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アスランの “少し飲んで帰らないか” の言葉に、
自分と同じ気持ちだったらいいのにと思う。
もう少しだけ、一緒に居たいと。
アスランが向かったバーはクラシカル…なのに
どこか少し変わった雰囲気の店だった。
その原因はこの人であろう、
「やぁ、アスランくん、いらっしゃい。
おやぁ、今日はお姫様をお連れかい?」
カウンターの中にいるのにバーテンダーではなく、
派手なシャツに右手にはコーヒーカップを持っている。
「今晩は、バルドフェルドさん。」
アスランの声に親しみを感じ、
カガリはこの店は彼の行きつけなのかもしれないと思う。
だとしたら失礼があってはいけないと、
アスランに続いてカガリも挨拶をした。
「はじめまして、カガリです。」
「よろしく、カガリさん。」
と、右手を差し出され握手を交わす。
彼の手はまるで職人のようだと、カガリは思った。
カウンターに並んで腰掛けたタイミングで、
バーテンダーがメニューをさし出そうとすると
バルドフェルドは“ノンノン!”と人差し指を左右に振った。
「今日は私めにお任せいただいてもよろしいですかな、姫。」
と、おとぎ話のお姫様のような扱いをされてカガリはたじろぐ。
それを横目に、アスランはクスクスと笑みをこぼした。
「大丈夫だよ、カガリ。
俺も、今日はマスターのお任せで。」
すると満足したのか、バルドフェルドは派手なシャツの袖を直して
シェイカーを手に取った。
程なくしてマスター特製カクテルが仲良く並んだ。
カガリの前には青みがかったエメラルドグリーンのカクテルにチェリーが添えられ、
アスランの前には繊細な琥珀色のカクテルに、ソルトであろうか飲み口がキラキラと輝いている。
アスランはグラスをカガリの方へ傾けて、
「おかえり、カガリ。」
と乾杯の仕草を見せ、
カガリははにかんだような笑みを浮かべて
「ただいま。」
と応えた。
そうして気づくのだ、オーブに帰国して“ただいま”と言ったのは、
今この時が初めてだったことに。
カガリがカクテルを口にすると、アスランが“大丈夫”と言った通り
オートクチュールのように今の自分に寄り添うもので驚いた。
それだけではない、体の内側からシャンパンの気泡のようにキラキラとしたものが立ち上るような、
そんな不思議な感覚がする。
春に芽吹くように、心が開いていくような。
だからだろう、きっといつもの自分だったら話さないであろう言葉が素直に出てくる。
「誕生日の3日前に振られちゃって…さ。
開き直ってパーティーしちゃおう!って気にもならなくて。」
沈みそうな空気を軽くするために付け加えた笑い声は乾いたもので、
カガリは素直にため息を漏らした。
一口だけ残したグラスを見詰めながら、カガリはポツリとこぼす。
だから、アスランがコースターも裏に走り書きをしマスターに渡したのには気づかなかった。
「いつも、こうなっちゃう。
分かっているのに…。」
「いつも…って?」
遠慮がちに、でも、アスランにしては珍しく踏み込んできてカガリは驚いたが、
それ以上に、素直に応えてしまう自分に驚くのだった。
全部このカクテルのせいだろうか。
「気持ちに応えたいのに、それが出来なくて、
結局相手を傷つけて終わっちゃう。
今度こそ頑張ろうって思っても、ダメで…。」
「それって、少し変じゃないか。」
アスランの思わぬ返しにカガリは彼を見た。
すると、彼もまた空になりそうなカクテルグラスを見詰めていた。
「だって、カガリの想いがそこにあれば、それだけで相手は幸せだと思う。
応えたいとか、頑張ろうとか、 思わなくてもいい、
自分に真っ直ぐ気持ちを向けてくれるだけでいいんだ。」
アスランの言葉に貫かれて、じわり、涙が滲んだ。
どんなに頑張っても、長続きすることも、相手を幸せにすることも出来ない筈だ、
ーーだって、私の心の真ん中にはいつも……
ふいに、シンの声が脳裏に響いた。
『カガリの1番に、どうやっても俺はなれないって、分かったんだ。
だから、友達に戻ろう。』
あれはスカンジナビアに留学していた頃、
シンの熱意に押し切られる形で付き合い始めたけれど、
結局別れを切り出したのもシンの方だった。
どんなに頑張っても親しくなってもハグ止まり、キスも出来ないーー
年頃の男の子にとってはつまらない付き合いだったとカガリは思う。
だけどそれ以上はーー
ーーだから無理だったんだ…。
“俺だったら、そう思うけど。”と、少し恥ずかしそうに言ったアスランは、
カガリを見て固まった。
琥珀色の瞳に溜まった涙が今にも零れ落ちそうでーー
「ごめん、無神経だった。」
ーーアスランの、こんな誠実さも大好きなんだ。
カガリはふるふると首を振った。
「いいんだ、アスランの言う通りだと思うから。」
誰と付き合っても、カガリの想いはただ1人に向けられていて、
どんなに頑張っても想いのベクトルを努力や力で変えられる筈も無い。
だから相手を幸せに出来ず、
カガリ自身が幸せになることも無い。
それでもカガリが交際を受け入れてきたのは、
アスランを忘れたかったからではない、
相手の気持ちに応えたかったからだ。
ーーだって、みんな本当に優しくて、いいやつで、
一生懸命、真っ直ぐに気持ちを向けてくれて…。
そして、別れを切り出すのはいつも相手の方で、
別れた後はシンのように友達に戻っていった。
カガリは相手を傷付けた罪悪感に胸を痛めつつ、
友達として付き合ってくれる彼らに心から感謝していた、“本当にいいやつだ”と。
そして、アスランの言葉で思い知るのだ、
きっと自分は誰かを幸せにする事は出来ないんだと。
心の真ん中にアスランがいる限り。
ーーーーーー
いつもお読みくださる数少ない読者の皆様、ありがとうございます。
カガリさんは空になりかけのグラスのように
満たされない想いを抱えています。
アスランからのアドバイスは、カガリさんにとっては残酷なものでした。
だって、心からまっすぐに相手に思いを向ける事はアスラン以外に出来ない、
つまりカガリさんは誰も幸せに出来ないって事ですから。
こらこらアスラン、あんまりカガリさんを悲しませると許しませんよ(-_-#)
一方でアスランもまた満たされない想いを抱いているようですが…?
次回の更新は金曜日を予定しています!
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アスランの “少し飲んで帰らないか” の言葉に、
自分と同じ気持ちだったらいいのにと思う。
もう少しだけ、一緒に居たいと。
アスランが向かったバーはクラシカル…なのに
どこか少し変わった雰囲気の店だった。
その原因はこの人であろう、
「やぁ、アスランくん、いらっしゃい。
おやぁ、今日はお姫様をお連れかい?」
カウンターの中にいるのにバーテンダーではなく、
派手なシャツに右手にはコーヒーカップを持っている。
「今晩は、バルドフェルドさん。」
アスランの声に親しみを感じ、
カガリはこの店は彼の行きつけなのかもしれないと思う。
だとしたら失礼があってはいけないと、
アスランに続いてカガリも挨拶をした。
「はじめまして、カガリです。」
「よろしく、カガリさん。」
と、右手を差し出され握手を交わす。
彼の手はまるで職人のようだと、カガリは思った。
カウンターに並んで腰掛けたタイミングで、
バーテンダーがメニューをさし出そうとすると
バルドフェルドは“ノンノン!”と人差し指を左右に振った。
「今日は私めにお任せいただいてもよろしいですかな、姫。」
と、おとぎ話のお姫様のような扱いをされてカガリはたじろぐ。
それを横目に、アスランはクスクスと笑みをこぼした。
「大丈夫だよ、カガリ。
俺も、今日はマスターのお任せで。」
すると満足したのか、バルドフェルドは派手なシャツの袖を直して
シェイカーを手に取った。
程なくしてマスター特製カクテルが仲良く並んだ。
カガリの前には青みがかったエメラルドグリーンのカクテルにチェリーが添えられ、
アスランの前には繊細な琥珀色のカクテルに、ソルトであろうか飲み口がキラキラと輝いている。
アスランはグラスをカガリの方へ傾けて、
「おかえり、カガリ。」
と乾杯の仕草を見せ、
カガリははにかんだような笑みを浮かべて
「ただいま。」
と応えた。
そうして気づくのだ、オーブに帰国して“ただいま”と言ったのは、
今この時が初めてだったことに。
カガリがカクテルを口にすると、アスランが“大丈夫”と言った通り
オートクチュールのように今の自分に寄り添うもので驚いた。
それだけではない、体の内側からシャンパンの気泡のようにキラキラとしたものが立ち上るような、
そんな不思議な感覚がする。
春に芽吹くように、心が開いていくような。
だからだろう、きっといつもの自分だったら話さないであろう言葉が素直に出てくる。
「誕生日の3日前に振られちゃって…さ。
開き直ってパーティーしちゃおう!って気にもならなくて。」
沈みそうな空気を軽くするために付け加えた笑い声は乾いたもので、
カガリは素直にため息を漏らした。
一口だけ残したグラスを見詰めながら、カガリはポツリとこぼす。
だから、アスランがコースターも裏に走り書きをしマスターに渡したのには気づかなかった。
「いつも、こうなっちゃう。
分かっているのに…。」
「いつも…って?」
遠慮がちに、でも、アスランにしては珍しく踏み込んできてカガリは驚いたが、
それ以上に、素直に応えてしまう自分に驚くのだった。
全部このカクテルのせいだろうか。
「気持ちに応えたいのに、それが出来なくて、
結局相手を傷つけて終わっちゃう。
今度こそ頑張ろうって思っても、ダメで…。」
「それって、少し変じゃないか。」
アスランの思わぬ返しにカガリは彼を見た。
すると、彼もまた空になりそうなカクテルグラスを見詰めていた。
「だって、カガリの想いがそこにあれば、それだけで相手は幸せだと思う。
応えたいとか、頑張ろうとか、 思わなくてもいい、
自分に真っ直ぐ気持ちを向けてくれるだけでいいんだ。」
アスランの言葉に貫かれて、じわり、涙が滲んだ。
どんなに頑張っても、長続きすることも、相手を幸せにすることも出来ない筈だ、
ーーだって、私の心の真ん中にはいつも……
ふいに、シンの声が脳裏に響いた。
『カガリの1番に、どうやっても俺はなれないって、分かったんだ。
だから、友達に戻ろう。』
あれはスカンジナビアに留学していた頃、
シンの熱意に押し切られる形で付き合い始めたけれど、
結局別れを切り出したのもシンの方だった。
どんなに頑張っても親しくなってもハグ止まり、キスも出来ないーー
年頃の男の子にとってはつまらない付き合いだったとカガリは思う。
だけどそれ以上はーー
ーーだから無理だったんだ…。
“俺だったら、そう思うけど。”と、少し恥ずかしそうに言ったアスランは、
カガリを見て固まった。
琥珀色の瞳に溜まった涙が今にも零れ落ちそうでーー
「ごめん、無神経だった。」
ーーアスランの、こんな誠実さも大好きなんだ。
カガリはふるふると首を振った。
「いいんだ、アスランの言う通りだと思うから。」
誰と付き合っても、カガリの想いはただ1人に向けられていて、
どんなに頑張っても想いのベクトルを努力や力で変えられる筈も無い。
だから相手を幸せに出来ず、
カガリ自身が幸せになることも無い。
それでもカガリが交際を受け入れてきたのは、
アスランを忘れたかったからではない、
相手の気持ちに応えたかったからだ。
ーーだって、みんな本当に優しくて、いいやつで、
一生懸命、真っ直ぐに気持ちを向けてくれて…。
そして、別れを切り出すのはいつも相手の方で、
別れた後はシンのように友達に戻っていった。
カガリは相手を傷付けた罪悪感に胸を痛めつつ、
友達として付き合ってくれる彼らに心から感謝していた、“本当にいいやつだ”と。
そして、アスランの言葉で思い知るのだ、
きっと自分は誰かを幸せにする事は出来ないんだと。
心の真ん中にアスランがいる限り。
ーーーーーー
いつもお読みくださる数少ない読者の皆様、ありがとうございます。
カガリさんは空になりかけのグラスのように
満たされない想いを抱えています。
アスランからのアドバイスは、カガリさんにとっては残酷なものでした。
だって、心からまっすぐに相手に思いを向ける事はアスラン以外に出来ない、
つまりカガリさんは誰も幸せに出来ないって事ですから。
こらこらアスラン、あんまりカガリさんを悲しませると許しませんよ(-_-#)
一方でアスランもまた満たされない想いを抱いているようですが…?
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