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soranokizunaのカケラたちや筆者のひとりごとを さらさらと ゆらゆらと
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カガリと自分を繋ぐ糸が
ひとつ、またひとつと切れていく。
それに気づいた時にはもう、
君は手の届かない場所へと飛び立っていた。




雫の音 ーshizuku no ne ー 10


拍手[13回]







秋が深まるにつれて、受験という大きな空気の流れが加速し、
それと同時に、カガリと過ごす時間が目に見えて減っていった。

昼休みにカガリが姿を見せなくなって、
キラに理由を尋ねれば、“カガリは受験勉強に燃えてるからね。”と、少し寂しそうに笑っていた。
いつも一緒に帰った通学路も、気付けば隣はキラだけになっていた。
キラによると、カガリは帰国子女枠で受験するため通常の受験勉強に加えて対策が必要で、
“なんか、ソレ専用の予備校に通ってるんだよね。”と、また寂しそうに笑っていた。

両親からの電話で今日が自分の誕生日なのだと気づいた。
去年はキラの家でカガリの手作りのロールキャベツとチーズケーキでお祝いしてくれて、
懐かしさにため息が混じった。

ーー受験なんて早く終わればいい。
そしたらまた…。

カガリと一緒に、あの時のように過ごせるのだと信じて疑わなかった。
キラとカガリの代わりに誕生日を祝ってくれたのはラクスだった。
ラクスの家に行く度にこっそりと覗くピアノの部屋、
グランドピアノの上にはラクスの譜面が乗るようになっていた。

駆け抜けていくような冬。
大学の合格発表の日、
インターネットで確認するのが怖いと言って泣きついてきたキラ。
一緒にキラの部屋で確認した番号。
喜びを爆発させる間もなく、イソイソと埃を被ったゲーム機を取り出したのが
あまりにもキラらしくて笑いあった。

『またキラと一緒だな。
カガリの発表は明日か。』

と言えば、またキラは寂しそうに笑った。
キラのこんな顔を見るのは何度目だろうと思った時、
あまり勘は良くない方だけど嫌な予感がした。

『カガリはオーブ大は受けなかったんだよ。
フレイやミリィと同じ大学へ行くことが、もう決まってる。』

その時アスランは何がショックだったのか、分からなかった。
いやきっと、何もかもがショックだったのだろう。
志望校を変えた事を自分だけが知らなかったこと、
受験の先のカガリの未来に自分がいないこと、
カガリと自分の関係が分からなくなったこと…。
特別だと思っていたのは、自分だけだったのかもしれないと。

まだ寒さの残る卒業式。
友人や後輩達に揉みくちゃに囲まれるカガリを遠くから眺めていた。
キラキラとした笑顔が眩しくて目を細める。
あの笑顔を、最後に自分に向けてくれたのはいつだっただろう。
そんな事を考えていると、いつに無くキラが厳しい声で言った。

『アスランはこのままでいいの?!』

きっとこのままではいけないんだと、頭では分かっていた。
でも、それ以上にカガリが何を望んでいるのかが分からなくて踏み出せない。
“もう、アスラン!”と、キラが大声を出したからかカガリがこちらを向いた。
目が合った、それだけで鼓動が高鳴った。
だけど、滑らかに視線は逸らされて、その仕草に傷つくよりも先にアスランは駆け出していた。

『カガリ…っ。』

その先の言葉が見付からず、焦りばかりがせり上がって喉を詰まらせる。
“えっと、その…。”と、口ごもっているとカガリが小さく笑った。

『アスランは本当に、手先以外はてんで不器用だな。』

さっき友人達に見せていた太陽のようにキラキラとした笑顔ではなく、
もっと奥行きのある微笑みに引き込まれる。

『綺麗になったな、カガリ。』

心のままの言葉が口から出てアスランは驚きに赤面する。
それが移ったようにカガリも真っ赤になっている。

『な、なんだよ、急にっ!。』

と言って顔を背けられてしまい、
アスランは衝動的にカガリの両肩に手を置いて、力づくでこちらを向かせた。

ーーもっと君を、見ていたい…。

自分でも制御不能な感情と行動を止められなかった。
驚いた琥珀色の瞳の中に自分が映っていることに喜びが湧き上がった。

『大学でも、頑張れよ。
応援してるから。』

『…うん。
アスラン、も。
元気でな。』

友人達のもとへと戻っていったカガリの背中見つめながら、
アスランは胸の内に残った何かがあることに気がついた、
それが何か分からないまま。








覚悟はしていたけれど、大学生活の中にカガリという存在が無いことに
ジリジリと寂しさが募っていった。
だけど、カガリが国際政治を学ぶために志望校を変えたのだから、
寂しいと思うのは身勝手な事だ。
それでもキャンパスで、電車で、街でーー
カガリの姿を視線が探してしてしまうのを止められなかった。

慌ただしい新生活の中でカガリと連絡を取ろうと思えば出来た筈だが、
いざ携帯の画面を開くと何を伝えればいいのか分からなくてなってしまい、
空白のメッセージ欄を見詰める時間だけが過ぎていった。

バイトとゼミと研究で明け暮れた夏休みの終わり、
立ち止まったまま流れた時が、決定的な距離となって突き付けられる出来事が起きたーー

いきなりキラからテーマパークへ行こうと誘われた。
そういった類に興味が薄いアスランはフツーに断ろうとした。
大体、男子2人でそんな所へ行けば確実に浮くだろう。
しかし、キラによると、メインキャラクターである“ベアー”の生誕何年かの記念ぬいぐるみが販売されるらしく、

『絶対、絶対、ぜぇ〜ったい、欲しいんだ!』

と、半ば強制的に戦力に加えられしまった。
結局アスランも付いて行ったのだが、開園のスタートダッシュでキラは目的のぬいぐるみを確保できたらしく、
アスランはスーベニアエリアにほど近い場所でキラを待ちながら、
ぼんやりと生徒会のメンバーで遊びにきた事を思い出していた。

ーーカガリもベアーが大好きで、着ぐるみに抱きついていたっけ。

まるで子どものようにはしゃいでいたカガリの姿に、ふっと笑顔が浮かんだ時ーー

『あれ?アスラン…?』

記憶の中の声が現実に聴こえて、アスランは驚きに振り返った。
するとそこにカガリがいたのだ、
知らない男と手をつないで。

鼓動が1つ、鈍い音をたてた。
よく分からない感情がじわじわと体を侵食していくのに困惑し、アスランは何も言えなかった。
そんな沈黙を破ったのは、カガリの隣の男だった。

『カガリ、知り合い?』
『えっ…、あぁ、高校の…同級生。』

ーー同級生…。

カガリは何も間違った事は言っていない、
だが、アスランの中で軋んだ音を立てて響いた。
カガリの隣の男は“ふ〜ん”と言い、
なぜだろう牽制するような視線を向けられ、アスランの胸に得体の知れない感情がうごめく。

『あっ、アスランも誰かと遊びに来たのか?』
カガリの様子も少しおかしいが、それ以上に、
『デートじゃねぇの?俺たちみたいに。』
こちらへ向けられた問いに何故か隣の男が答え、
アスランは苛立つ、この男は何なんだ、と。
しかしアスランは感情を飲み込んで淡々と答えた。

『キラがベアーの記念ぬいぐるみが欲しいと言って、その付き添いだ。』

するとカガリが“あっ。”と声を漏らして、少し視線を下げたのをアスランは見逃さなかった。
が、

『カガリ、そろそろファストパス取りに行かないと!』
と、隣の男がカガリの手を引いて、
『あっ、うん。
じゃぁな、アスランっ!』

姿は程なく他の来園者に紛れて見えなくなってしまった。
アスランは直ぐにキラに連絡をしながら駆け出した、
まとわりつくような得体の知れない感情を振り切るように。

『キラっ!
まだぬいぐるみはあるか?』

しかし、全力疾走してもその感情が消える事は無く、
鼓動が胸を叩く度に全身に広がっていく。

『えぇっ!アスランも欲しいの?
えっとねぇ…、棚にはもう…。』

上手く息も出来ず、携帯を持つ指先はチリチリと焼けるようで、
まるで自分の体ではないみたいだ。
自分が支配された感情は何なのか分からない、
だけど、今自分がしたい事も、すべき事も、叶えたい事もはっきりとしていた。

長いストライドで店に入ってきたアスランにキラはアプリ画面を見せた。
今回の記念ベアーは各スーベニアショップで数量限定で販売しており、
アプリでリアルタイムの在庫を確認できる。
すると今自分たちがいるショップにしか在庫は残っておらず、数は2と表示されている。
キラが手にしているものの他、会計を終えてないベアーは1体のみ…。
陳列棚は空になっており、キラ同様にベアーを確保しなが買い物を続けている客がいるのかもしれない。
アスランの背筋に嫌な汗が浮かぶ。

ーー遅かった…。

その言葉が想像以上に胸を刺して、アスランの視線は落ちる。
が、やはり自分を救ってくれるのはいつもこの双子なのかもしれない。

『アスラン、諦めちゃダメだよ!
最後の1個は“隠れベアー”って言って、棚じゃ無い場所に隠してあるって噂だよ!』

弾かれたように顔を上げたアスランは、キラと共に店内を見渡した。
同じくラスト1を狙う客が多いのだろう、
ごった返した店内で“隠れベアー”を見つけられる可能性は限り無く低いかもしれない。
キラがアスランの顔を覗くと“必ず手に入れる”と書いてあって、
こうなったらアスランは強い事を最もよく知るキラは、本当に見つけ出せるかもしれないとの予感を覚える。
その予感の通り、アスランはいきなり壁面へ向かって駆け出すと、バスケットボール選手並みの跳躍を見せる。

タトン。

軽やかな着地の靴音、
胸にはベアーのぬいぐるみを大事そうに抱えていた。
アスランの眼差しは熱を帯びながら優しさで満ちていて、
キラは別の予感に駆られる。

『アスラン、それ、誰にーー。』

『カガリに。』

キラの予感は、確信に変わった。








“せっかく来たんだから、アトラクションを制覇しよう!”と言い出したのはキラで、
特に予定の無いアスランは付き合うことにした。
アトラクションの多くは2人乗りのため、男子大学生が2人並んでハニーポットで冒険したり、
小舟に乗って世界を旅したり、丸太に乗って落下したり…。
キラは120%楽しんでいたが、控えめに言っても完全に浮いていた。
客層を見れば多くはカップルで、
ふとアトラクションに並ぶ男女が目に入り、男は彼女の肩を抱き親密そうに顔を寄せていた。
そこにカガリの姿がオーバーラップし思わずアスランは視線を外しても、
自分を支配するあの感情からは逃れられず、自動的に脳裏で映像が構築されていく。

カガリがあの男とーー

ーー嫌だ。

そう思ってしまう身勝手さに、アスランは拳を握りしめた。
後悔が胸を押し潰す。

《本当に付き合っちゃおうか、私達。
私、もっとアスランと一緒にいたいんだ。》

あの日の君の言葉も、その意味も、想いも全部、
嬉しかった。

《ありがとう。
でも、ごめん。
俺はラクスの側にいたいんだ。》

あの日の俺の言葉も、その意味も、想いも全部、
嘘は無かった。
ただ、これが恋と知らなかっただけでーー

ーー本当はずっと、君のことが好きだったんだ。

ーーずっと、
今も。











キラには“直接渡したら?”と言われたが、
デート帰りのカガリに会う気にはなれなくて、
でも出来るだけ早くベアーのぬいぐるみを渡したくて。
結局アスランはキラに託す事にした。

帰宅しシャワーを済ませた頃、アスランは今更疲れを実感し、ベッドに沈むように腰かけた。
ラフにタオルドライしただけの髪から雫が落ちて、シャツの色を変えていく。
想いが決壊するように溢れて、
行き場の無い胸の痛みを飲み込もうとしても後悔が喉を塞いで、
アスランは瞳を閉じた。
その時だった、携帯の着信が鳴る。
ディスプレイに表示された“カガリ”の名前に指が震えた。

『わっ!
も…、もしもし。』

電話に出ただけなのに飛び上がりそうな程驚いたカガリの声が聞こえて、
アスランは小さく笑った。

ーーかわいいな、カガリは。

素直すぎる自分の心に赤面して、思わずアスランは口元を抑えた。
と同時に気付くのだ、
自分の本当の想いは、決してカガリには告げてはならないと。

ーーカガリには、恋人がいるんだ…。

『…、アスラン、疲れて…るよな。
夜遅くにごめん。』

ずっと黙っている事でカガリに心配をかけてしまい、
アスランは慌てて返事をした。

『ごめん、大丈夫…だから。』

気付いたばかりの想いに戸惑って、本当は何もかも大丈夫ではなかった。
だけど、カガリからの電話は高校生以来のことで
繋がった糸を途切れさせたくなくて、アスランは言葉を続けた。
声が震えそうで、こわかった。

『どうしたんだ、カガリ。』

と、問えば、

『ベアー、ありがとな。
とっても嬉しい。』

と、はにかんだ声が聞こえて、
恐怖に縮こまった心に優しく浸透してアスランはふわりと笑みを浮かべた。

『良かった、気に入ってもらえて。』

ーー本当に、良かった。

カガリが喜んでいる、
それだけで心が満たされていく。

『ベアーの記念ぬいぐるみのこと知ってたんだけど、買いに行けなくて。』

カガリのことだ、
隣にいた彼氏はアトラクション中心に楽しみたかったのだろう、
空気を読んでベアーの事を言い出せ無かったのではないか。
そこまで考えて、アスランは益々あの男に対して嫌な感情が湧いて来た、
何故アイツはカガリの事を1番に考え無かったのだろう、と。
少なくともカガリの様子からベアーのぬいぐるみを欲しがっている事は分かっただろうに、
何て鈍感なヤツだ、と。

ーー俺なら、カガリの事を何よりも大切にするのに。

その瞬間、アスランは己の身勝手さに凍りつく。
カガリの事を1番に考えなかったのも、鈍感なのも、自分の方だと。
カガリが差し出してくれた想いを受け止めずラクスを優先し、
カガリを傷つけたくせに、今まで通りの特別な関係でいてほしいと願っていた自分の方が…。
再び黙ってしまったアスランに気付かず、カガリは続ける。

『キラが買いに行くって知らなかったし、
あ、でも、1人1コまでだからお願いしてもダメだったんだけど…。
と、とにかく!
すごく嬉しかったんだ。
ありがとう、アスラン。』

名前を呼ばれるだけで、愛しさが溢れて止まらなくなる。
そんな資格、自分には無いのに。

髪から滴り落ちた雫が、また1つシャツにシミを作った。

“アスラン、諦めちゃダメだよ!”と、
何故か今日のキラの声がした気がして、アスランは前を向く。
せっかく繋がった糸を自ら手放したくは無かった、
これからも、どんな名前のついた関係性であっても、
君と繋がっていたいーー

アスランが意を決して吸い込んだ息は、声にならずに喉元に止まった。

『このベアー、留学先に持って行くな。』

ーー留学…?

『カガリ、留学って…。』

自分の声が遠く聞こえた。

『…うん、夏休みが終わったらスカンジナビアへ留学するんだ、1年間。』

国際政治に興味があることは高校生の頃から知っていて、
それを学ぶために志望校を変えて、
さらに高みを目指して留学を決意して。
カガリの意思を尊重したい、そう心から思っている、
ならば繋がった糸から手を引かなければいけないのに…。

──嫌だ…。

そう思ってしまう自分が、何よりも嫌だった。
カガリの幸せを祝福できず、
カガリの夢を応援できず、
過去にカガリを傷つけたまま何もしてこなかったくせに、
今になって繋がった関係に縋り付こうだなんて、

──バカだ、俺は。

『そうか。
1年生から留学するなんて、カガリらしいな。』

なんとか絞り出した嘘の無い言葉。
すると不思議なことに、素直な気持ちが流れ出す。

『カガリは昔からそうだよな、
自分の世界を変えていく力があって。
そんな所に憧れていたんだ。』

『か、かいかぶりすぎだって!
私は好きな事をしてきただけでっ。』

ちょっとムキになるカガリが可愛くて、アスランは小さく笑った。

『一生懸命頑張る姿が、いつも励みになっていた。
俺も頑張ろうって。』

そう、だから、
身勝手なさみしさから手を引こう。
君が誰より大切だから──

『留学、頑張れよ。
応援してるから。』

少し声が震えていたけれど、
大切にしたい気持ちで押し切った。
ただの強がりが自分の精一杯だった。

『…うん。』

返ってきたカガリの声は涙で濡れている気がした。

『カガリ?』

呼びかけにも応えが無くて、
沈黙に耳を澄ませても何も聞こえてこない。
けれど、きっとカガリはいま泣いている。
現実的な力になれない自分の立ち位置に、もどかしさばかりが降り積もる。
本当は今すぐ君を抱きしめたかった。

『ごめんな!
ちょと…、ふっ…。』

元気な声を出そうとして、失敗して涙を隠せないカガリが
いじらくしてかわいくて、どこまでもアスランを優しくさせた。

『大丈夫だよ、カガリ。』

肩を貸すようなアスランの声に、カガリはもう涙を隠そうとはしなかった。
物理的な距離が離れていても確かに通じ合っている事を感じて、アスランは静かに満たされていった。

『カガリがこんなに泣き虫だなんて知らなかったな。』
少し冗談めかして言えば、
『なっ、泣き虫なんかじゃないぞ!』
この状況では全く説得力を持たず、アスランは笑い出す。
『わーらーうーなーっ!』
とムキになるカガリに、
高校生に戻ったような錯覚を覚える。
心地良い距離感でじゃれあうような。

『向こうで泣きたくなったら、いつでも話を聞くから。』

さり気なさを装って告げた願い、
これからも、どんな細い糸でもいい、君と繋がっていたい。
しかし、アスランの目の前で糸は切られた。
カガリの確固たる意志によって。

『連絡手段があるとどうしても甘えちゃうから、
留学中は家族とも必要最低限以外、なるべく連絡取らないようにしようと思ってる。
だから、ごめんな。』

どこまでもストイックに突き進む姿勢がカガリらしく、
アスランは“そうか…。”と言うことしか出来なかった。
その後、まるで高校生の頃のように、また明日学校で会えるような、
そんな別れの言葉を交わして電話を切った。
それがカガリとの最後の会話になるなんて、思いもしなかった。








カガリの留学は1年の予定だったから、
アスランはカガリと連絡が取れずとも1年後にはまた会えるのだと信じていた。
しかし、大学2年生の夏、キラは寂しそうに笑って告げた、
“カガリはスカンジナビアの大学に編入することに決めたんだって。”、と。
卒業まで会えない、その事実に愕然とした。
アスランがどこかで予感していた通り、カガリが一時帰国する事は無く、
ヤマト家がスカンジナビアへ旅行へ行く際、アスランはキラに手紙やメッセージを託す事はしなかった。
自ら厳しい環境に身を置こうと決めたカガリの意志を尊重したかった気持ちが半分、
カガリの望みが分からないのに自分の想いを優先する勇気が無かったのが半分だった。

就職活動の足音が聞こえてくる頃、キラに告げられた。
“カガリはモルゲンレーテのスカンジナビア支社に就職が決まったって。”
こんな風に寂しそうに笑うキラを、もう何度見たことだろう。

変わらない想いを抱いたまま、月日だけが過ぎて行く。
愛しいと思う度に、後悔が胸を刺す。
恋を知らなかった罪、
その罰としての今が永遠と続いていった。




ーーーーーーー

アスランの誕生日なのに、こんな展開でごめんよアスラン。
でもね、アスラン、よく考えてくれたまえ。
君がカガリさんを振っちゃったからこんな事になった訳で…。

次回も引き続きアスラン視点です。
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秋が深まるにつれて、受験という大きな空気の流れが加速し、
それと同時に、カガリと過ごす時間が目に見えて減っていった。

昼休みにカガリが姿を見せなくなって、
キラに理由を尋ねれば、“カガリは受験勉強に燃えてるからね。”と、少し寂しそうに笑っていた。
いつも一緒に帰った通学路も、気付けば隣はキラだけになっていた。
キラによると、カガリは帰国子女枠で受験するため通常の受験勉強に加えて対策が必要で、
“なんか、ソレ専用の予備校に通ってるんだよね。”と、また寂しそうに笑っていた。

両親からの電話で今日が自分の誕生日なのだと気づいた。
去年はキラの家でカガリの手作りのロールキャベツとチーズケーキでお祝いしてくれて、
懐かしさにため息が混じった。

ーー受験なんて早く終わればいい。
そしたらまた…。

カガリと一緒に、あの時のように過ごせるのだと信じて疑わなかった。
キラとカガリの代わりに誕生日を祝ってくれたのはラクスだった。
ラクスの家に行く度にこっそりと覗くピアノの部屋、
グランドピアノの上にはラクスの譜面が乗るようになっていた。

駆け抜けていくような冬。
大学の合格発表の日、
インターネットで確認するのが怖いと言って泣きついてきたキラ。
一緒にキラの部屋で確認した番号。
喜びを爆発させる間もなく、イソイソと埃を被ったゲーム機を取り出したのが
あまりにもキラらしくて笑いあった。

『またキラと一緒だな。
カガリの発表は明日か。』

と言えば、またキラは寂しそうに笑った。
キラのこんな顔を見るのは何度目だろうと思った時、
あまり勘は良くない方だけど嫌な予感がした。

『カガリはオーブ大は受けなかったんだよ。
フレイやミリィと同じ大学へ行くことが、もう決まってる。』

その時アスランは何がショックだったのか、分からなかった。
いやきっと、何もかもがショックだったのだろう。
志望校を変えた事を自分だけが知らなかったこと、
受験の先のカガリの未来に自分がいないこと、
カガリと自分の関係が分からなくなったこと…。
特別だと思っていたのは、自分だけだったのかもしれないと。

まだ寒さの残る卒業式。
友人や後輩達に揉みくちゃに囲まれるカガリを遠くから眺めていた。
キラキラとした笑顔が眩しくて目を細める。
あの笑顔を、最後に自分に向けてくれたのはいつだっただろう。
そんな事を考えていると、いつに無くキラが厳しい声で言った。

『アスランはこのままでいいの?!』

きっとこのままではいけないんだと、頭では分かっていた。
でも、それ以上にカガリが何を望んでいるのかが分からなくて踏み出せない。
“もう、アスラン!”と、キラが大声を出したからかカガリがこちらを向いた。
目が合った、それだけで鼓動が高鳴った。
だけど、滑らかに視線は逸らされて、その仕草に傷つくよりも先にアスランは駆け出していた。

『カガリ…っ。』

その先の言葉が見付からず、焦りばかりがせり上がって喉を詰まらせる。
“えっと、その…。”と、口ごもっているとカガリが小さく笑った。

『アスランは本当に、手先以外はてんで不器用だな。』

さっき友人達に見せていた太陽のようにキラキラとした笑顔ではなく、
もっと奥行きのある微笑みに引き込まれる。

『綺麗になったな、カガリ。』

心のままの言葉が口から出てアスランは驚きに赤面する。
それが移ったようにカガリも真っ赤になっている。

『な、なんだよ、急にっ!。』

と言って顔を背けられてしまい、
アスランは衝動的にカガリの両肩に手を置いて、力づくでこちらを向かせた。

ーーもっと君を、見ていたい…。

自分でも制御不能な感情と行動を止められなかった。
驚いた琥珀色の瞳の中に自分が映っていることに喜びが湧き上がった。

『大学でも、頑張れよ。
応援してるから。』

『…うん。
アスラン、も。
元気でな。』

友人達のもとへと戻っていったカガリの背中見つめながら、
アスランは胸の内に残った何かがあることに気がついた、
それが何か分からないまま。








覚悟はしていたけれど、大学生活の中にカガリという存在が無いことに
ジリジリと寂しさが募っていった。
だけど、カガリが国際政治を学ぶために志望校を変えたのだから、
寂しいと思うのは身勝手な事だ。
それでもキャンパスで、電車で、街でーー
カガリの姿を視線が探してしてしまうのを止められなかった。

慌ただしい新生活の中でカガリと連絡を取ろうと思えば出来た筈だが、
いざ携帯の画面を開くと何を伝えればいいのか分からなくてなってしまい、
空白のメッセージ欄を見詰める時間だけが過ぎていった。

バイトとゼミと研究で明け暮れた夏休みの終わり、
立ち止まったまま流れた時が、決定的な距離となって突き付けられる出来事が起きたーー

いきなりキラからテーマパークへ行こうと誘われた。
そういった類に興味が薄いアスランはフツーに断ろうとした。
大体、男子2人でそんな所へ行けば確実に浮くだろう。
しかし、キラによると、メインキャラクターである“ベアー”の生誕何年かの記念ぬいぐるみが販売されるらしく、

『絶対、絶対、ぜぇ〜ったい、欲しいんだ!』

と、半ば強制的に戦力に加えられしまった。
結局アスランも付いて行ったのだが、開園のスタートダッシュでキラは目的のぬいぐるみを確保できたらしく、
アスランはスーベニアエリアにほど近い場所でキラを待ちながら、
ぼんやりと生徒会のメンバーで遊びにきた事を思い出していた。

ーーカガリもベアーが大好きで、着ぐるみに抱きついていたっけ。

まるで子どものようにはしゃいでいたカガリの姿に、ふっと笑顔が浮かんだ時ーー

『あれ?アスラン…?』

記憶の中の声が現実に聴こえて、アスランは驚きに振り返った。
するとそこにカガリがいたのだ、
知らない男と手をつないで。

鼓動が1つ、鈍い音をたてた。
よく分からない感情がじわじわと体を侵食していくのに困惑し、アスランは何も言えなかった。
そんな沈黙を破ったのは、カガリの隣の男だった。

『カガリ、知り合い?』
『えっ…、あぁ、高校の…同級生。』

ーー同級生…。

カガリは何も間違った事は言っていない、
だが、アスランの中で軋んだ音を立てて響いた。
カガリの隣の男は“ふ〜ん”と言い、
なぜだろう牽制するような視線を向けられ、アスランの胸に得体の知れない感情がうごめく。

『あっ、アスランも誰かと遊びに来たのか?』
カガリの様子も少しおかしいが、それ以上に、
『デートじゃねぇの?俺たちみたいに。』
こちらへ向けられた問いに何故か隣の男が答え、
アスランは苛立つ、この男は何なんだ、と。
しかしアスランは感情を飲み込んで淡々と答えた。

『キラがベアーの記念ぬいぐるみが欲しいと言って、その付き添いだ。』

するとカガリが“あっ。”と声を漏らして、少し視線を下げたのをアスランは見逃さなかった。
が、

『カガリ、そろそろファストパス取りに行かないと!』
と、隣の男がカガリの手を引いて、
『あっ、うん。
じゃぁな、アスランっ!』

姿は程なく他の来園者に紛れて見えなくなってしまった。
アスランは直ぐにキラに連絡をしながら駆け出した、
まとわりつくような得体の知れない感情を振り切るように。

『キラっ!
まだぬいぐるみはあるか?』

しかし、全力疾走してもその感情が消える事は無く、
鼓動が胸を叩く度に全身に広がっていく。

『えぇっ!アスランも欲しいの?
えっとねぇ…、棚にはもう…。』

上手く息も出来ず、携帯を持つ指先はチリチリと焼けるようで、
まるで自分の体ではないみたいだ。
自分が支配された感情は何なのか分からない、
だけど、今自分がしたい事も、すべき事も、叶えたい事もはっきりとしていた。

長いストライドで店に入ってきたアスランにキラはアプリ画面を見せた。
今回の記念ベアーは各スーベニアショップで数量限定で販売しており、
アプリでリアルタイムの在庫を確認できる。
すると今自分たちがいるショップにしか在庫は残っておらず、数は2と表示されている。
キラが手にしているものの他、会計を終えてないベアーは1体のみ…。
陳列棚は空になっており、キラ同様にベアーを確保しなが買い物を続けている客がいるのかもしれない。
アスランの背筋に嫌な汗が浮かぶ。

ーー遅かった…。

その言葉が想像以上に胸を刺して、アスランの視線は落ちる。
が、やはり自分を救ってくれるのはいつもこの双子なのかもしれない。

『アスラン、諦めちゃダメだよ!
最後の1個は“隠れベアー”って言って、棚じゃ無い場所に隠してあるって噂だよ!』

弾かれたように顔を上げたアスランは、キラと共に店内を見渡した。
同じくラスト1を狙う客が多いのだろう、
ごった返した店内で“隠れベアー”を見つけられる可能性は限り無く低いかもしれない。
キラがアスランの顔を覗くと“必ず手に入れる”と書いてあって、
こうなったらアスランは強い事を最もよく知るキラは、本当に見つけ出せるかもしれないとの予感を覚える。
その予感の通り、アスランはいきなり壁面へ向かって駆け出すと、バスケットボール選手並みの跳躍を見せる。

タトン。

軽やかな着地の靴音、
胸にはベアーのぬいぐるみを大事そうに抱えていた。
アスランの眼差しは熱を帯びながら優しさで満ちていて、
キラは別の予感に駆られる。

『アスラン、それ、誰にーー。』

『カガリに。』

キラの予感は、確信に変わった。








“せっかく来たんだから、アトラクションを制覇しよう!”と言い出したのはキラで、
特に予定の無いアスランは付き合うことにした。
アトラクションの多くは2人乗りのため、男子大学生が2人並んでハニーポットで冒険したり、
小舟に乗って世界を旅したり、丸太に乗って落下したり…。
キラは120%楽しんでいたが、控えめに言っても完全に浮いていた。
客層を見れば多くはカップルで、
ふとアトラクションに並ぶ男女が目に入り、男は彼女の肩を抱き親密そうに顔を寄せていた。
そこにカガリの姿がオーバーラップし思わずアスランは視線を外しても、
自分を支配するあの感情からは逃れられず、自動的に脳裏で映像が構築されていく。

カガリがあの男とーー

ーー嫌だ。

そう思ってしまう身勝手さに、アスランは拳を握りしめた。
後悔が胸を押し潰す。

《本当に付き合っちゃおうか、私達。
私、もっとアスランと一緒にいたいんだ。》

あの日の君の言葉も、その意味も、想いも全部、
嬉しかった。

《ありがとう。
でも、ごめん。
俺はラクスの側にいたいんだ。》

あの日の俺の言葉も、その意味も、想いも全部、
嘘は無かった。
ただ、これが恋と知らなかっただけでーー

ーー本当はずっと、君のことが好きだったんだ。

ーーずっと、
今も。











キラには“直接渡したら?”と言われたが、
デート帰りのカガリに会う気にはなれなくて、
でも出来るだけ早くベアーのぬいぐるみを渡したくて。
結局アスランはキラに託す事にした。

帰宅しシャワーを済ませた頃、アスランは今更疲れを実感し、ベッドに沈むように腰かけた。
ラフにタオルドライしただけの髪から雫が落ちて、シャツの色を変えていく。
想いが決壊するように溢れて、
行き場の無い胸の痛みを飲み込もうとしても後悔が喉を塞いで、
アスランは瞳を閉じた。
その時だった、携帯の着信が鳴る。
ディスプレイに表示された“カガリ”の名前に指が震えた。

『わっ!
も…、もしもし。』

電話に出ただけなのに飛び上がりそうな程驚いたカガリの声が聞こえて、
アスランは小さく笑った。

ーーかわいいな、カガリは。

素直すぎる自分の心に赤面して、思わずアスランは口元を抑えた。
と同時に気付くのだ、
自分の本当の想いは、決してカガリには告げてはならないと。

ーーカガリには、恋人がいるんだ…。

『…、アスラン、疲れて…るよな。
夜遅くにごめん。』

ずっと黙っている事でカガリに心配をかけてしまい、
アスランは慌てて返事をした。

『ごめん、大丈夫…だから。』

気付いたばかりの想いに戸惑って、本当は何もかも大丈夫ではなかった。
だけど、カガリからの電話は高校生以来のことで
繋がった糸を途切れさせたくなくて、アスランは言葉を続けた。
声が震えそうで、こわかった。

『どうしたんだ、カガリ。』

と、問えば、

『ベアー、ありがとな。
とっても嬉しい。』

と、はにかんだ声が聞こえて、
恐怖に縮こまった心に優しく浸透してアスランはふわりと笑みを浮かべた。

『良かった、気に入ってもらえて。』

ーー本当に、良かった。

カガリが喜んでいる、
それだけで心が満たされていく。

『ベアーの記念ぬいぐるみのこと知ってたんだけど、買いに行けなくて。』

カガリのことだ、
隣にいた彼氏はアトラクション中心に楽しみたかったのだろう、
空気を読んでベアーの事を言い出せ無かったのではないか。
そこまで考えて、アスランは益々あの男に対して嫌な感情が湧いて来た、
何故アイツはカガリの事を1番に考え無かったのだろう、と。
少なくともカガリの様子からベアーのぬいぐるみを欲しがっている事は分かっただろうに、
何て鈍感なヤツだ、と。

ーー俺なら、カガリの事を何よりも大切にするのに。

その瞬間、アスランは己の身勝手さに凍りつく。
カガリの事を1番に考えなかったのも、鈍感なのも、自分の方だと。
カガリが差し出してくれた想いを受け止めずラクスを優先し、
カガリを傷つけたくせに、今まで通りの特別な関係でいてほしいと願っていた自分の方が…。
再び黙ってしまったアスランに気付かず、カガリは続ける。

『キラが買いに行くって知らなかったし、
あ、でも、1人1コまでだからお願いしてもダメだったんだけど…。
と、とにかく!
すごく嬉しかったんだ。
ありがとう、アスラン。』

名前を呼ばれるだけで、愛しさが溢れて止まらなくなる。
そんな資格、自分には無いのに。

髪から滴り落ちた雫が、また1つシャツにシミを作った。

“アスラン、諦めちゃダメだよ!”と、
何故か今日のキラの声がした気がして、アスランは前を向く。
せっかく繋がった糸を自ら手放したくは無かった、
これからも、どんな名前のついた関係性であっても、
君と繋がっていたいーー

アスランが意を決して吸い込んだ息は、声にならずに喉元に止まった。

『このベアー、留学先に持って行くな。』

ーー留学…?

『カガリ、留学って…。』

自分の声が遠く聞こえた。

『…うん、夏休みが終わったらスカンジナビアへ留学するんだ、1年間。』

国際政治に興味があることは高校生の頃から知っていて、
それを学ぶために志望校を変えて、
さらに高みを目指して留学を決意して。
カガリの意思を尊重したい、そう心から思っている、
ならば繋がった糸から手を引かなければいけないのに…。

──嫌だ…。

そう思ってしまう自分が、何よりも嫌だった。
カガリの幸せを祝福できず、
カガリの夢を応援できず、
過去にカガリを傷つけたまま何もしてこなかったくせに、
今になって繋がった関係に縋り付こうだなんて、

──バカだ、俺は。

『そうか。
1年生から留学するなんて、カガリらしいな。』

なんとか絞り出した嘘の無い言葉。
すると不思議なことに、素直な気持ちが流れ出す。

『カガリは昔からそうだよな、
自分の世界を変えていく力があって。
そんな所に憧れていたんだ。』

『か、かいかぶりすぎだって!
私は好きな事をしてきただけでっ。』

ちょっとムキになるカガリが可愛くて、アスランは小さく笑った。

『一生懸命頑張る姿が、いつも励みになっていた。
俺も頑張ろうって。』

そう、だから、
身勝手なさみしさから手を引こう。
君が誰より大切だから──

『留学、頑張れよ。
応援してるから。』

少し声が震えていたけれど、
大切にしたい気持ちで押し切った。
ただの強がりが自分の精一杯だった。

『…うん。』

返ってきたカガリの声は涙で濡れている気がした。

『カガリ?』

呼びかけにも応えが無くて、
沈黙に耳を澄ませても何も聞こえてこない。
けれど、きっとカガリはいま泣いている。
現実的な力になれない自分の立ち位置に、もどかしさばかりが降り積もる。
本当は今すぐ君を抱きしめたかった。

『ごめんな!
ちょと…、ふっ…。』

元気な声を出そうとして、失敗して涙を隠せないカガリが
いじらくしてかわいくて、どこまでもアスランを優しくさせた。

『大丈夫だよ、カガリ。』

肩を貸すようなアスランの声に、カガリはもう涙を隠そうとはしなかった。
物理的な距離が離れていても確かに通じ合っている事を感じて、アスランは静かに満たされていった。

『カガリがこんなに泣き虫だなんて知らなかったな。』
少し冗談めかして言えば、
『なっ、泣き虫なんかじゃないぞ!』
この状況では全く説得力を持たず、アスランは笑い出す。
『わーらーうーなーっ!』
とムキになるカガリに、
高校生に戻ったような錯覚を覚える。
心地良い距離感でじゃれあうような。

『向こうで泣きたくなったら、いつでも話を聞くから。』

さり気なさを装って告げた願い、
これからも、どんな細い糸でもいい、君と繋がっていたい。
しかし、アスランの目の前で糸は切られた。
カガリの確固たる意志によって。

『連絡手段があるとどうしても甘えちゃうから、
留学中は家族とも必要最低限以外、なるべく連絡取らないようにしようと思ってる。
だから、ごめんな。』

どこまでもストイックに突き進む姿勢がカガリらしく、
アスランは“そうか…。”と言うことしか出来なかった。
その後、まるで高校生の頃のように、また明日学校で会えるような、
そんな別れの言葉を交わして電話を切った。
それがカガリとの最後の会話になるなんて、思いもしなかった。








カガリの留学は1年の予定だったから、
アスランはカガリと連絡が取れずとも1年後にはまた会えるのだと信じていた。
しかし、大学2年生の夏、キラは寂しそうに笑って告げた、
“カガリはスカンジナビアの大学に編入することに決めたんだって。”、と。
卒業まで会えない、その事実に愕然とした。
アスランがどこかで予感していた通り、カガリが一時帰国する事は無く、
ヤマト家がスカンジナビアへ旅行へ行く際、アスランはキラに手紙やメッセージを託す事はしなかった。
自ら厳しい環境に身を置こうと決めたカガリの意志を尊重したかった気持ちが半分、
カガリの望みが分からないのに自分の想いを優先する勇気が無かったのが半分だった。

就職活動の足音が聞こえてくる頃、キラに告げられた。
“カガリはモルゲンレーテのスカンジナビア支社に就職が決まったって。”
こんな風に寂しそうに笑うキラを、もう何度見たことだろう。

変わらない想いを抱いたまま、月日だけが過ぎて行く。
愛しいと思う度に、後悔が胸を刺す。
恋を知らなかった罪、
その罰としての今が永遠と続いていった。




ーーーーーーー

アスランの誕生日なのに、こんな展開でごめんよアスラン。
でもね、アスラン、よく考えてくれたまえ。
君がカガリさんを振っちゃったからこんな事になった訳で…。

次回も引き続きアスラン視点です。
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