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ラクスの帰国ばかりが頭を占めて、正直浮かれていたのだと思い知る。
だからカガリの変化に気が付けなかった、なんて言い訳を許せない。
どれ程カガリは泣いたのだろう、
それ程の悲しみに気付けなかった自分は何て鈍感で、
何て自己中心的なのだろう。
今朝の通勤の時も、
午前中の業務時間中も、
ラクスを迎えに空港へ向かう電車の中でも、
空港のラウンジでも──
カガリはいつものカガリだった、
少なくとも自分にはそう見えていた。
でも、
──本当は無理をしていたのか…?
俺に心配かけまいと。
アスランはシンが閉めた扉の音を聞き届けると、改めてカガリと向き合った。
まだ涙が乾かない瞳を見詰めれば、カガリは何かを恐がるような顔をして、
アスランは苦い思いに駆られた。
だけどこのままカガリに何も出来ないなんて、そんな事は絶対に嫌だった。
「何が、あったんだ。」
するとカガリから血色が引いて、瞳を伏せられた。
長い睫毛、その先に残った涙が悲しく煌めいていた。
何も答えないカガリに、アスランはシンへの嫉妬を覚えて拳を握り締める。
明らかに自分とシンでは、カガリから向けられる態度が違ったからだ。
シンの言葉がアスランの胸を刺す。
『俺はスカンジナビアに居たとき、誰よりもカガリのそばにいたから、
カガリの事は分かってる。』
自分だって、高校生の頃は誰よりもカガリのそばにいたと思っていた、
彼女と自分は特別な関係だと。
でも実際には──
『高校の同級生だ。』
『ただの友達だって。』
カガリの声を反芻し、アスランは自らの立ち位置を思い知る。
──俺はカガリにとって、
ただの同級生で、
ただの同僚で、
それだけなんだ。
横たわる沈黙が2人の距離を表しているようで、
耐えきれずアスランは言葉をつないだ。
「仕事の事なら、責任者として聞かなくちゃいけない。」
そう最もらしい事を言うしかない、
自分が悔しい。
「ちがっ。」
涙で上手くしゃべれない、
それ程の悲しみを抱く君に何ができるだろう。
「そうか。
…俺には、
話しづらいか。」
瞼を伏せた君が頷いた。
分かっていた結末であってもアスランの胸が軋む。
──俺には話せない、シンには話せるのに…。
俺は君に何ができるだろう、
今はそれを全力で考えて、全力で実現しなくちゃいけないのに──
君を抱きしめたい、
君の涙が止まるまで
朱に染まった瞼にキスをしたい、
そんな身勝手な欲望ばかりが突き上げるなんて。
理性を総動員しなければ抑えきれない程膨れ上がって、
そんな自分に嫌悪さえ覚える。
「この事を相談できる人は、シン以外にもいるのか?
例えば、ミリアリアやフレイとか。」
全神経を使って、柔らかく問う。
するとカガリはほんの少しだけ緊張を解いて、
小さく頷き“前から相談、してるから、大丈夫。”と言ってくれた。
「そうか。
今日はこのまま帰っても大丈夫だ。
イベントは順調だし、そもそも午後は外回りのためにスケジュールを開けてたしな。」
なるべくカガリが気を病まないように言葉を選んだ。
本当は、こんなに痛々しいカガリをこれ以上外に晒したくない。
自分の腕の中に閉じ込められないならせめて、誰の目にも触れない場所へ…。
するとカガリはぐっと親指を立てて、
「大丈夫だ。
シンにこれ、持ってきてもらったから。
10分で何とかする。
だからアスランは先に戻ってて、な。」
と言うから
「何とかって…。」
そんな気合いで何とかなるレベルじゃない筈なのに、
カガリにグイグイと押し切られてアスランは資料室を追い出されてしまった。
アスランは足早にエレベーターに乗り込むと、デスクではなくカフェスペースへ向かった。
手早く携帯を操作しフレイとミリィにメッセージを送る、
それくらいしかカガリの力になれない自分が悔しい。
ホイップクリームたっぷりのホットココアとブラックをオーダーした。
『『やっぱり、ココア飲むと生き返るよね〜。』』
そう言ってほにゃりと笑った親友と君の顔が浮かんだ。
高校生の頃、
生徒会室を満たす甘い甘い香り――
「カガリも喜んでくれるといいな…。」
いつもは胸の内だけに響く声が、今日は抑えきれずに飛び出した。
定時になるとすぐにカガリを帰して、アスランは残務をざっと片付けて帰路についた。
カガリの宣言通り、きっかり10分で自席についたカガリの目元からは完全に朱の色彩が消え、
資料室での出来事が無かったかのように“いつものカガリ”に戻っていて、
アスランは驚きを飲み込むように口元を押さえた。
カガリが“何事も無かった”ふりをして気丈に振る舞っている、ならば自分もそれに合わせるべきだ。
そしてさみしさが胸の内に広がった。
カガリはあれ程の悲しみを隠せる人なんだと思い知った。
そんな強さを、君はいつ身に付けたのだろう、
どうして、
何のために。
その時も俺は、君の悲しみに寄り添えなかったのだろうか。
こぼれたため息が冬の空に溶けていく。
「あれ?アスラン?」
振り返れば、赤い髪を揺らしてフレイが近づいて来た。
化粧品会社に勤める彼女の帰宅時間帯が重なったのだろう。
「驚いちゃった、急に連絡して来るんだもの。
でも安心してね、これからカガリとミリィと一緒に私の家で宅飲みして、
ちゃーんと話を聞いてくるわ。」
カフェスペースでアスランはフレイとミリィに、
カガリと出来るだけ早く会ってほしいとメッセージを送っていたのだ。
直ぐに行動に移してくれた彼女達にアスランはほっとしていた、
自分が直接カガリの力になれないならせめて、と思っていた。
「ありがとう。
そうだ、少し時間はあるか?
俺から差し入れをさせてほしい。」
「それなら大歓迎よっ!」
フレイのリクエストした店へ並んで歩きながら、アスランはフレイに尋ねた。
「カガリがあんなメイクが上手だなんて知らなかった。
今日も、あんなに泣き腫らした目元が元通りなっていて驚いた。」
するとフレイは得意げに笑った。
「フレイ様直伝ですからね!
カガリは高校生の頃から上手だったわよ。」
「え?」
驚いてフレイを見れば、ルージュが綺麗な弧を描いていた。
フレイは何かを知っている、アスランは直感的に思った。
記憶の中のカガリは、学校でも休日もメイクをしているようには見えなかった、
少なくとも自分の前では、目元も唇も色付いていなかった。
ーーじゃぁ、いつ、カガリは化粧をしていたんだ…?
向かいの商業ビルの巨大モニターに化粧品のCMが流れた。
キャッチフレーズは“彼を振り向かせるルージュ”。
ーー誰かの、ために…?
アスランの心の声はフレイに筒抜けだったのかもしれない。
フレイは過去を瞳に映したように、遠い視線で呟いた。
「女が化粧をしたい時ってね、
自分を輝かせたい時と、
何かを隠したい時、なのよ。」
それを聞いて、アスランは素直に溜息を落として苦味を帯びた笑みを浮かべた。
「俺は、カガリの事を何も分かっていなかったんだな。
高校生の頃、1番近くでずっと見てきたと思っていたのに。」
認めざるを得ない、
自分はカガリの事を分かっている気になっていただけなんだって。
特別な関係だと、勝手に思い込んで。
するとフレイはトレンチコートにかかった髪をふわりとかき上げて答えた。
「誰だって、他人の全部なんてそう簡単には分からないわよ。
確かにアスランはカガリのそばにいたんだもの、
だからきっと、アスランしか知らないカガリもちゃんと見てきた筈よ。」
フレイなりに励ましてくれているのだろう、
“ほら、自信持ちなさいよっ。”と背中を叩かれた。
フレイを駅まで送って、夜空を見上げた。
澄んだ空に星が瞬いている。
冬が来るーー
カガリがスカンジナビアへ戻るまであと1ヶ月。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
更新が滞ってしまい、申訳ございませんでした!
こどもたちが時間差攻撃で体調不良を起こして
気が付けば12月が終わろうとしている…。
えー、今回はアスランがコテンパンに落ち込んでおります。
そりゃそうですよね、元カレのシンには泣きながら相談してるのに
アスランには一切話してくれない、頼ってくれない…。
カガリさんの事を好きな分だけ、現実的な力になれないのは悔しくて
哀しみや苦しみを分けてもらえない事がさみしくて。
シンがしかけた攻撃は、アスランに多大なダメージを与えていますね。
で、ここでフレイ様の登場です!
さすがですね、「女が化粧をする時は…」なんてカッコイイ!
さて、アスランとカガリさんの距離は縮まっていくのでしょうか。
次回はなるべく早くUPしたいと思います。
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ラクスの帰国ばかりが頭を占めて、正直浮かれていたのだと思い知る。
だからカガリの変化に気が付けなかった、なんて言い訳を許せない。
どれ程カガリは泣いたのだろう、
それ程の悲しみに気付けなかった自分は何て鈍感で、
何て自己中心的なのだろう。
今朝の通勤の時も、
午前中の業務時間中も、
ラクスを迎えに空港へ向かう電車の中でも、
空港のラウンジでも──
カガリはいつものカガリだった、
少なくとも自分にはそう見えていた。
でも、
──本当は無理をしていたのか…?
俺に心配かけまいと。
アスランはシンが閉めた扉の音を聞き届けると、改めてカガリと向き合った。
まだ涙が乾かない瞳を見詰めれば、カガリは何かを恐がるような顔をして、
アスランは苦い思いに駆られた。
だけどこのままカガリに何も出来ないなんて、そんな事は絶対に嫌だった。
「何が、あったんだ。」
するとカガリから血色が引いて、瞳を伏せられた。
長い睫毛、その先に残った涙が悲しく煌めいていた。
何も答えないカガリに、アスランはシンへの嫉妬を覚えて拳を握り締める。
明らかに自分とシンでは、カガリから向けられる態度が違ったからだ。
シンの言葉がアスランの胸を刺す。
『俺はスカンジナビアに居たとき、誰よりもカガリのそばにいたから、
カガリの事は分かってる。』
自分だって、高校生の頃は誰よりもカガリのそばにいたと思っていた、
彼女と自分は特別な関係だと。
でも実際には──
『高校の同級生だ。』
『ただの友達だって。』
カガリの声を反芻し、アスランは自らの立ち位置を思い知る。
──俺はカガリにとって、
ただの同級生で、
ただの同僚で、
それだけなんだ。
横たわる沈黙が2人の距離を表しているようで、
耐えきれずアスランは言葉をつないだ。
「仕事の事なら、責任者として聞かなくちゃいけない。」
そう最もらしい事を言うしかない、
自分が悔しい。
「ちがっ。」
涙で上手くしゃべれない、
それ程の悲しみを抱く君に何ができるだろう。
「そうか。
…俺には、
話しづらいか。」
瞼を伏せた君が頷いた。
分かっていた結末であってもアスランの胸が軋む。
──俺には話せない、シンには話せるのに…。
俺は君に何ができるだろう、
今はそれを全力で考えて、全力で実現しなくちゃいけないのに──
君を抱きしめたい、
君の涙が止まるまで
朱に染まった瞼にキスをしたい、
そんな身勝手な欲望ばかりが突き上げるなんて。
理性を総動員しなければ抑えきれない程膨れ上がって、
そんな自分に嫌悪さえ覚える。
「この事を相談できる人は、シン以外にもいるのか?
例えば、ミリアリアやフレイとか。」
全神経を使って、柔らかく問う。
するとカガリはほんの少しだけ緊張を解いて、
小さく頷き“前から相談、してるから、大丈夫。”と言ってくれた。
「そうか。
今日はこのまま帰っても大丈夫だ。
イベントは順調だし、そもそも午後は外回りのためにスケジュールを開けてたしな。」
なるべくカガリが気を病まないように言葉を選んだ。
本当は、こんなに痛々しいカガリをこれ以上外に晒したくない。
自分の腕の中に閉じ込められないならせめて、誰の目にも触れない場所へ…。
するとカガリはぐっと親指を立てて、
「大丈夫だ。
シンにこれ、持ってきてもらったから。
10分で何とかする。
だからアスランは先に戻ってて、な。」
と言うから
「何とかって…。」
そんな気合いで何とかなるレベルじゃない筈なのに、
カガリにグイグイと押し切られてアスランは資料室を追い出されてしまった。
アスランは足早にエレベーターに乗り込むと、デスクではなくカフェスペースへ向かった。
手早く携帯を操作しフレイとミリィにメッセージを送る、
それくらいしかカガリの力になれない自分が悔しい。
ホイップクリームたっぷりのホットココアとブラックをオーダーした。
『『やっぱり、ココア飲むと生き返るよね〜。』』
そう言ってほにゃりと笑った親友と君の顔が浮かんだ。
高校生の頃、
生徒会室を満たす甘い甘い香り――
「カガリも喜んでくれるといいな…。」
いつもは胸の内だけに響く声が、今日は抑えきれずに飛び出した。
定時になるとすぐにカガリを帰して、アスランは残務をざっと片付けて帰路についた。
カガリの宣言通り、きっかり10分で自席についたカガリの目元からは完全に朱の色彩が消え、
資料室での出来事が無かったかのように“いつものカガリ”に戻っていて、
アスランは驚きを飲み込むように口元を押さえた。
カガリが“何事も無かった”ふりをして気丈に振る舞っている、ならば自分もそれに合わせるべきだ。
そしてさみしさが胸の内に広がった。
カガリはあれ程の悲しみを隠せる人なんだと思い知った。
そんな強さを、君はいつ身に付けたのだろう、
どうして、
何のために。
その時も俺は、君の悲しみに寄り添えなかったのだろうか。
こぼれたため息が冬の空に溶けていく。
「あれ?アスラン?」
振り返れば、赤い髪を揺らしてフレイが近づいて来た。
化粧品会社に勤める彼女の帰宅時間帯が重なったのだろう。
「驚いちゃった、急に連絡して来るんだもの。
でも安心してね、これからカガリとミリィと一緒に私の家で宅飲みして、
ちゃーんと話を聞いてくるわ。」
カフェスペースでアスランはフレイとミリィに、
カガリと出来るだけ早く会ってほしいとメッセージを送っていたのだ。
直ぐに行動に移してくれた彼女達にアスランはほっとしていた、
自分が直接カガリの力になれないならせめて、と思っていた。
「ありがとう。
そうだ、少し時間はあるか?
俺から差し入れをさせてほしい。」
「それなら大歓迎よっ!」
フレイのリクエストした店へ並んで歩きながら、アスランはフレイに尋ねた。
「カガリがあんなメイクが上手だなんて知らなかった。
今日も、あんなに泣き腫らした目元が元通りなっていて驚いた。」
するとフレイは得意げに笑った。
「フレイ様直伝ですからね!
カガリは高校生の頃から上手だったわよ。」
「え?」
驚いてフレイを見れば、ルージュが綺麗な弧を描いていた。
フレイは何かを知っている、アスランは直感的に思った。
記憶の中のカガリは、学校でも休日もメイクをしているようには見えなかった、
少なくとも自分の前では、目元も唇も色付いていなかった。
ーーじゃぁ、いつ、カガリは化粧をしていたんだ…?
向かいの商業ビルの巨大モニターに化粧品のCMが流れた。
キャッチフレーズは“彼を振り向かせるルージュ”。
ーー誰かの、ために…?
アスランの心の声はフレイに筒抜けだったのかもしれない。
フレイは過去を瞳に映したように、遠い視線で呟いた。
「女が化粧をしたい時ってね、
自分を輝かせたい時と、
何かを隠したい時、なのよ。」
それを聞いて、アスランは素直に溜息を落として苦味を帯びた笑みを浮かべた。
「俺は、カガリの事を何も分かっていなかったんだな。
高校生の頃、1番近くでずっと見てきたと思っていたのに。」
認めざるを得ない、
自分はカガリの事を分かっている気になっていただけなんだって。
特別な関係だと、勝手に思い込んで。
するとフレイはトレンチコートにかかった髪をふわりとかき上げて答えた。
「誰だって、他人の全部なんてそう簡単には分からないわよ。
確かにアスランはカガリのそばにいたんだもの、
だからきっと、アスランしか知らないカガリもちゃんと見てきた筈よ。」
フレイなりに励ましてくれているのだろう、
“ほら、自信持ちなさいよっ。”と背中を叩かれた。
フレイを駅まで送って、夜空を見上げた。
澄んだ空に星が瞬いている。
冬が来るーー
カガリがスカンジナビアへ戻るまであと1ヶ月。
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更新が滞ってしまい、申訳ございませんでした!
こどもたちが時間差攻撃で体調不良を起こして
気が付けば12月が終わろうとしている…。
えー、今回はアスランがコテンパンに落ち込んでおります。
そりゃそうですよね、元カレのシンには泣きながら相談してるのに
アスランには一切話してくれない、頼ってくれない…。
カガリさんの事を好きな分だけ、現実的な力になれないのは悔しくて
哀しみや苦しみを分けてもらえない事がさみしくて。
シンがしかけた攻撃は、アスランに多大なダメージを与えていますね。
で、ここでフレイ様の登場です!
さすがですね、「女が化粧をする時は…」なんてカッコイイ!
さて、アスランとカガリさんの距離は縮まっていくのでしょうか。
次回はなるべく早くUPしたいと思います。
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