する会社だ。
当然、跡取りであるアスランは大学卒業後は父親の会社に就職し、
キラが言うには、マンガの様なエリートコースを歩んでいるという。
足が竦みそうになり、カガリはふるふると首を振った。
ーーた、確かアスランは海外支社に転勤になったって、キラが言ってたし!
いくら父親が経営する会社に出入りしようと彼と関わる可能性はゼロに近いし、
共同事業にカガリが関わった事実も、この企業規模を考えればアスランの耳に入ることも無いだろう。
ーーきっと後々キラが喋ってバレるくらいで!
何とかなるなる!
“そうだ、そうだ!”とカガリは握りこぶしをブンブンと振って弱腰になった気持ちを振り切って、
ハイヒールの靴音を鳴らしてエントランスをくぐった。
いくら高校生の頃の出来事であっても、カガリにとっては現在進行形の恋であり、
永遠に続いていく失恋なのだ。
出来るだけ本人には会いたくない、これは仕事なのだ。
高校生の頃は些細な事で涙が溢れて、フレイに呆れられる程目元を赤くする毎日だった。
だから、学生カバンには化粧ポーチが欠かせなかった。
あの頃は多感な時期だったからと言えばそれまでだが、
成人して社会人になった今、彼を前に自分が自分を保てる保証は無い。
でも、それでは駄目なのだ、
ここでのパフォーマンスはカガリだけの責任に帰す訳ではない、
自分はーー
「こちらでお待ちください。」
べらぼうに美人な受付嬢に案内された会議室に腰掛け、
カガリは精神統一するように瞳を閉じて息を整えた。
ーー大切なお父様の社名を背負っているんだから。
瞳を開いて腕時計に視線を落とすと約束の時間を指した。
と、同時に控えめなノックの音が聞こえ、返事と共にカガリは立ち上がった。
「失礼します。
お待たせしてーー」
時が、止まった。
だって、あり得ないーー
「…カガリ…?」
アスランが目の前にいるのだから。
カガリは呼吸も忘れて完全にフリーズした。
鼓動が煩いほどに鼓膜を打って、訳の分からない焦りがせり上がってくる。
するとアスランは困った様な笑みを浮かべた。
その笑顔が高校生の頃にオーバーラップして、じわりと涙の予感を覚えて
カガリはぎゅっと手を握りしめた。
“もう高校生じゃないんだぞ!”と、カガリは自分を叱咤して、
「久しぶり、アスラン。」
と、何とか声を絞り出した。
彼の名を呼ぶだけで頬が染まりそうで、カガリは誤魔化すように笑って見せた。
すると、今度はアスランの方が驚いた顔をして、
カガリは自分の仕草が不自然だったのではないかと冷や汗が浮かんだ、
のを振り切るように自ら話題を振った。
「驚いたよ、キラからはニューヨークへ転勤になったって聞いてたから。」
「1ヶ月前に戻ってきたんだ。
驚いたのはこっちの方だ。
カガリはスカンジナビアで就職したんだろ、いつオーブに帰ってきたんだ。」
まるで高校生の頃の様にスルスルと会話が進んで、
カガリは落ち着きを取り戻していくのを感じる、“大丈夫だ”、そう自分に言い聞かせて。
「3日前に。
スカンジナビア支社から本社へ、3ヶ月間の出向で。」
「そうか。
でも、共同事業の担当者は別の方と聞いていたけれど…。」
「その筈だったんだけど、担当者が季節外れのインフルエンザにかかって、
おまけに入院することになっちゃってさ。
私が代打、って決まったのが3時間前。」
“そっちに迷惑かけちゃうな”とカガリが肩を落とすと、
アスランは大きく首を振った。
「そんなことはない!」
アスランらしく無い大きな声で、カガリは驚いて顔を上げ、
「カガリにまた会えたんだ、
結果的にいい巡り合わせだと思う。」
そのまま頬が染まっていくのを感じた。
ーーアスランは、会えて良かったって…思ってくれたのかな。
“そうだといいな”、とカガリははにかんだ様な笑みを浮かべた。
するとアスランは控えめに手を差し出した。
「また、一緒に頑張ろう。
よろしく。」
求められた握手に、と言うよりアスランとの接触にカガリは一瞬戸惑うが
取引先からの握手を拒む様な無礼は出来ない。
意を決して、それでもおずおずと、差し出された手に触れる程度の握手交わす。
すると、触れ合ったそばから生まれた熱が一瞬で全身を駆けていくようで、
カガリは
ーーいけないっ。
条件反射的に手を引いた。
何がいけないのかも分からないまま、それは自己防衛にも似たもので。
しかしアスランから見れば挙動不審以外の何ものでも無いことに気づいたカガリは
ーー違っ。
アスランを見上げた。
すると見覚えのある表情をしていて、はっとする。
アスランが傷ついた痛みを隠す時、こんな風に笑うんだと知っていたから。
カガリが“ごめん”と口に出そうとした瞬間、
勢いよく会議室のドアが開き、バタバタと1組の男女が入ってきた。
「遅れてスミマセン!
担当の…。」
先に入った男の方が名乗ろうとした…が、それは彼の驚きに吹き飛んだ。
「えぇ!!カガリ!??」
それはカガリも同様で、
「シン!!」
驚きと再会の喜びのままにシンはカガリを抱きしめて、
当たり前の様にカガリはシンの胸に収まった。
いや、正確にはシンの腕の中で子猫のように飛び跳ねるので全く収まっていない。
「うわぁ、シンだ!シンだ!
久しぶりだな、元気にしてたのか?」
「相変わらずだな、カガリは。」
そう言ってシンはカガリの髪をわちゃわちゃと撫で回しながら、
“ずっと元気にしてたよ”と、優しく目を細める。
「てか、カガリはいつオーブに戻ったんだよ。
てっきりスカンジナビアに居るんだと思ってた。」
カガリが口を開こうとした時、
シンの後に続いて入室してきたショートボブの女性が咳払いをした。
「いい加減、恋人が他の女とイチャイチャしてるのを見続けるのは不愉快なんですけど!」
我に帰ったカガリは慌ててシンから離れ、その拍子に目に映ったアスランの表情に真っ青になる。
何故ならアスランが不機嫌な顔をしていたからだ。
高校生の頃は腹が立つことはあっても滅多に顔に出さなかったアスランが、
今は明らかに感情を表している。
「申し訳ございませんっ!」
ガバっとカガリが頭をさげると、その頭をシンがポンポンと撫でた。
「大丈夫だよ、カガリ。
とりあえず、座って自己紹介しようぜ。」
チラリとアスランを除き見れば未だ表情は変わらずで、
シンの恋人と思われる彼女からは厳しい視線を当てられて。
共同事業第一歩目を踏み外したような気持ちになり、カガリは思わず空を仰ぎたきなった。
ーーーーーーーーーーーーーー
王道の展開ですがアスランと再会&一緒にお仕事をする事になりました(^_^;)
カガリさん、大丈夫でしょうか…?
そしてアスランの態度も気になる所です。
ぎこちない再会から2人どの関係がどう動いていくのか、見守っていただければ幸いです。
また、カガリさんはシンとも知り合いのようです。
随分仲が良さそうですが、カガリさんとシンとの関係は次回明らかになります!
ちなみに、シンはルナの彼氏さんです。
なので、アニメ本編にあったようにルナがアスランへ憧れ(?)や興味(?)を抱く事はありません。
このお話には、面倒臭いので女難も無いですよ。
メイリンは後々出てきますが、面倒臭い事にはなりませんのでご安心ください!
では、また次回もお楽しみいただければ幸いです!
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電車の窓から見上げた空に既視感を覚える。
ーーやっぱり、オーブの空だな。
幼い頃の懐かしさに浮かんだ笑みは、あの日の痛みに少しだけ歪む。
あの日もこんな、秋を知らせる抜ける様な青空だった。
雫の音 ー shizuku no ne ー 2
ーーやっぱり、オーブの空だな。
幼い頃の懐かしさに浮かんだ笑みは、あの日の痛みに少しだけ歪む。
あの日もこんな、秋を知らせる抜ける様な青空だった。
雫の音 ー shizuku no ne ー 2
チェックのプリーツスカートにブルーのリボン。
彼と並んで歩いた通学路。
彼との関係は、高校の生徒会の元会長と元副会長。
彼の親友の双子の姉。
友達...よりも深い仲だったと思う、少なくとも私はそう思っていた。
しいて言えば特別な存在。
優秀なのに向こう見ずな所とか、手先以外はてんで不器用な所とか、何でも自分を後回しにしちゃう所とか、
見ていて放っておけなくて。
何より、一緒にいると楽しくて、
彼の笑顔が大好きで。
一人で抱える痛みを分けて欲しくて。
この気持ちが恋なのだと気付いたのは高校3年生になってから。
友人達からは、
“ぜぇぇぇったい両思いだから告白しちゃえ!”
と何度もけしかけられていたし、
かわいいと評判の後輩達からは、
“お付き合いしていないなら、いつも一緒にいないでください!”
と怒られ、
クラスメイトの男子からは
“え?お前らまだ付き合ってないの?”
と呆れられていた。
周りに何と言われても、
自分の想いに気付いても、
今はまだこのままでいたいとカガリは思っていた。
だから気付かなかったのだ、
想いの雫たちがいつしかいっぱいになって、今にもこぼれ落ちそうになっていることに。
あれは何の話の流れからそうなったのか分からない。
その日は、いつも一緒に帰る弟のキラがいなくて、彼と2人きりの帰り道。
抜ける様な青空に、ほんのりと秋が薫る風。
『本当に付き合っちゃおうか、私達。』
あまりにも自然に出た自分の言葉にカガリ自身が驚いた。
隣の彼も驚いた瞳でこちらを見ている。
精一杯の勇気で、カガリは願いにも似た言葉を続けた。
『私、アスランともっと一緒にいたいんだ。』
彼が微笑んだ。
紛れもなく、カガリが大好きな笑顔だった、穏やかな。
『ありがとう、カガリ。
でもーー』
コップの水が溢れたのは、最後の一滴の雫のせいではない。
これまで降り注いだ幾つもの雫が、そこにあったから。
そしてその雫は、誰にも止められないから。
もう、受け止められないと分かっていても。
『ごめん。
俺はラクスの側にいたいから。』
それが、カガリが真正面から見た最後のアスランの笑顔になった。
あれから、アスランとどんな会話をしたのか覚えていない。
何とか辿り着いた自分の部屋、糸が切れた様にベッドに沈んだ。
初めての失恋にどうしていいのか分からず、
止まらない想いが容赦なく胸を刺して、
痛くて痛くて涙が止まらなくて。
夕食の時間になっても部屋を出てこないカガリを心配したのだろう、
呑気な声で“今夜はハンバーグだってぇ♪”と部屋に入ってきたキラが、
驚きに固まった顔を良く覚えてる。
キラは何も聞かずに優しく頭を撫でてくれた。
そのまま泣いて夜を明かして、当然目元は真っ赤に腫れて、
翌日は学校を休まざるを得なくて。
このままじゃダメだと、バレー部で鍛えた根性で喝を入れても
涙が次々に溢れてきてベッドを抜け出せず、
“どうしよう、どうしよう”そんな言葉ばかりが頭をぐるぐると回って。
泣き虫なのはキラの方で、滅多な事では泣かなかったカガリは、
いざ泣いてしまった時の対処法が分からなかった。
だから、幼い子供のように涙が出ては目を擦っていた。
控え目なノックの後に顔を出したキラ。
“フレイとミリィがお見舞いに来てくれたよ。”と、言っていたけれど、
キラの事だ、私のために連れてきてくれたんだと直ぐに分かった。
『もう、ひっどい顔ね!』
『プリン買ってきたの、一緒に食べましょ。』
フレイとミリィに泣きついて、全部話して。
心の整理何て出来ないけれど
今の自分の立ち位置と、今自分がすべき事ははっきりとした。
だから次の日には学校に戻る事が出来た。
目元の赤味は引かなかったから、フレイに教えてもらったメイクで完璧に隠した。
友人やクラスメイトの心配の声に笑顔で応える。
“うん、大丈夫。今まで通り、ちゃんと普通に出来てる。”そう自分を鼓舞するように頷いた時、
理系特進クラスのキラとアスランが見えた。
心配そうなアスランの顔、その横のキラの方が泣きそうな程心配そう顔をしていて、
カガリは悟った、キラは全部わかってくれていたんだと。
その優しさがカガリを強くしたのを、きっとキラは今も知らないんだろう。
『おはよう、アスラン。
心配かけちゃってごめんな。
でも、もう大丈夫だから!』
そう、もう全部大丈夫なんだ。
今まで通り、
何も変わらない、
何も変えない。
『良かった。』
ほっとしたようなアスランの声。
きっと、大好きな笑顔を浮かべているんだろう、
だけどカガリはそれを直視することはできなくて、そっと視線をキラにずらした。
するとキラが全てを受け止めるように頷いてくれて、
思わずカガリはキラに抱きついたのだ。
1日目は乗り切る事が出来たけど、だからと言って“今まで通りの毎日”が戻る訳じゃなかった。
アスランへの想いの雫が止まることは無くて、
心の整理はいつまでも付かなくて、
赤くなった目元を隠すためのナチュラルメイクの腕は
フレイに褒められる程に上達した。
当然、アスランと一緒にいる時間は減っていった。
キラがさりげなくそうしてくれていたようだ。
受験が都合の良い言い分けになったのは助かった。
アスランと普通に顔を合わせること、
それと同じくらい辛かったのは、
『カガリ、俺と付き合ってくれないか。
ずっと好きだったんだ、お前のこと。』
卒業までのカウントダウンが始まると、カガリは告白される機会が増えた。
真っ直ぐに向けられた瞳がいつもカガリの胸を締め付けた。
カガリには痛い程分かるから、
どうしても溢れてしまう想いも、踏み出す勇気も、
報われない想いも、願いも、未来も、
それに向き合う痛みもーー
『ありがとう。
でも、ごめんな。』
カガリはそう言うのが精一杯だった。
偶然にも、アスランに言われたのと同じ言葉。
あの日の痛みがフラッシュバックするだけじゃない、
アスランへの罪悪感に、ぐっと喉元が詰まる。
あの時、私からあんな事を言われて、きっとアスランはこんな気持ちになったんだーー
カガリの一言で、毎回相手はあっさりと引き下がった。
いや、引き下がらざるを得なかったのだ。
何故なら、泣き出しそうな程悲しげな顔をしていたのはカガリの方だったから。
告白タイムが終わったら、こっそり隠れていたキラがいつもカガリを抱きしめてくれた。
“良く頑張ったね。”と、頭を撫でられれば、涙を我慢する事なんて無理だった。
あの時、キラとフレイとミリィがいなければ、
きっとアスランとの高校生活を乗り切る事なんて出来なかっただろう。
みんなに感謝しつつも、カガリは“このままじゃダメだ!”と自分を叱咤し、
前へ進もうとがむしゃらに頑張った。
カガリは当初、キラとアスランと同じオーブ最高峰の国立大を志望していたが、
志望校を変えフレイとミリィと同じ私立大に進学した。
元々国際政治に興味があったカガリは、大学1年生の後期にはスカンジナビアへ留学した。
アスランへの想いを断ち切るためではなく、とにかく前へ進むためだった。
当初留学は1年間の予定であったが、スカンジナビアでの生活と学びにどんどん惹かれ、
そのまま留学先の大学へ編入し、父親であるウズミの系列会社のスカンジナビア支社に就職したのだ。
前へ、前へ。
そう思ってきたけれど、
想いの雫は止まらずに、
今もこの胸に溢れ続けている。
ふとした瞬間に聞こえる雫の音が
胸を締め付ける。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リハビリがてら作成したパロディですが、
数名の読者さまにはお気に召していただけたようで
ほっとしています。
さて、カガリさんが後ろ向きな理由…
原因はアスランっていう…(-ω-;)
カガリさんは真っ直ぐにアスランの事が好きで好きで忘れられなくて、
今でも胸を痛めています(T^T)。
今回は高校生の頃のエピソードだったのですが、
次回は現代に戻ります。
パロディらしくドタバタな展開を予定していますので、
楽しんでいただければ幸いです。
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雫の音が、聴こえる。
ひとつ。
また、ひとつ。
滴る雫はいつかコップを満たして、
最後の一滴で
淵から水が溢れ
こぼれ落ちる。
でも水がこぼれたのは、
最後の一滴が原因じゃない。
止まらない雫が、
数え切れない程の雫たちが、
ここにあるから。
そして次の雫が、
いくつもの雫が、
きっとこの世界に落とされる。
誰にも受け止められないことを
知りながら。
雫の音 ー Shizuku no ne ー 1
ひとつ。
また、ひとつ。
滴る雫はいつかコップを満たして、
最後の一滴で
淵から水が溢れ
こぼれ落ちる。
でも水がこぼれたのは、
最後の一滴が原因じゃない。
止まらない雫が、
数え切れない程の雫たちが、
ここにあるから。
そして次の雫が、
いくつもの雫が、
きっとこの世界に落とされる。
誰にも受け止められないことを
知りながら。
雫の音 ー Shizuku no ne ー 1
目覚めて目に入った天井は見慣れたものではなくて、
ぼんやりとした頭で、カガリはポツンと呟いた。
「そっか、エリカのお家だっけ、ここ。」
カガリは時計を確認すると、ネコのように伸びやかにリビングへと向かった。
カガリが、父の部下であり姉のように慕うエリカの家に住むようになったのは3日前。
大学生1年生の頃、スカンジナビアに留学しそのまま就職もしたカガリが、
オーブ本社へ短期出向になったことがきっかけだ。
9年振りにオーブに帰国したのだから実家へ戻っておいでと父は言ってくれたけど、
カガリはエリカの申し出に乗っかった。
『3カ月間、家を預かってくれないかしら?』
エリカのぶっ飛んだ性格を知るカガリは、その申し出に噴き出した。
『夫の赴任先に3カ月間だけ行くことにしたのよ、リゾートを兼ねて、ね♪
ちょうどカガリちゃんの出向期間と重なるし、どうかしら?
家具家電付き、セキュリティは万全、駅近マンションの最上階って、ナカナカ良い条件でしょ?
もちろん、私たちが留守の間管理してもらうんだもの、家賃はいらないわ。
ただし、1つだけルールを守ってちょうだいね――』
カガリは、オーブ本社への出向期間が終了後すぐにスカンジナビアへ戻る心積もりでいたため、
エリカの申し出は正直ありがたかった。
あれから何年も経つけれど、
――オーブには思い出が多すぎるから。
まだ忘れ得ぬ想いがふわりと薫って
カガリは苦みを帯びた笑みを浮かべる。
ほら、また。
雫の音が聴こえた。
エリカから預かった鍵でドアを閉めて、
エレベーターを待ちながら、ふとお隣さんのドアが目に入った。
エリカからのたった一つのルール、それは…
『男を連れ込まないこと!
だって、カガリちゃんと彼氏がベッドやソファーで×××しちゃったら…。』
『そんな事するかよっ!
だいたい、彼氏なんていないし、欲しいとも思ってないから!』
間髪入れずにカガリが反論すると、
エリカは”ふふっ”と笑みをこぼした。
『えぇ、カガリちゃんの事は信頼してるわ。
でも、彼氏くらいつくってもいいと思うわよ。
恋って、いいものよ。』
肩を竦めるしかないカガリにエリカは、ポムと両手をたたいた。
『そうそう、お隣さんなんてどうかしら?
今時珍しいくらいの誠実な青年よ、イケメンだしね♪』
エリカのウィンクがさく裂した。
カガリがげんなりとした顔をしているのをスルーして、エリカは続ける。
『女の子はもちろん、お友達を呼んでる所も見たことないわ…。
あ、引きこもりって意味じゃなくて、物静かと言うか…、
夜空に冴える月ってイメージ?
だからね、太陽みたいにキラキラのカガリちゃんにぴったりだと思うのよ!』
と、力説するエリカに、カガリは内心”月と太陽って、水と油みたいなもんじゃないのか?”と
ツッコミを入れたのを覚えている。
引っ越してきた当初、両隣と直下の部屋には挨拶へ行ったが、
エリカの言うイケメンのお隣さんは留守で会えずにいた。
――今夜もう一度行ってみよう。
どんなイケメンが住んでいようと、
例えば人気の俳優やモデルが隣に住んでいようと
――悪いな、エリカ。
恋なんて始まる訳ないだよ。
――もう、どうしようも無いんだ、
この想いは…。
カガリは胸の痛みを飲み込んだ。
何年経っても慣れることの無い痛みを。
どうしようも無いと分かり切っていても、
溢れる想いは止められず、
こぼれる雫を受け止められず、
ただ流れていくだけで。
――きっと、ずっとこのままだから、私は。
どうしようも無い想いをどうすることも出来ないからオーブを飛び出して、
留学先のスカンジナビアで何度も恋をしようとして
何人かと頑張ってお付き合いをしてみても、
この想いは消えないんだということを思い知るだけだった。
そっとカガリは胸に手を当てる。
――だからこのまま、この想いと一緒に生きていくって決めたんだ。
もう叶わない恋だとしても。
ーーーーーーーーーーーーー
初めてのパロディでドキドキですが、ゆるーくお楽しみいただければ幸いです。
カガリは27歳くらいの設定です。
カガリさんが後ろ向きですが、それには理由があります。
それは次回、明らかになっていきます。
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