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「…、カガリ…?」
いきなり肩にもたれかかってきたカガリを
アスランはとっさに支えた。
見れば、長い睫毛に真珠のように丸い涙を乗せたまま寝息をたてている。
瞬時に、アスランはほぼ空になったデザートカクテルのグラスからバルドフェルドへ鋭い視線を向けた。
「どういうことですか。」
静かな分だけ凄みの増した声に、バルドフェルドはウィンクで応え、
アスランはため息をこぼした。
カガリが誕生日を祝えなかったようなので、バルドフェルドにデザートカクテルをオーダーしたのはアスランだ。
だが、酔潰れる程強い酒を出せとは言っていない。
ーーハメられた。
バルドフェルドはアスランがカガリをお持ち帰りできるよう気を利かせたつもりだろうが。
ーーどうすれば…。
そんなアスランの心の声を読んでか知らずか、
バルドフェルドは予言のように助言する。
「ベッドで愛の言葉を囁けばいい。
そうすれば、きっと2人は幸せになれることでしょう。」
呆れた、と顔に書いてアスランはバルドフェルドに返した。
「聞いていたでしょう、
カガリには他に想う人が…、いるんですから。」
アカガリの顔を覗けば、まるで天使のように無垢な表情をしているからこそ、
浮かべた涙に切なさを覚える。
どれ程つらい恋をしているのだろうかと。
そして同時にアスラン胸を後悔が満たしていく。
アスランはジャケットに手をいれると、バルドフェルドは“ノンノン!”と人差し指を振った。
「今日は私がご馳走するよ。
その代わり、今度カガリ姫を連れてカフェの方へ来てくれよ。
デートに誘って、ね。」
ーーこの人は何も聞いていなかったのだろうか。
アスランはあからさまにため息をついた後に、
「お言葉に甘えて。
カガリにカフェを紹介しておきます、
ただし、俺が一緒に行けるかは約束出来ませんが。」
アスランは釘を刺して、カガリを抱えて店を出た。
何度声をかけても起きる気配は無く、
3日前にスカンジナビアから帰国したばかりだということを考えれば、
このまま気持ち良く寝かせてあげたいというのが本音で。
でも、
ーー何処に向かえばいい。
ビジネスホテルに宿泊するにしても金曜の夜に空きがある保証は無く、
ーー俺の家…しか無い、か。
消去法で決定した行き先を、捕まえタクシーの運転手に告げた。
キラからカガリを紹介されたのは、高校1年生の春だった。
『僕の双子の妹がね、オーブで僕と一緒に住むことになったんだ!』
キラは幼い頃に両親を亡くし、双子の妹とは別々に引き取られて育ったと聞いていた。
しかも、妹の方は親の仕事の都合で海外におり気軽に会える状況では無かったという。
その環境は妹にとっても寂しかったのであろう、
彼女はキラと高校生活を送るために単身で親元を離れ、キラの家に住むことなったらしい。
『父さんも母さんも、カガリを迎えるためにお家をリフォームしちゃいそうな勢いで!』
飛び上がる程喜んでいたキラを見ながら、
アスランは、自分の世界を変えるような女の子の行動力に、素直にすごいと思っていた。
つい先日まで中学生だったアスランにとって親という存在はあまりにも大きく、
大げさかもしれないが世界を形作る神様のようで、
自らぶつかって動かそうなんて考えも無かった。
ーーどんな子だろう。
アスランの胸に落ちた小さな感情、
それは、
『はじめまして、カガリだ!
よろしくなっ。』
キラキラとした太陽のような笑顔に
呼び起こされるように芽吹いた。
海外を飛び回っていたということもあって、数カ国語を操る彼女は国際政治に興味があるため文系クラスを選択し、
理系特進クラスであるキラとアスランとは別々のクラスであり、
カガリはバレー部に入部し、
キラとアスランは中学から引き続き電子工学部に入ってたため、
当初アスランは、カガリとは学校生活での接点はほとんど無いだろうと思っていた。
しかし、
『おーい、アスランいるかー?』
と、フツーにアスランのクラスに入り込んでは数学の質問をしたり、
『お弁当、一緒に食べるぞ。
その後は一緒にバスケしよう!球技大会へ向けて特訓しないとな!』
と、昼休みを一緒に過ごしたり。
あまりにも自然にアスランの生活に溶け込むので、
人付き合いがあまり得意ではないアスランは驚きの連続であったが、
変わっていく毎日と変わっていく自分が心地よく、何より楽しかった。
だから、高校1年生の秋に両親が海外転勤になったため実家に1人で残ることになっても、
アスランは寂しくも心細くも無かった。
高校2年生の春、電子工学部の先輩にハメられて生徒会長に立候補せざるを得なくなった。
これまで、学級委員や委員会の役員等を押し付けられて引き受けた事はあっても、自ら手を上げた事は無かった。
そんなアスランが煮え切らない思いと不安とプレッシャーと苛立ちと、
そんなぐちゃぐちゃな感情のまま立候補する罪悪感に苛まれていた時、
前を向くよう背中を押してくれたのはカガリだった。
『いいじゃないか!
アスランが生徒会長になったら、きっとこの学校はもっと良くなるよ。
学校が良くなれば、毎日が楽しくなって、
友達や先生やこの学校をもっと好きになる子がいっぱい出てくるよ!』
『そんな、世界を変えるような事、俺には…。』
と、万有引力よりも強い力で落ちた視線は、強制的にカガリによって持ち上げられた。
カガリがアスランの手を取っていたのだ。
『大丈夫、アスランを1人にはしない、私もキラも手伝うから!
でもな、これはアスランがいなくちゃ出来ないんだ。』
その時のキラの絶叫よりも、カガリの言葉の方がずっとアスランの胸に響いた。
自らの意思で就いた生徒会長という役割によって、
文字通りアスランの世界は変わった。
定例の雑務に加えて、学校行事、突発的な案件への対処に想像以上の時間と労力を要し、
何より今まで使ったことの無い範疇の能力を求められて。
それでも立ち止まらずに続けてこられたのは、副会長のカガリと庶務係のキラが支えてくれたからだった。
特にカガリは、2年生の秋からバレー部主将になって益々忙しくなった筈なのに。
アスランは事務処理能力がありすぎる上にこういった立場に不慣れで、
元々奥手な性格も相まってか、他のメンバーに仕事を振れずにいることがあった。
1人で黙々と作業をしていると何処からともなくカガリが現れて、
『仕事を1人で抱え込むなって言ってるだろ!
少しは手伝わせろよ。』
と叱られて、いつもアスランは困ったように笑って。
『笑い事じゃないって!
アスランは優秀なのにどこか抜けてて、
優しすぎるくらい人の気持ちに敏感なのに、自分の事は鈍感で。
放っておけないよ。』
この言葉だけでも、どれ程カガリがアスランのことを見ていたのか分かる。
だから嬉しかったんだ、
突然生徒会室に飛び込んできた君の顔も、
俺のことを叱ってくれる君の声も、
太陽のようにあたたかい眼差しも、
全部。
だけど、この時はまだ恋を知らなくて。
でも、確かにアスランの胸の中でカガリは特別な存在になっていた、
その関係に名前が無いだけで。
ーーーーー
更新が1日遅れてしまって申し訳ございません。
子どもがアデノウイルスに感染しましててんやわんやでした。
さて、予告通りアスラン視点のお話がスタートしました。
時間軸は高校時代、何だか可愛らしいカガリさんとアスランです。
カガリさんはキラキラしていて、アスランはバカがつくほど誠実で。
(そしてキラ兄様に和む筆者)
この時の2人は、輝くような時の中で楽しい日々を過ごしていました。
が、次回、2人の関係が変化していく出来事が起こります。
以前にもお伝えしましたが、
この物語には2人の邪魔をするような人物は登場しませんので
安心して読み進めていただければと思います。
次回は金曜日に更新する予定です。
拍手と共にコメントを残してくださった方へのお返事は後程させていただきますね。
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「…、カガリ…?」
いきなり肩にもたれかかってきたカガリを
アスランはとっさに支えた。
見れば、長い睫毛に真珠のように丸い涙を乗せたまま寝息をたてている。
瞬時に、アスランはほぼ空になったデザートカクテルのグラスからバルドフェルドへ鋭い視線を向けた。
「どういうことですか。」
静かな分だけ凄みの増した声に、バルドフェルドはウィンクで応え、
アスランはため息をこぼした。
カガリが誕生日を祝えなかったようなので、バルドフェルドにデザートカクテルをオーダーしたのはアスランだ。
だが、酔潰れる程強い酒を出せとは言っていない。
ーーハメられた。
バルドフェルドはアスランがカガリをお持ち帰りできるよう気を利かせたつもりだろうが。
ーーどうすれば…。
そんなアスランの心の声を読んでか知らずか、
バルドフェルドは予言のように助言する。
「ベッドで愛の言葉を囁けばいい。
そうすれば、きっと2人は幸せになれることでしょう。」
呆れた、と顔に書いてアスランはバルドフェルドに返した。
「聞いていたでしょう、
カガリには他に想う人が…、いるんですから。」
アカガリの顔を覗けば、まるで天使のように無垢な表情をしているからこそ、
浮かべた涙に切なさを覚える。
どれ程つらい恋をしているのだろうかと。
そして同時にアスラン胸を後悔が満たしていく。
アスランはジャケットに手をいれると、バルドフェルドは“ノンノン!”と人差し指を振った。
「今日は私がご馳走するよ。
その代わり、今度カガリ姫を連れてカフェの方へ来てくれよ。
デートに誘って、ね。」
ーーこの人は何も聞いていなかったのだろうか。
アスランはあからさまにため息をついた後に、
「お言葉に甘えて。
カガリにカフェを紹介しておきます、
ただし、俺が一緒に行けるかは約束出来ませんが。」
アスランは釘を刺して、カガリを抱えて店を出た。
何度声をかけても起きる気配は無く、
3日前にスカンジナビアから帰国したばかりだということを考えれば、
このまま気持ち良く寝かせてあげたいというのが本音で。
でも、
ーー何処に向かえばいい。
ビジネスホテルに宿泊するにしても金曜の夜に空きがある保証は無く、
ーー俺の家…しか無い、か。
消去法で決定した行き先を、捕まえタクシーの運転手に告げた。
キラからカガリを紹介されたのは、高校1年生の春だった。
『僕の双子の妹がね、オーブで僕と一緒に住むことになったんだ!』
キラは幼い頃に両親を亡くし、双子の妹とは別々に引き取られて育ったと聞いていた。
しかも、妹の方は親の仕事の都合で海外におり気軽に会える状況では無かったという。
その環境は妹にとっても寂しかったのであろう、
彼女はキラと高校生活を送るために単身で親元を離れ、キラの家に住むことなったらしい。
『父さんも母さんも、カガリを迎えるためにお家をリフォームしちゃいそうな勢いで!』
飛び上がる程喜んでいたキラを見ながら、
アスランは、自分の世界を変えるような女の子の行動力に、素直にすごいと思っていた。
つい先日まで中学生だったアスランにとって親という存在はあまりにも大きく、
大げさかもしれないが世界を形作る神様のようで、
自らぶつかって動かそうなんて考えも無かった。
ーーどんな子だろう。
アスランの胸に落ちた小さな感情、
それは、
『はじめまして、カガリだ!
よろしくなっ。』
キラキラとした太陽のような笑顔に
呼び起こされるように芽吹いた。
海外を飛び回っていたということもあって、数カ国語を操る彼女は国際政治に興味があるため文系クラスを選択し、
理系特進クラスであるキラとアスランとは別々のクラスであり、
カガリはバレー部に入部し、
キラとアスランは中学から引き続き電子工学部に入ってたため、
当初アスランは、カガリとは学校生活での接点はほとんど無いだろうと思っていた。
しかし、
『おーい、アスランいるかー?』
と、フツーにアスランのクラスに入り込んでは数学の質問をしたり、
『お弁当、一緒に食べるぞ。
その後は一緒にバスケしよう!球技大会へ向けて特訓しないとな!』
と、昼休みを一緒に過ごしたり。
あまりにも自然にアスランの生活に溶け込むので、
人付き合いがあまり得意ではないアスランは驚きの連続であったが、
変わっていく毎日と変わっていく自分が心地よく、何より楽しかった。
だから、高校1年生の秋に両親が海外転勤になったため実家に1人で残ることになっても、
アスランは寂しくも心細くも無かった。
高校2年生の春、電子工学部の先輩にハメられて生徒会長に立候補せざるを得なくなった。
これまで、学級委員や委員会の役員等を押し付けられて引き受けた事はあっても、自ら手を上げた事は無かった。
そんなアスランが煮え切らない思いと不安とプレッシャーと苛立ちと、
そんなぐちゃぐちゃな感情のまま立候補する罪悪感に苛まれていた時、
前を向くよう背中を押してくれたのはカガリだった。
『いいじゃないか!
アスランが生徒会長になったら、きっとこの学校はもっと良くなるよ。
学校が良くなれば、毎日が楽しくなって、
友達や先生やこの学校をもっと好きになる子がいっぱい出てくるよ!』
『そんな、世界を変えるような事、俺には…。』
と、万有引力よりも強い力で落ちた視線は、強制的にカガリによって持ち上げられた。
カガリがアスランの手を取っていたのだ。
『大丈夫、アスランを1人にはしない、私もキラも手伝うから!
でもな、これはアスランがいなくちゃ出来ないんだ。』
その時のキラの絶叫よりも、カガリの言葉の方がずっとアスランの胸に響いた。
自らの意思で就いた生徒会長という役割によって、
文字通りアスランの世界は変わった。
定例の雑務に加えて、学校行事、突発的な案件への対処に想像以上の時間と労力を要し、
何より今まで使ったことの無い範疇の能力を求められて。
それでも立ち止まらずに続けてこられたのは、副会長のカガリと庶務係のキラが支えてくれたからだった。
特にカガリは、2年生の秋からバレー部主将になって益々忙しくなった筈なのに。
アスランは事務処理能力がありすぎる上にこういった立場に不慣れで、
元々奥手な性格も相まってか、他のメンバーに仕事を振れずにいることがあった。
1人で黙々と作業をしていると何処からともなくカガリが現れて、
『仕事を1人で抱え込むなって言ってるだろ!
少しは手伝わせろよ。』
と叱られて、いつもアスランは困ったように笑って。
『笑い事じゃないって!
アスランは優秀なのにどこか抜けてて、
優しすぎるくらい人の気持ちに敏感なのに、自分の事は鈍感で。
放っておけないよ。』
この言葉だけでも、どれ程カガリがアスランのことを見ていたのか分かる。
だから嬉しかったんだ、
突然生徒会室に飛び込んできた君の顔も、
俺のことを叱ってくれる君の声も、
太陽のようにあたたかい眼差しも、
全部。
だけど、この時はまだ恋を知らなくて。
でも、確かにアスランの胸の中でカガリは特別な存在になっていた、
その関係に名前が無いだけで。
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更新が1日遅れてしまって申し訳ございません。
子どもがアデノウイルスに感染しましててんやわんやでした。
さて、予告通りアスラン視点のお話がスタートしました。
時間軸は高校時代、何だか可愛らしいカガリさんとアスランです。
カガリさんはキラキラしていて、アスランはバカがつくほど誠実で。
(そしてキラ兄様に和む筆者)
この時の2人は、輝くような時の中で楽しい日々を過ごしていました。
が、次回、2人の関係が変化していく出来事が起こります。
以前にもお伝えしましたが、
この物語には2人の邪魔をするような人物は登場しませんので
安心して読み進めていただければと思います。
次回は金曜日に更新する予定です。
拍手と共にコメントを残してくださった方へのお返事は後程させていただきますね。
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