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金曜日の午後、一般的な社会人にとっては夜の飲み会や週末へのカウントダウンに心踊る時間帯であるが、
カガリはオフィスビルのエントランスを目前にため息をこぼした。
ーーまさか私がここに来るなんて…。
雫の音 ーshizuku no ne ー 3
カガリはオフィスビルのエントランスを目前にため息をこぼした。
ーーまさか私がここに来るなんて…。
雫の音 ーshizuku no ne ー 3
世界的な大企業であるザラコーポレーションはアスランの父親が経営する会社だ。
当然、跡取りであるアスランは大学卒業後は父親の会社に就職し、
キラが言うには、マンガの様なエリートコースを歩んでいるという。
足が竦みそうになり、カガリはふるふると首を振った。
ーーた、確かアスランは海外支社に転勤になったって、キラが言ってたし!
いくら父親が経営する会社に出入りしようと彼と関わる可能性はゼロに近いし、
共同事業にカガリが関わった事実も、この企業規模を考えればアスランの耳に入ることも無いだろう。
ーーきっと後々キラが喋ってバレるくらいで!
何とかなるなる!
“そうだ、そうだ!”とカガリは握りこぶしをブンブンと振って弱腰になった気持ちを振り切って、
ハイヒールの靴音を鳴らしてエントランスをくぐった。
いくら高校生の頃の出来事であっても、カガリにとっては現在進行形の恋であり、
永遠に続いていく失恋なのだ。
出来るだけ本人には会いたくない、これは仕事なのだ。
高校生の頃は些細な事で涙が溢れて、フレイに呆れられる程目元を赤くする毎日だった。
だから、学生カバンには化粧ポーチが欠かせなかった。
あの頃は多感な時期だったからと言えばそれまでだが、
成人して社会人になった今、彼を前に自分が自分を保てる保証は無い。
でも、それでは駄目なのだ、
ここでのパフォーマンスはカガリだけの責任に帰す訳ではない、
自分はーー
「こちらでお待ちください。」
べらぼうに美人な受付嬢に案内された会議室に腰掛け、
カガリは精神統一するように瞳を閉じて息を整えた。
ーー大切なお父様の社名を背負っているんだから。
瞳を開いて腕時計に視線を落とすと約束の時間を指した。
と、同時に控えめなノックの音が聞こえ、返事と共にカガリは立ち上がった。
「失礼します。
お待たせしてーー」
時が、止まった。
だって、あり得ないーー
「…カガリ…?」
アスランが目の前にいるのだから。
カガリは呼吸も忘れて完全にフリーズした。
鼓動が煩いほどに鼓膜を打って、訳の分からない焦りがせり上がってくる。
するとアスランは困った様な笑みを浮かべた。
その笑顔が高校生の頃にオーバーラップして、じわりと涙の予感を覚えて
カガリはぎゅっと手を握りしめた。
“もう高校生じゃないんだぞ!”と、カガリは自分を叱咤して、
「久しぶり、アスラン。」
と、何とか声を絞り出した。
彼の名を呼ぶだけで頬が染まりそうで、カガリは誤魔化すように笑って見せた。
すると、今度はアスランの方が驚いた顔をして、
カガリは自分の仕草が不自然だったのではないかと冷や汗が浮かんだ、
のを振り切るように自ら話題を振った。
「驚いたよ、キラからはニューヨークへ転勤になったって聞いてたから。」
「1ヶ月前に戻ってきたんだ。
驚いたのはこっちの方だ。
カガリはスカンジナビアで就職したんだろ、いつオーブに帰ってきたんだ。」
まるで高校生の頃の様にスルスルと会話が進んで、
カガリは落ち着きを取り戻していくのを感じる、“大丈夫だ”、そう自分に言い聞かせて。
「3日前に。
スカンジナビア支社から本社へ、3ヶ月間の出向で。」
「そうか。
でも、共同事業の担当者は別の方と聞いていたけれど…。」
「その筈だったんだけど、担当者が季節外れのインフルエンザにかかって、
おまけに入院することになっちゃってさ。
私が代打、って決まったのが3時間前。」
“そっちに迷惑かけちゃうな”とカガリが肩を落とすと、
アスランは大きく首を振った。
「そんなことはない!」
アスランらしく無い大きな声で、カガリは驚いて顔を上げ、
「カガリにまた会えたんだ、
結果的にいい巡り合わせだと思う。」
そのまま頬が染まっていくのを感じた。
ーーアスランは、会えて良かったって…思ってくれたのかな。
“そうだといいな”、とカガリははにかんだ様な笑みを浮かべた。
するとアスランは控えめに手を差し出した。
「また、一緒に頑張ろう。
よろしく。」
求められた握手に、と言うよりアスランとの接触にカガリは一瞬戸惑うが
取引先からの握手を拒む様な無礼は出来ない。
意を決して、それでもおずおずと、差し出された手に触れる程度の握手交わす。
すると、触れ合ったそばから生まれた熱が一瞬で全身を駆けていくようで、
カガリは
ーーいけないっ。
条件反射的に手を引いた。
何がいけないのかも分からないまま、それは自己防衛にも似たもので。
しかしアスランから見れば挙動不審以外の何ものでも無いことに気づいたカガリは
ーー違っ。
アスランを見上げた。
すると見覚えのある表情をしていて、はっとする。
アスランが傷ついた痛みを隠す時、こんな風に笑うんだと知っていたから。
カガリが“ごめん”と口に出そうとした瞬間、
勢いよく会議室のドアが開き、バタバタと1組の男女が入ってきた。
「遅れてスミマセン!
担当の…。」
先に入った男の方が名乗ろうとした…が、それは彼の驚きに吹き飛んだ。
「えぇ!!カガリ!??」
それはカガリも同様で、
「シン!!」
驚きと再会の喜びのままにシンはカガリを抱きしめて、
当たり前の様にカガリはシンの胸に収まった。
いや、正確にはシンの腕の中で子猫のように飛び跳ねるので全く収まっていない。
「うわぁ、シンだ!シンだ!
久しぶりだな、元気にしてたのか?」
「相変わらずだな、カガリは。」
そう言ってシンはカガリの髪をわちゃわちゃと撫で回しながら、
“ずっと元気にしてたよ”と、優しく目を細める。
「てか、カガリはいつオーブに戻ったんだよ。
てっきりスカンジナビアに居るんだと思ってた。」
カガリが口を開こうとした時、
シンの後に続いて入室してきたショートボブの女性が咳払いをした。
「いい加減、恋人が他の女とイチャイチャしてるのを見続けるのは不愉快なんですけど!」
我に帰ったカガリは慌ててシンから離れ、その拍子に目に映ったアスランの表情に真っ青になる。
何故ならアスランが不機嫌な顔をしていたからだ。
高校生の頃は腹が立つことはあっても滅多に顔に出さなかったアスランが、
今は明らかに感情を表している。
「申し訳ございませんっ!」
ガバっとカガリが頭をさげると、その頭をシンがポンポンと撫でた。
「大丈夫だよ、カガリ。
とりあえず、座って自己紹介しようぜ。」
チラリとアスランを除き見れば未だ表情は変わらずで、
シンの恋人と思われる彼女からは厳しい視線を当てられて。
共同事業第一歩目を踏み外したような気持ちになり、カガリは思わず空を仰ぎたきなった。
ーーーーーーーーーーーーーー
王道の展開ですがアスランと再会&一緒にお仕事をする事になりました(^_^;)
カガリさん、大丈夫でしょうか…?
そしてアスランの態度も気になる所です。
ぎこちない再会から2人どの関係がどう動いていくのか、見守っていただければ幸いです。
また、カガリさんはシンとも知り合いのようです。
随分仲が良さそうですが、カガリさんとシンとの関係は次回明らかになります!
ちなみに、シンはルナの彼氏さんです。
なので、アニメ本編にあったようにルナがアスランへ憧れ(?)や興味(?)を抱く事はありません。
このお話には、面倒臭いので女難も無いですよ。
メイリンは後々出てきますが、面倒臭い事にはなりませんのでご安心ください!
では、また次回もお楽しみいただければ幸いです!
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世界的な大企業であるザラコーポレーションはアスランの父親が経営する会社だ。
当然、跡取りであるアスランは大学卒業後は父親の会社に就職し、
キラが言うには、マンガの様なエリートコースを歩んでいるという。
足が竦みそうになり、カガリはふるふると首を振った。
ーーた、確かアスランは海外支社に転勤になったって、キラが言ってたし!
いくら父親が経営する会社に出入りしようと彼と関わる可能性はゼロに近いし、
共同事業にカガリが関わった事実も、この企業規模を考えればアスランの耳に入ることも無いだろう。
ーーきっと後々キラが喋ってバレるくらいで!
何とかなるなる!
“そうだ、そうだ!”とカガリは握りこぶしをブンブンと振って弱腰になった気持ちを振り切って、
ハイヒールの靴音を鳴らしてエントランスをくぐった。
いくら高校生の頃の出来事であっても、カガリにとっては現在進行形の恋であり、
永遠に続いていく失恋なのだ。
出来るだけ本人には会いたくない、これは仕事なのだ。
高校生の頃は些細な事で涙が溢れて、フレイに呆れられる程目元を赤くする毎日だった。
だから、学生カバンには化粧ポーチが欠かせなかった。
あの頃は多感な時期だったからと言えばそれまでだが、
成人して社会人になった今、彼を前に自分が自分を保てる保証は無い。
でも、それでは駄目なのだ、
ここでのパフォーマンスはカガリだけの責任に帰す訳ではない、
自分はーー
「こちらでお待ちください。」
べらぼうに美人な受付嬢に案内された会議室に腰掛け、
カガリは精神統一するように瞳を閉じて息を整えた。
ーー大切なお父様の社名を背負っているんだから。
瞳を開いて腕時計に視線を落とすと約束の時間を指した。
と、同時に控えめなノックの音が聞こえ、返事と共にカガリは立ち上がった。
「失礼します。
お待たせしてーー」
時が、止まった。
だって、あり得ないーー
「…カガリ…?」
アスランが目の前にいるのだから。
カガリは呼吸も忘れて完全にフリーズした。
鼓動が煩いほどに鼓膜を打って、訳の分からない焦りがせり上がってくる。
するとアスランは困った様な笑みを浮かべた。
その笑顔が高校生の頃にオーバーラップして、じわりと涙の予感を覚えて
カガリはぎゅっと手を握りしめた。
“もう高校生じゃないんだぞ!”と、カガリは自分を叱咤して、
「久しぶり、アスラン。」
と、何とか声を絞り出した。
彼の名を呼ぶだけで頬が染まりそうで、カガリは誤魔化すように笑って見せた。
すると、今度はアスランの方が驚いた顔をして、
カガリは自分の仕草が不自然だったのではないかと冷や汗が浮かんだ、
のを振り切るように自ら話題を振った。
「驚いたよ、キラからはニューヨークへ転勤になったって聞いてたから。」
「1ヶ月前に戻ってきたんだ。
驚いたのはこっちの方だ。
カガリはスカンジナビアで就職したんだろ、いつオーブに帰ってきたんだ。」
まるで高校生の頃の様にスルスルと会話が進んで、
カガリは落ち着きを取り戻していくのを感じる、“大丈夫だ”、そう自分に言い聞かせて。
「3日前に。
スカンジナビア支社から本社へ、3ヶ月間の出向で。」
「そうか。
でも、共同事業の担当者は別の方と聞いていたけれど…。」
「その筈だったんだけど、担当者が季節外れのインフルエンザにかかって、
おまけに入院することになっちゃってさ。
私が代打、って決まったのが3時間前。」
“そっちに迷惑かけちゃうな”とカガリが肩を落とすと、
アスランは大きく首を振った。
「そんなことはない!」
アスランらしく無い大きな声で、カガリは驚いて顔を上げ、
「カガリにまた会えたんだ、
結果的にいい巡り合わせだと思う。」
そのまま頬が染まっていくのを感じた。
ーーアスランは、会えて良かったって…思ってくれたのかな。
“そうだといいな”、とカガリははにかんだ様な笑みを浮かべた。
するとアスランは控えめに手を差し出した。
「また、一緒に頑張ろう。
よろしく。」
求められた握手に、と言うよりアスランとの接触にカガリは一瞬戸惑うが
取引先からの握手を拒む様な無礼は出来ない。
意を決して、それでもおずおずと、差し出された手に触れる程度の握手交わす。
すると、触れ合ったそばから生まれた熱が一瞬で全身を駆けていくようで、
カガリは
ーーいけないっ。
条件反射的に手を引いた。
何がいけないのかも分からないまま、それは自己防衛にも似たもので。
しかしアスランから見れば挙動不審以外の何ものでも無いことに気づいたカガリは
ーー違っ。
アスランを見上げた。
すると見覚えのある表情をしていて、はっとする。
アスランが傷ついた痛みを隠す時、こんな風に笑うんだと知っていたから。
カガリが“ごめん”と口に出そうとした瞬間、
勢いよく会議室のドアが開き、バタバタと1組の男女が入ってきた。
「遅れてスミマセン!
担当の…。」
先に入った男の方が名乗ろうとした…が、それは彼の驚きに吹き飛んだ。
「えぇ!!カガリ!??」
それはカガリも同様で、
「シン!!」
驚きと再会の喜びのままにシンはカガリを抱きしめて、
当たり前の様にカガリはシンの胸に収まった。
いや、正確にはシンの腕の中で子猫のように飛び跳ねるので全く収まっていない。
「うわぁ、シンだ!シンだ!
久しぶりだな、元気にしてたのか?」
「相変わらずだな、カガリは。」
そう言ってシンはカガリの髪をわちゃわちゃと撫で回しながら、
“ずっと元気にしてたよ”と、優しく目を細める。
「てか、カガリはいつオーブに戻ったんだよ。
てっきりスカンジナビアに居るんだと思ってた。」
カガリが口を開こうとした時、
シンの後に続いて入室してきたショートボブの女性が咳払いをした。
「いい加減、恋人が他の女とイチャイチャしてるのを見続けるのは不愉快なんですけど!」
我に帰ったカガリは慌ててシンから離れ、その拍子に目に映ったアスランの表情に真っ青になる。
何故ならアスランが不機嫌な顔をしていたからだ。
高校生の頃は腹が立つことはあっても滅多に顔に出さなかったアスランが、
今は明らかに感情を表している。
「申し訳ございませんっ!」
ガバっとカガリが頭をさげると、その頭をシンがポンポンと撫でた。
「大丈夫だよ、カガリ。
とりあえず、座って自己紹介しようぜ。」
チラリとアスランを除き見れば未だ表情は変わらずで、
シンの恋人と思われる彼女からは厳しい視線を当てられて。
共同事業第一歩目を踏み外したような気持ちになり、カガリは思わず空を仰ぎたきなった。
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王道の展開ですがアスランと再会&一緒にお仕事をする事になりました(^_^;)
カガリさん、大丈夫でしょうか…?
そしてアスランの態度も気になる所です。
ぎこちない再会から2人どの関係がどう動いていくのか、見守っていただければ幸いです。
また、カガリさんはシンとも知り合いのようです。
随分仲が良さそうですが、カガリさんとシンとの関係は次回明らかになります!
ちなみに、シンはルナの彼氏さんです。
なので、アニメ本編にあったようにルナがアスランへ憧れ(?)や興味(?)を抱く事はありません。
このお話には、面倒臭いので女難も無いですよ。
メイリンは後々出てきますが、面倒臭い事にはなりませんのでご安心ください!
では、また次回もお楽しみいただければ幸いです!
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