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幼馴染のラクスと弟のニコルは、親同士も仲が良く家が近かった事もあり、
幼少の頃から仲が良かった。
ラクスは歌が好きで、ニコルはラクスの歌に合わせてピアノを奏でるのが好きで、
アスランは2人のハーモニーが好きだった。
音楽には疎いアスランはラクスとニコルが演奏している作曲家や曲目は分からなかったが、
3人で過ごす穏やかな時間が心地良くて。
2月に開催される音楽祭には、海外アーティストや国内で有名な管弦楽団が参加する規模の大きなもので、
ラクスとニコルは特別に招待されていた。
2人の実力はもちろん、美しい容姿も話題となっていたからだ。
出演が決まってから音楽祭へ向けて練習に励み、迎えた当日。
出演時間ギリギリまでホールに隣接する公園でリハーサルをしていた2人。
『そろそろ控え室へ行こう。』
アスランが声を掛けると、返事までもハーモニーになっていて笑いあった午後。
ホールへと向かう途中で凍てつく風が吹き抜けた時、
ラクスの腕の中の譜面が曇天に舞った。
思わず駆け出したラクスは躓いて、
咄嗟に彼女を支えたアスラン。
『僕が取ってきますっ!』
そう言って歩道を駆けていったニコル。
雪を含んだ重い雲に、眩しい程白い譜面。
『いい、ニコルっ。俺が行くーー。』
アスランの言葉は衝撃音によって阻まれる。
トラックの追突によって弾き出された車がーー
ニコルの命が奪われたのは一瞬だった。
霊安室に横たわるニコルは、まるでピアノを奏でている時のように穏やかな顔をしていた。
あれだけの事故だったのに両手に傷は無く、
胸の上で組んだ指は白く美しかった。
永遠の別れを決めるのは心ではなく、
全てがオートマティカルに済まされていった。
心と、アスランとラクスを置き去りにして。
そして全てが終わって気づいたのだ、
奪われたのはニコルの命だけではない。
ニコルと共にある未来も、
大好きな穏やかな時間も、
そしてラクスの歌も。
ニコルの死によって、ラクスは歌声をなしくてしまったのだから。
それでも残酷な程正確に時は刻まれて行く。
学校の授業を受け、生徒会の仕事をし、電子工学部の後輩の面倒を見、宿題と予習をしてーー
日常を自動的にこなしていく、
と同時に、ふとした時にあの一瞬が再現前化するのを繰り返す。
あの時の風の感触も、匂いも、見た全てもーー。
その度に喪失感で麻痺した心に後悔が雪のように降り積もる。
あの時、俺が追いかければ良かった。
そしたらニコルは死なずにすんだのにーー
時計の針で夜だと気付きベッドで瞳を閉じても、朝日に瞼を開いても、
自分が眠っていたのかどうかも分からなくなった。
味覚も食欲も抜け落ちて、キラとカガリと過ごす昼休み以外に食事を取ることが出来なくなった。
日常をこなしながらもすり減る何かを感じていたことは確かで、
学校から帰るとベッドに沈むようになった。
すると決まって瞼の裏にはあの一瞬が映っては、もう何度目か分からない後悔が胸を潰す。
その痛みに瞼を強く閉じた時だった、来客を告げるベルが鳴った。
リビングにあるインターフォン画面を確認するのも億劫で、アスランは玄関のドアを開けた。
すると全身に衝撃が走り、壁に背を預けてバランスを取った。
ーーなにがおきた…?
鈍くなった五感でぼんやりとそんな事を思っていると、
カガリに抱きしめられたのだと、数学の解のように頭で理解した。
『どうしたんだ、カガリ。』
そう問えば、瞳に涙を貯めたカガリが顔を上げた。
キラキラと輝いていて、綺麗だと思った。
『1人で抱え込むなって言っただろっ!』
そう言ったきりアスランの腕の中で泣き崩れてしまったカガリを
アスランは衝動的に抱き寄せた。
飛び混んできたぬくもりに
凍てついた心が溶け出して、
どうしようもない感情をどうすることも出来なくて、
ただカガリを抱きしめた。
強く、強く。
誰にも話せなかった今までの事を、
カガリに全て話すことが出来たのは何故だろう。
喪失感も、後悔も、分類出来ない感情も…、
カガリはずっと手を繋ぎながら静かに受け止めてくれた。
気付けば泣いているのはアスランの方で、
驚いた自分に混乱した時、カガリが抱きしめてくれた。
伝わる鼓動が心地良くて、
そのまま瞳を閉じて耳を澄ましていると心が落ち着いていくのが分かった。
『ちょっと、大丈夫になったな。』
そう言って離れたぬくもりが寂しく感じたけれど、
これ以上甘える訳にもいかなくて。
『ごめん、でも、ありがとう。』
アスランは家まで送ると言ったが、カガリは駅までキラに迎えに来てもらうと言って固辞した。
玄関でトントンと靴を履くカガリの背中に、
アスランは感情ばかりが先走って言葉が出なくて押し黙る。
クルリと振り向いたカガリは、すっかり涙の乾いたアスランの目元をそっと撫でた。
『かなしい時はいつでも呼んでくれよな。
直ぐに飛んで行くから。』
カガリが出て行ったドアを見つめたまま、しばらくアスランは動けなかった。
胸に手を当てる、
この感情がかなしみなのだと知った。
やっぱりカガリは世界を変える人なんだと、アスランは思った。
漸くかなしみと向き合うことが出来るようになって、つらい事の方が多かった。
けれど、
『アスラン、今度僕の家に泊まりにおいでよ。
どうしてもクリア出来ないゲームがあってさ~。』
『またお昼はパン1つなのか!
私のおかず、半分やるから食べろよな。』
いつも賑やかな双子が日常に光を与えてくれた。
キラは事情をカガリから聞いても、変わらない距離感で接しながら見守ってくれていた。
そしてカガリはーー
『大丈夫だぞ、私がそばにいるからな。』
いつもぬくもりをくれた。
抱えきれない感情をどうしようもなくなった時、
あの日の言葉のとおり、直ぐに飛んで来て。
欲しくなれば衝動的に抱きしめる自分は、
まるで吸血鬼のようだったとも思う。
キラのいない帰り道、
2人きりの生徒会室、
眠れなかった朝ーー
アスラン自身むちゃくちゃな事をしているとの自覚はあったけれど、
自分を保つために必要だったことも理解していた、
言い訳ではなく真実として。
カガリが無条件で差し出してくれる優しさがアスランの心を支え、
キラが散らばったピースを集めるように日常を取り戻させてくれた。
この2人がいなければ自分はどうなっていたか分からない、
感謝という言葉では括れない感情が
アスランを動かした。
生徒会長の責務を最後までやり遂げた春、
電子工学部の大会への作品作りに没頭しキラと共に表彰された梅雨、
そして迎えた夏。
カガリとキラの支えがあって1人で立つことが出来るようになった、
そうして見えた自分のすべき事ーー
ニコルを亡くして以来初めて、アスランはラクスに会いにいった。
あれから半年が経っていた。
盛夏であるのにラクスは長袖のブラウスを着ていて、服の上からでもどれ程痩せたのか分かった。
うららかな春の空のような瞳はあの日の曇天のようで。
ラクスはきっと自分以上のかなしみを抱き続けているのだと、アスランは共鳴するように感じた。
ーーラクスに俺は何が出来るだろう…。
不器用な自分には、
カガリのように全身で優しさを注ぐことも、
キラのように日常へと導くこともできないだろう。
ーーきっと俺には、ラクスのそばにいることしか出来ない。
夏休みの間、アスランは毎日のようにラクスの家を訪ねた。
一輪の花を持って。
自分以上のかなしみを抱くラクスにかけられる言葉は無くて、
かつてハーモニーで溢れていた部屋は沈黙で埋まっていたけれど、
アスランはラクスの隣に座って読書をしたり、受験へ向けた勉強をしたり…。
ただそれだけだった。
ある日、アスランはラクスとニコルのピアノの部屋をこっそりと覗いた。
中に誰も立ち入れないのだろう、ピアノも譜面の入った棚も繭のように埃を纏っていた、
あの日から眠り続けるように。
扉を閉めて、アスランは奥歯を噛みしめる。
半年もラクスを1人にしたのは自分で、今も直接的な力になれずにいて。
ーーこんな時、カガリとキラだったらな…。
自分の無力さに下を向きそうになっても、アスランは自分に出来ることをやり遂げようと思った。
アスランを支えていたのは間違いなく、これまでのキラとカガリの支えがあったからだった。
晩夏を迎えた時だった。
いつもは家政婦が用意するお茶をラクスが淹れてくれたのだ。
『アスラン、お茶にいたしましょう。』
久しぶりに聞いたラクスの声にアスランの涙が滲んだ。
この日を境に、小さな野の花のような変化がゆっくりと広がっていった。
2人でいる時に細やかな会話が生まれたり、
ラクスが庭の花を摘んできたり、
クッキーを焼いてくれたり…。
いつかラクスが歌声を取り戻せる日が来ると、
信じることが出来るようになったのは、風に秋が薫るようになった頃だった。
あの日、
いつもの帰り道にキラの姿は無くて、カガリと2人で並んで歩いた。
この頃はもう、カガリやキラの支えが無くても自分を生きることが出来るようになっていて、
最後にカガリを抱きしめたのは遠い昔のように感じていた。
カガリとの関係は、
生徒会の仲間、
親友の家族、
そしてーー。
この冬を越えて、カガリはもう特別としか言いようの無い存在になっていた。
だからとても驚いたんだ。
『私達、本当に付き合っちゃおうか。』
恋を知らない自分でも意味は理解していた。
だけど、アスランの中でカガリは既に友達や恋人といった枠さえも超えた存在になっていたから、
純粋に驚きが胸を占めた。
言ったカガリも驚いた瞳をしていて、西日にキラキラと輝いていた。
その瞳に強く射抜かれる。
『私、もっとアスランと一緒にいたいんだ。』
嬉しさに全身が満たされていく。
カガリが同じ想いでいてくれること、
その幸せがアスランの微笑みをどこまでも優しくさせた。
でもーー
『ありがとう。
でも、俺はラクスのそばにいたいんだ。』
ーー今は、
あともう少しだけ。
ラクスがラクスとして生きられるように…。
恋を知らないあの頃は、カガリとキラが自分にしてくれたように、
同じかなしみを抱くラクスの力になりたいと、ただそれだけだった。
だからこんなことが言えたんだ、
誰より特別なカガリを傷つけて、
自分の本当の気持ちにも気付かずに。
ーーーーーー
アスランがカガリさんを(結果的に)振ってしまった理由は
コレだったんです。
アスランは、カガリさんとキラの支えがあったから前を向けるようになりました。
だからこそアスランはラクスの力になりたかったんですよね、
2人への感謝の分だけ強く。
カガリから「もっと一緒にいたい」と言われてアスランは心から嬉しかったけれど、
今はラクスを支える時間が必要で、
これ以上カガリとの時間を増やす事は出来ません。
だからアスランは「(今は)俺はラクスの側にいたいんだ。」と言ってしまうんですね。
もしもカガリが、「アスランの事が好きなんだ。」と告白していたら
アスランの応えは違っていたかもしれません。
そして2人の歩む道も。
にしても…アスラン、
2人きりになったら所構わずカガリさんを抱きしめちゃうって(〃ω〃)
カガリさんのこと大好きすぎでしょ。
もう〜。
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いつも筆者の物語をお読みくださり、ありがとうございます。
初めてのパロディ、しかもベタな展開で皆様退屈されているのではないかと心配です(-。-;
暇つぶしにでもお楽しみいただければ幸いです。
私自身もパロディは大好きです。
アニメ本編では、アスランもカガリもあまりに大きく重たいものを背負っています。
例え想いが通じても、世界が変わらなければ結ばれる事は難しい、
というか2人が結ばれる事を選ばないでしょう。
(そんな所が2人の魅力でもある訳ですが。)
だからこそ、パロディにはある種の救いがあると言いますか…。
まるで2人の来世を見ているような気持ちになります。
困難を乗り越え、想いが通じて結ばれる、
そんな普通の恋愛ができるのですからね。
さて、第8話からアスラン視点になりました。
え〜、皆様からのツッコミが聞こえてきそうな展開ですよね。
「じゃぁ、なんでカガリさんのことを振ったんだ、ばかぁ〜!」ってね、
私も言いたいです(^_^;)
でも、あの時のアスランには彼なりの信念があったんです。
それは次回明らかになります。
アスランの誕生日が目の前なのに幸せな展開じゃなくて申し訳ございません。
回想シーンが終われば、パロディらしいドタバタが待っていますので
今しばらくご容赦を。
さて、read more…以下でメッセージを残して下さった方への御礼です。
初めてのパロディ、しかもベタな展開で皆様退屈されているのではないかと心配です(-。-;
暇つぶしにでもお楽しみいただければ幸いです。
私自身もパロディは大好きです。
アニメ本編では、アスランもカガリもあまりに大きく重たいものを背負っています。
例え想いが通じても、世界が変わらなければ結ばれる事は難しい、
というか2人が結ばれる事を選ばないでしょう。
(そんな所が2人の魅力でもある訳ですが。)
だからこそ、パロディにはある種の救いがあると言いますか…。
まるで2人の来世を見ているような気持ちになります。
困難を乗り越え、想いが通じて結ばれる、
そんな普通の恋愛ができるのですからね。
さて、第8話からアスラン視点になりました。
え〜、皆様からのツッコミが聞こえてきそうな展開ですよね。
「じゃぁ、なんでカガリさんのことを振ったんだ、ばかぁ〜!」ってね、
私も言いたいです(^_^;)
でも、あの時のアスランには彼なりの信念があったんです。
それは次回明らかになります。
アスランの誕生日が目の前なのに幸せな展開じゃなくて申し訳ございません。
回想シーンが終われば、パロディらしいドタバタが待っていますので
今しばらくご容赦を。
さて、read more…以下でメッセージを残して下さった方への御礼です。
ドングリ さま
はじめまして、筆者のxiaoxueです。
いつも筆者の物語をお読みくださりありがとうございます。
この物語を気に入ってくださり、とても嬉しいです!
カガリさんとアスランの片思い(と勘違いしている展開)のお話って
切なくていいですよね。
2人とも自分よりも相手の事を思いやってしまうからなかなか手を伸ばせない…。
今回はそんな2人のすれ違いを描いています。
ツッコミ所満載なので、
「おいおい、アスラン!違うでしょ〜!」とか
「いやいや、待ってよカガリさん〜!」と
ツッコミながら読み進めていただければと思います。
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「…、カガリ…?」
いきなり肩にもたれかかってきたカガリを
アスランはとっさに支えた。
見れば、長い睫毛に真珠のように丸い涙を乗せたまま寝息をたてている。
瞬時に、アスランはほぼ空になったデザートカクテルのグラスからバルドフェルドへ鋭い視線を向けた。
「どういうことですか。」
静かな分だけ凄みの増した声に、バルドフェルドはウィンクで応え、
アスランはため息をこぼした。
カガリが誕生日を祝えなかったようなので、バルドフェルドにデザートカクテルをオーダーしたのはアスランだ。
だが、酔潰れる程強い酒を出せとは言っていない。
ーーハメられた。
バルドフェルドはアスランがカガリをお持ち帰りできるよう気を利かせたつもりだろうが。
ーーどうすれば…。
そんなアスランの心の声を読んでか知らずか、
バルドフェルドは予言のように助言する。
「ベッドで愛の言葉を囁けばいい。
そうすれば、きっと2人は幸せになれることでしょう。」
呆れた、と顔に書いてアスランはバルドフェルドに返した。
「聞いていたでしょう、
カガリには他に想う人が…、いるんですから。」
アカガリの顔を覗けば、まるで天使のように無垢な表情をしているからこそ、
浮かべた涙に切なさを覚える。
どれ程つらい恋をしているのだろうかと。
そして同時にアスラン胸を後悔が満たしていく。
アスランはジャケットに手をいれると、バルドフェルドは“ノンノン!”と人差し指を振った。
「今日は私がご馳走するよ。
その代わり、今度カガリ姫を連れてカフェの方へ来てくれよ。
デートに誘って、ね。」
ーーこの人は何も聞いていなかったのだろうか。
アスランはあからさまにため息をついた後に、
「お言葉に甘えて。
カガリにカフェを紹介しておきます、
ただし、俺が一緒に行けるかは約束出来ませんが。」
アスランは釘を刺して、カガリを抱えて店を出た。
何度声をかけても起きる気配は無く、
3日前にスカンジナビアから帰国したばかりだということを考えれば、
このまま気持ち良く寝かせてあげたいというのが本音で。
でも、
ーー何処に向かえばいい。
ビジネスホテルに宿泊するにしても金曜の夜に空きがある保証は無く、
ーー俺の家…しか無い、か。
消去法で決定した行き先を、捕まえタクシーの運転手に告げた。
キラからカガリを紹介されたのは、高校1年生の春だった。
『僕の双子の妹がね、オーブで僕と一緒に住むことになったんだ!』
キラは幼い頃に両親を亡くし、双子の妹とは別々に引き取られて育ったと聞いていた。
しかも、妹の方は親の仕事の都合で海外におり気軽に会える状況では無かったという。
その環境は妹にとっても寂しかったのであろう、
彼女はキラと高校生活を送るために単身で親元を離れ、キラの家に住むことなったらしい。
『父さんも母さんも、カガリを迎えるためにお家をリフォームしちゃいそうな勢いで!』
飛び上がる程喜んでいたキラを見ながら、
アスランは、自分の世界を変えるような女の子の行動力に、素直にすごいと思っていた。
つい先日まで中学生だったアスランにとって親という存在はあまりにも大きく、
大げさかもしれないが世界を形作る神様のようで、
自らぶつかって動かそうなんて考えも無かった。
ーーどんな子だろう。
アスランの胸に落ちた小さな感情、
それは、
『はじめまして、カガリだ!
よろしくなっ。』
キラキラとした太陽のような笑顔に
呼び起こされるように芽吹いた。
海外を飛び回っていたということもあって、数カ国語を操る彼女は国際政治に興味があるため文系クラスを選択し、
理系特進クラスであるキラとアスランとは別々のクラスであり、
カガリはバレー部に入部し、
キラとアスランは中学から引き続き電子工学部に入ってたため、
当初アスランは、カガリとは学校生活での接点はほとんど無いだろうと思っていた。
しかし、
『おーい、アスランいるかー?』
と、フツーにアスランのクラスに入り込んでは数学の質問をしたり、
『お弁当、一緒に食べるぞ。
その後は一緒にバスケしよう!球技大会へ向けて特訓しないとな!』
と、昼休みを一緒に過ごしたり。
あまりにも自然にアスランの生活に溶け込むので、
人付き合いがあまり得意ではないアスランは驚きの連続であったが、
変わっていく毎日と変わっていく自分が心地よく、何より楽しかった。
だから、高校1年生の秋に両親が海外転勤になったため実家に1人で残ることになっても、
アスランは寂しくも心細くも無かった。
高校2年生の春、電子工学部の先輩にハメられて生徒会長に立候補せざるを得なくなった。
これまで、学級委員や委員会の役員等を押し付けられて引き受けた事はあっても、自ら手を上げた事は無かった。
そんなアスランが煮え切らない思いと不安とプレッシャーと苛立ちと、
そんなぐちゃぐちゃな感情のまま立候補する罪悪感に苛まれていた時、
前を向くよう背中を押してくれたのはカガリだった。
『いいじゃないか!
アスランが生徒会長になったら、きっとこの学校はもっと良くなるよ。
学校が良くなれば、毎日が楽しくなって、
友達や先生やこの学校をもっと好きになる子がいっぱい出てくるよ!』
『そんな、世界を変えるような事、俺には…。』
と、万有引力よりも強い力で落ちた視線は、強制的にカガリによって持ち上げられた。
カガリがアスランの手を取っていたのだ。
『大丈夫、アスランを1人にはしない、私もキラも手伝うから!
でもな、これはアスランがいなくちゃ出来ないんだ。』
その時のキラの絶叫よりも、カガリの言葉の方がずっとアスランの胸に響いた。
自らの意思で就いた生徒会長という役割によって、
文字通りアスランの世界は変わった。
定例の雑務に加えて、学校行事、突発的な案件への対処に想像以上の時間と労力を要し、
何より今まで使ったことの無い範疇の能力を求められて。
それでも立ち止まらずに続けてこられたのは、副会長のカガリと庶務係のキラが支えてくれたからだった。
特にカガリは、2年生の秋からバレー部主将になって益々忙しくなった筈なのに。
アスランは事務処理能力がありすぎる上にこういった立場に不慣れで、
元々奥手な性格も相まってか、他のメンバーに仕事を振れずにいることがあった。
1人で黙々と作業をしていると何処からともなくカガリが現れて、
『仕事を1人で抱え込むなって言ってるだろ!
少しは手伝わせろよ。』
と叱られて、いつもアスランは困ったように笑って。
『笑い事じゃないって!
アスランは優秀なのにどこか抜けてて、
優しすぎるくらい人の気持ちに敏感なのに、自分の事は鈍感で。
放っておけないよ。』
この言葉だけでも、どれ程カガリがアスランのことを見ていたのか分かる。
だから嬉しかったんだ、
突然生徒会室に飛び込んできた君の顔も、
俺のことを叱ってくれる君の声も、
太陽のようにあたたかい眼差しも、
全部。
だけど、この時はまだ恋を知らなくて。
でも、確かにアスランの胸の中でカガリは特別な存在になっていた、
その関係に名前が無いだけで。
ーーーーー
更新が1日遅れてしまって申し訳ございません。
子どもがアデノウイルスに感染しましててんやわんやでした。
さて、予告通りアスラン視点のお話がスタートしました。
時間軸は高校時代、何だか可愛らしいカガリさんとアスランです。
カガリさんはキラキラしていて、アスランはバカがつくほど誠実で。
(そしてキラ兄様に和む筆者)
この時の2人は、輝くような時の中で楽しい日々を過ごしていました。
が、次回、2人の関係が変化していく出来事が起こります。
以前にもお伝えしましたが、
この物語には2人の邪魔をするような人物は登場しませんので
安心して読み進めていただければと思います。
次回は金曜日に更新する予定です。
拍手と共にコメントを残してくださった方へのお返事は後程させていただきますね。
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「Happy birthday!」
マスターがカガリのコースターに置いたのはデザートカクテル。
色とりどりのフルーツにジュレがキラキラと輝いて、まるで宝石のようだ。
「ぅっわぁ。」
カガリにぱぁっと笑顔の花が咲く。
「お誕生日おめでとう、カガリ。」
穏やかな笑顔のアスランに、
“ありがとう”と、カガリはほんのりと頬を染めた。
雫の音 - shizuku no ne - 7
マスターがカガリのコースターに置いたのはデザートカクテル。
色とりどりのフルーツにジュレがキラキラと輝いて、まるで宝石のようだ。
「ぅっわぁ。」
カガリにぱぁっと笑顔の花が咲く。
「お誕生日おめでとう、カガリ。」
穏やかな笑顔のアスランに、
“ありがとう”と、カガリはほんのりと頬を染めた。
雫の音 - shizuku no ne - 7
スイーツは世界平和だと、カガリは本気で思う。
だって、さっきまでの痛みも滲んだ涙も全部空へ飛ばしてしまうから。
「んまぁ〜いっ!」
一つひとつのフルーツが口の中で弾けて、思わずカガリは瞳を閉じた。
すると、フルーツのきらめきが瞼にさえも映るようで。
「マスターは魔法使いみたいだな!」
「最大の賛辞をありがとうございます、姫。」
「もう、からかうなよっ。」
口を尖らせたカガリに、バルドフェルドは人差し指を“ノンノン”と振った。
「私は真面目に言ってるのだよ。
だって、アスラン君が連れて来たってことは“ソウイウコト”、だろ?」
ウインクを飛ばしたバルドフェルドに、アスランはため息を漏らした。
「カガリを困らせないでください。
“ソウイウ”関係では無いんですから…。」
カガリは話の流れから、バルドフェルドはカガリの事をアスランの恋人か何かと勘違いしているのだと悟り、
慌てて両手を振り全力で否定した。
「そうだぞ!
私とアスランはただの同級生で、友達で!!
恋人とか、そういう関係だって勘違いされたら、アスランに迷惑かけちゃうだろ!!」
“なっ。”と、カガリが同意を求めるようにアスランに視線を向けても、
アスランは“えっ、いや。”と歯切れの悪い返事をし、
焦ったカガリが口走ったのは、自分の制御を超えた内容だった。
「だいたい、アスランには恋人や好きな人がいるかもしれないしっ。」
カガリの胸の内は一気に冷え切って、なのに焦りが体を熱くして、
そのアンバランスさの中で聞きたくもないアスランの答えを待たなければならず、
思わず顔を覆いたくなった。
ーーうわぁ、もう、サイアクだっ。
「恋人はいないよ。」
先程の曖昧な返事とは違い、アスランははっきりと答えた。
「…え。」
それ程誤解されたくなかったんだと、素直にツキンと痛んだ胸にカガリは苦笑する。
ーーそりゃ、昔振った女を恋人と勘違いされたら嫌だよな。
と、普通に考えれば当たり前の事なのに。
ーーそれに…。
カガリはデザートカクテルをクルリと一混ぜして口に運んだ。
アスランは恋人“は”いないと言った。
だからもしかしたら、好きな人はいるのかもしれない。
「好きな人は、いるけど。」
ーーほら、やっぱり。
本当に、このデザートカクテルがあって良かったとカガリは思う。
自分の蒔いた種で勝手に傷つくなんてめちゃくちゃでボロボロだから、
せめてこの魔法のようなお酒に身を委ねてしまいたい。
「アスランなら、大丈夫だよ。」
それはカガリの素直な言葉だった。
減ってしまったデザートカクテルに視線を置いたままカガリは続ける。
「きっと想いは届くから。」
“どう…かな。”とアスランは視線を下げた。
アスランの表情は、何故だろう後悔の色が深く見えて、カガリの胸は共鳴するように軋む。
「その人とは、ずっと離れていて…。
でも、ずっと忘れられなくて。」
カガリの脳裏に、会議室でのアスランの表情がフラッシュバックする。
高校3年生の文化祭の写真をシンとルナと一緒に見ていた時、
アスランはどこか寂しそうな顔をしていた。
ーーアスランは今でもラクスの事を…。
あれはカガリが大学2年生になる前、
ラクスが声楽の勉強のためにパリへ渡ったとキラを通して聞いた。
キラはアスランと一緒に空港へ見送りに行ったのだ。
ラクスは音楽家になるまではオーブに戻らないと決意していたという。
ラクスに対し澄んだ泉のように清らかな印象をもっていたカガリは、
彼女の決意にしなやかな強さを感じて、勝手に励まされていた。
世界の歌姫と称されるラクスは今でもヨーロッパを拠点に活躍しており、
オーブに帰国したとの知らせは無い。
アスランは、彼女の意思を何よりも大切にしたことだろう、
自分の想いは胸に仕舞って離れることを選んで。
ラクスと一緒に居られない痛みは、想いの分だけ強く、深くーー
そんな痛みをアスランはずっと抱き続けているんだ。
「それでも、アスランなら大丈夫だ。」
アスランに前を向いてほしくて、カガリはカウンターの上のアスランの手を取った。
「きっと、一緒に居られる時が来たら、
絶対、アスランのことを好きになってくれる。
諦めちゃダメだっ!」
高校3年生の文化祭の時、アスランがラクスに向けていた眼差しを忘れない。
彼女を守るんだって、アスランの意思をこの目で見たからーー
「カガリ…。」
カガリは滲みそうになる瞳を誤魔化すように、
“つい、熱くなっちゃったな。”と言って、パタパタと両手で顔をあおいで、
「アスランの恋は叶ってほしいんだ。
私のは、無理だから。」
ポツリとこぼしたカガリの本音、切なさは隠せなかった。
「無理って…?」
「私にも、忘れられない人がいるんだ。」
ーー私はずっと、アスランのことが好きで、
「でも、その人には心に決めた人がいて…。」
ーーアスランはラクスを想っていて、
「最初から、叶わない恋だったんだ。」
ーー高校生だったあの頃も、
大人になった今も。
「だから、アスランには諦めないでほしいんだ。
きっと叶うって、祈っているから。」
涙の予感がする。
視界は心を映した様に揺らめく。
止まらない想いは、永遠に繰り返させる失恋に変わる。
分かっていても、止まらない。
雫の音が聴こえた時、
カガリは意識を手放した。
ーーーーーーーー
アスランにも忘れられない人がいたんですね。
その痛みを十二分に知るカガリさんは、
アスランの話を聞いて共鳴するように胸を痛めます。
と同時に、アスランを好きでいる限り、失恋は永遠に続いていくことを思い知る・・・。
なんて、ちょっとつらすぎます(>_<)
ですが、アスランの言葉をよくよく思い返してみると…?
次回はアスラン視点のお話です。
追記を閉じる▲
アスランの “少し飲んで帰らないか” の言葉に、
自分と同じ気持ちだったらいいのにと思う。
もう少しだけ、一緒に居たいと。
アスランが向かったバーはクラシカル…なのに
どこか少し変わった雰囲気の店だった。
その原因はこの人であろう、
「やぁ、アスランくん、いらっしゃい。
おやぁ、今日はお姫様をお連れかい?」
カウンターの中にいるのにバーテンダーではなく、
派手なシャツに右手にはコーヒーカップを持っている。
「今晩は、バルドフェルドさん。」
アスランの声に親しみを感じ、
カガリはこの店は彼の行きつけなのかもしれないと思う。
だとしたら失礼があってはいけないと、
アスランに続いてカガリも挨拶をした。
「はじめまして、カガリです。」
「よろしく、カガリさん。」
と、右手を差し出され握手を交わす。
彼の手はまるで職人のようだと、カガリは思った。
カウンターに並んで腰掛けたタイミングで、
バーテンダーがメニューをさし出そうとすると
バルドフェルドは“ノンノン!”と人差し指を左右に振った。
「今日は私めにお任せいただいてもよろしいですかな、姫。」
と、おとぎ話のお姫様のような扱いをされてカガリはたじろぐ。
それを横目に、アスランはクスクスと笑みをこぼした。
「大丈夫だよ、カガリ。
俺も、今日はマスターのお任せで。」
すると満足したのか、バルドフェルドは派手なシャツの袖を直して
シェイカーを手に取った。
程なくしてマスター特製カクテルが仲良く並んだ。
カガリの前には青みがかったエメラルドグリーンのカクテルにチェリーが添えられ、
アスランの前には繊細な琥珀色のカクテルに、ソルトであろうか飲み口がキラキラと輝いている。
アスランはグラスをカガリの方へ傾けて、
「おかえり、カガリ。」
と乾杯の仕草を見せ、
カガリははにかんだような笑みを浮かべて
「ただいま。」
と応えた。
そうして気づくのだ、オーブに帰国して“ただいま”と言ったのは、
今この時が初めてだったことに。
カガリがカクテルを口にすると、アスランが“大丈夫”と言った通り
オートクチュールのように今の自分に寄り添うもので驚いた。
それだけではない、体の内側からシャンパンの気泡のようにキラキラとしたものが立ち上るような、
そんな不思議な感覚がする。
春に芽吹くように、心が開いていくような。
だからだろう、きっといつもの自分だったら話さないであろう言葉が素直に出てくる。
「誕生日の3日前に振られちゃって…さ。
開き直ってパーティーしちゃおう!って気にもならなくて。」
沈みそうな空気を軽くするために付け加えた笑い声は乾いたもので、
カガリは素直にため息を漏らした。
一口だけ残したグラスを見詰めながら、カガリはポツリとこぼす。
だから、アスランがコースターも裏に走り書きをしマスターに渡したのには気づかなかった。
「いつも、こうなっちゃう。
分かっているのに…。」
「いつも…って?」
遠慮がちに、でも、アスランにしては珍しく踏み込んできてカガリは驚いたが、
それ以上に、素直に応えてしまう自分に驚くのだった。
全部このカクテルのせいだろうか。
「気持ちに応えたいのに、それが出来なくて、
結局相手を傷つけて終わっちゃう。
今度こそ頑張ろうって思っても、ダメで…。」
「それって、少し変じゃないか。」
アスランの思わぬ返しにカガリは彼を見た。
すると、彼もまた空になりそうなカクテルグラスを見詰めていた。
「だって、カガリの想いがそこにあれば、それだけで相手は幸せだと思う。
応えたいとか、頑張ろうとか、 思わなくてもいい、
自分に真っ直ぐ気持ちを向けてくれるだけでいいんだ。」
アスランの言葉に貫かれて、じわり、涙が滲んだ。
どんなに頑張っても、長続きすることも、相手を幸せにすることも出来ない筈だ、
ーーだって、私の心の真ん中にはいつも……
ふいに、シンの声が脳裏に響いた。
『カガリの1番に、どうやっても俺はなれないって、分かったんだ。
だから、友達に戻ろう。』
あれはスカンジナビアに留学していた頃、
シンの熱意に押し切られる形で付き合い始めたけれど、
結局別れを切り出したのもシンの方だった。
どんなに頑張っても親しくなってもハグ止まり、キスも出来ないーー
年頃の男の子にとってはつまらない付き合いだったとカガリは思う。
だけどそれ以上はーー
ーーだから無理だったんだ…。
“俺だったら、そう思うけど。”と、少し恥ずかしそうに言ったアスランは、
カガリを見て固まった。
琥珀色の瞳に溜まった涙が今にも零れ落ちそうでーー
「ごめん、無神経だった。」
ーーアスランの、こんな誠実さも大好きなんだ。
カガリはふるふると首を振った。
「いいんだ、アスランの言う通りだと思うから。」
誰と付き合っても、カガリの想いはただ1人に向けられていて、
どんなに頑張っても想いのベクトルを努力や力で変えられる筈も無い。
だから相手を幸せに出来ず、
カガリ自身が幸せになることも無い。
それでもカガリが交際を受け入れてきたのは、
アスランを忘れたかったからではない、
相手の気持ちに応えたかったからだ。
ーーだって、みんな本当に優しくて、いいやつで、
一生懸命、真っ直ぐに気持ちを向けてくれて…。
そして、別れを切り出すのはいつも相手の方で、
別れた後はシンのように友達に戻っていった。
カガリは相手を傷付けた罪悪感に胸を痛めつつ、
友達として付き合ってくれる彼らに心から感謝していた、“本当にいいやつだ”と。
そして、アスランの言葉で思い知るのだ、
きっと自分は誰かを幸せにする事は出来ないんだと。
心の真ん中にアスランがいる限り。
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いつもお読みくださる数少ない読者の皆様、ありがとうございます。
カガリさんは空になりかけのグラスのように
満たされない想いを抱えています。
アスランからのアドバイスは、カガリさんにとっては残酷なものでした。
だって、心からまっすぐに相手に思いを向ける事はアスラン以外に出来ない、
つまりカガリさんは誰も幸せに出来ないって事ですから。
こらこらアスラン、あんまりカガリさんを悲しませると許しませんよ(-_-#)
一方でアスランもまた満たされない想いを抱いているようですが…?
次回の更新は金曜日を予定しています!
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