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タクシーが左折したタイミングで
眠っているカガリがアスランにもたれかかってきて、
とっさに腰を抱き寄せた。
あまりに細く華奢なそれは、力を込めれば壊れてしまいそうで。
でも、
アスランは息をゆっくりと吐き出した。
このまま君を抱きしめてしまいたい、
そんな熱を持て余して。
雫の音 ーshiziku no be ー 11
眠っているカガリがアスランにもたれかかってきて、
とっさに腰を抱き寄せた。
あまりに細く華奢なそれは、力を込めれば壊れてしまいそうで。
でも、
アスランは息をゆっくりと吐き出した。
このまま君を抱きしめてしまいたい、
そんな熱を持て余して。
雫の音 ーshiziku no be ー 11
会議室で君を見た時、これは夢なんじゃないかと思った。
会いたくて、会いたくて、でも叶わなくて。
その君が目の前に現れたのだから。
『…カガリ…?』
ふわふわとして実感がまるで付いてこなくて、
君の名を呼んで、今を現実と結び付けたかった。
『久しぶり、アスラン。』
そう言って君が笑った、
それだけで奇跡に触れたようで、
鼓動が高鳴っていった。
ぎこちない、再会だった。
“それはそうだ。”と苦笑する。
ずっと会いたかったのは俺の一方的な想いであって、
カガリにとって俺はーーどんな存在なのだろう。
求めた握手、
触れた瞬間に手を離されて、
カガリにとっての自分の立ち位置を突き付けられた気がした。
ーーバカだな、俺は…。
再会に1人で舞い上がって。
カガリにとっては、ただの同級生で、
おまけに昔振られた男で…。
弟の親友であっても、カガリにとっては関係無い話だ。
スタートラインはマイナスだ。
だけど、
ーー絶対に、諦めない。
この奇跡のような巡り合わせを大事にしたい。
2度と、君と繋がる糸を離さないように。
そう心に誓った時だった。
『うわぁ、シンだ!シンだ!』
『相変わらずだな、カガリは』
カガリは当たり前のようにシンの腕の中に収まった。
好きな女が他の男に抱きしめられて平気でいられる程、
アスランは鈍感でも寛大でも無い。
さらに、自分へ向けられた態度の落差に、素直に心にグサリと来る。
が、カガリは海外育ちが長く様々な文化的背景を持つ上に、
男女分け隔て無くスキンシップを取る性格を考えれば、
シンとは特別仲の良い関係なのだろうと、自分に言い聞かせて無理矢理感情を押し込んだ時だった。
『留学仲間から親友になって、付き合って…。』
ーー付き合って…っ?
『元カノってことっ?』
ーー嘘…だろ。
一瞬で体が冷え切った。
心は現実を受け止められないのに、頭は冷酷な程クレバーで、
高校卒業後にカガリに恋人が何人かいたとしても不思議じゃないだろうと
分かりきった一般論を唱えていて、
ーーしかも、相手がシンって…。
アスランは目眩を覚えた。
『アスラン、大丈夫か?』
カガリの声で現実に引き戻される。
あれから何年も経つのに、あの頃のように自分に寄り添ってくれるカガリに
冷え切った胸の内があたたまってくる。
『もしかして、高校生の頃、
アスランとカガリさん、付き合ってたりして!』
はしゃいだルナの声に、
『そんな訳無いだろ?
ただの友達だって!』
カガリは事実を言っただけなのに、
胸に巣食った後悔が痛みと共に疼きだす。
“ただの友達”、その関係を選んだのは
紛れも無く自分なのだから。
カガリが懐かしい写真を繰っていると、
3年生の文化祭の写真が見えた。
アリスに扮したカガリの左手の薬指には、
自分が結んだブルーのリボンがあった。
ーー本当の気持ちは、そこにあったのに。
どうして気付けなかったのだろう、
どうして道を誤ったのだろう、
もう何度も繰り返した問いの答えを、
会議室で笑い合うシンとカガリに見た気がした。
同じ空気を纏う2人に、アスランは切なく瞳を細めた。
もう2度と後悔はしない。
打ち合わせの後にシンがカガリを飲みに誘う事は計算済みで、
足止め策を打ってカガリを連れ出した。
“一緒に帰ろう”だなんて、まるで高校生の様で、
年相応の誘い方も出来ない自分の不器用さに呆れるけれど、
一方でアスランは仕方ないとも思う。
あの頃から自分の恋は止まったままなのだから。
食事をして、
会話を重ねて、
高校生に戻ったような距離になったり、
現実の立ち位置に戻ったりを繰り返す。
『少し飲んで帰らないか。』
君が頷いてくれた時、
君も同じ気持ちでいてくれたらと願った。
もう少しだけ、一緒にいたいと。
だけど、それはあまりにも自分に都合の良い思い違いだったのだと
突き付けられた。
『私にも、忘れられない人がいるんだ。
でも、その人には心に決めた人がいて…。
最初から、叶わない恋だったんだ。』
カガリに好きな人がいたとしても、不思議じゃ無い。
だけど、
睫毛に揺れた涙を見て
どれ程カガリがその男の事を愛しているのか
想いの深さを知って、
胸が詰まった。
カガリの想いを受け止めずに他の誰かを愛し続ける男へ嫉妬を覚えるよりも、
カガリが抱き続けてきた痛みに、純粋に共鳴した。
タクシーの窓から流れる夜景を瞳に写して
アスランは呟いた。
「最初から叶わない恋、か。」
それはまるで自分の事のようだと
アスランは思った。
タクシーを降りてカガリを抱き上げた拍子に懐かしい香がした。
この香に包まれて何度も救われたのを思い出し、そっと手に力を込めた。
マンションの最上階だからか吹き抜ける風は冷たくて、
アスランは急いで鍵を開けると、玄関の壁を背にふっと息をついた。
室内は秋の陽光を残したかのようにあたたかくほっとする。
「カガリ、着いたぞ。」
とカガリの顔覗くと、涙を浮かべた睫毛を震わせていて、
かなしい夢でも見ているようで。
アスランはそっとカガリの左瞼にキスを落とした。
すると右頬を涙が伝って、唇で受け止めて。
ーー泣かないで、カガリ…。
そのまま唇を重ねた。
何度も、
何度も、
君の涙が止まるまで。
どれくらい、こうしていたのだろう。
カガリの手がアスランのジャケットの胸元をぎゅっと握りしめた時、
アスランは唇を離した。
するとカガリはうっとりと瞳開いて微笑んで、
そっとアスランの頬に触れた。
「どうしたんだ、アスラン。
また、かなしい夢でも見たのか。」
それは、高校生2年生の冬、ニコルを喪った時に
カガリがいつも言ってくれた言葉。
「大丈夫だぞ。
私がそばにいるからな。」
あの時のように、カガリは首に腕を回してアスランを抱きしめた。
ーーかなしい夢を見続けているのは、君の方だろ?
アスランは未だ夢から覚めないカガリを強く抱きしめた。
最初から叶わない恋に、カガリはどれ程の涙を落としてきたのだろう。
それでも、自分のかなしみを後回しにしてアスランを想い慰めようとしてくれる優しさに、
アスランはカガリに告げた。
「こんなかなしい恋は、もう終わりにしよう。
俺が絶対に、君を幸せにするから。」
ーーーーーー
こどもたちの体調不良で更新が滞ってしまい、申し訳ございません!
えーっと、アスラン、勝手にキスしちゃってますけど!!
どうなることやら…ですね。
さて、文化祭のお写真で、カガリさんが左手の薬指にリボンをしています。
これがどうして“本当の気持ち”なのか…は、今後のお話で出てきますので
少々お待ちくださいませ。
さぁ、次回は2人で迎える朝ですよ〜!
甘い朝…になるのでしょうか?
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会議室で君を見た時、これは夢なんじゃないかと思った。
会いたくて、会いたくて、でも叶わなくて。
その君が目の前に現れたのだから。
『…カガリ…?』
ふわふわとして実感がまるで付いてこなくて、
君の名を呼んで、今を現実と結び付けたかった。
『久しぶり、アスラン。』
そう言って君が笑った、
それだけで奇跡に触れたようで、
鼓動が高鳴っていった。
ぎこちない、再会だった。
“それはそうだ。”と苦笑する。
ずっと会いたかったのは俺の一方的な想いであって、
カガリにとって俺はーーどんな存在なのだろう。
求めた握手、
触れた瞬間に手を離されて、
カガリにとっての自分の立ち位置を突き付けられた気がした。
ーーバカだな、俺は…。
再会に1人で舞い上がって。
カガリにとっては、ただの同級生で、
おまけに昔振られた男で…。
弟の親友であっても、カガリにとっては関係無い話だ。
スタートラインはマイナスだ。
だけど、
ーー絶対に、諦めない。
この奇跡のような巡り合わせを大事にしたい。
2度と、君と繋がる糸を離さないように。
そう心に誓った時だった。
『うわぁ、シンだ!シンだ!』
『相変わらずだな、カガリは』
カガリは当たり前のようにシンの腕の中に収まった。
好きな女が他の男に抱きしめられて平気でいられる程、
アスランは鈍感でも寛大でも無い。
さらに、自分へ向けられた態度の落差に、素直に心にグサリと来る。
が、カガリは海外育ちが長く様々な文化的背景を持つ上に、
男女分け隔て無くスキンシップを取る性格を考えれば、
シンとは特別仲の良い関係なのだろうと、自分に言い聞かせて無理矢理感情を押し込んだ時だった。
『留学仲間から親友になって、付き合って…。』
ーー付き合って…っ?
『元カノってことっ?』
ーー嘘…だろ。
一瞬で体が冷え切った。
心は現実を受け止められないのに、頭は冷酷な程クレバーで、
高校卒業後にカガリに恋人が何人かいたとしても不思議じゃないだろうと
分かりきった一般論を唱えていて、
ーーしかも、相手がシンって…。
アスランは目眩を覚えた。
『アスラン、大丈夫か?』
カガリの声で現実に引き戻される。
あれから何年も経つのに、あの頃のように自分に寄り添ってくれるカガリに
冷え切った胸の内があたたまってくる。
『もしかして、高校生の頃、
アスランとカガリさん、付き合ってたりして!』
はしゃいだルナの声に、
『そんな訳無いだろ?
ただの友達だって!』
カガリは事実を言っただけなのに、
胸に巣食った後悔が痛みと共に疼きだす。
“ただの友達”、その関係を選んだのは
紛れも無く自分なのだから。
カガリが懐かしい写真を繰っていると、
3年生の文化祭の写真が見えた。
アリスに扮したカガリの左手の薬指には、
自分が結んだブルーのリボンがあった。
ーー本当の気持ちは、そこにあったのに。
どうして気付けなかったのだろう、
どうして道を誤ったのだろう、
もう何度も繰り返した問いの答えを、
会議室で笑い合うシンとカガリに見た気がした。
同じ空気を纏う2人に、アスランは切なく瞳を細めた。
もう2度と後悔はしない。
打ち合わせの後にシンがカガリを飲みに誘う事は計算済みで、
足止め策を打ってカガリを連れ出した。
“一緒に帰ろう”だなんて、まるで高校生の様で、
年相応の誘い方も出来ない自分の不器用さに呆れるけれど、
一方でアスランは仕方ないとも思う。
あの頃から自分の恋は止まったままなのだから。
食事をして、
会話を重ねて、
高校生に戻ったような距離になったり、
現実の立ち位置に戻ったりを繰り返す。
『少し飲んで帰らないか。』
君が頷いてくれた時、
君も同じ気持ちでいてくれたらと願った。
もう少しだけ、一緒にいたいと。
だけど、それはあまりにも自分に都合の良い思い違いだったのだと
突き付けられた。
『私にも、忘れられない人がいるんだ。
でも、その人には心に決めた人がいて…。
最初から、叶わない恋だったんだ。』
カガリに好きな人がいたとしても、不思議じゃ無い。
だけど、
睫毛に揺れた涙を見て
どれ程カガリがその男の事を愛しているのか
想いの深さを知って、
胸が詰まった。
カガリの想いを受け止めずに他の誰かを愛し続ける男へ嫉妬を覚えるよりも、
カガリが抱き続けてきた痛みに、純粋に共鳴した。
タクシーの窓から流れる夜景を瞳に写して
アスランは呟いた。
「最初から叶わない恋、か。」
それはまるで自分の事のようだと
アスランは思った。
タクシーを降りてカガリを抱き上げた拍子に懐かしい香がした。
この香に包まれて何度も救われたのを思い出し、そっと手に力を込めた。
マンションの最上階だからか吹き抜ける風は冷たくて、
アスランは急いで鍵を開けると、玄関の壁を背にふっと息をついた。
室内は秋の陽光を残したかのようにあたたかくほっとする。
「カガリ、着いたぞ。」
とカガリの顔覗くと、涙を浮かべた睫毛を震わせていて、
かなしい夢でも見ているようで。
アスランはそっとカガリの左瞼にキスを落とした。
すると右頬を涙が伝って、唇で受け止めて。
ーー泣かないで、カガリ…。
そのまま唇を重ねた。
何度も、
何度も、
君の涙が止まるまで。
どれくらい、こうしていたのだろう。
カガリの手がアスランのジャケットの胸元をぎゅっと握りしめた時、
アスランは唇を離した。
するとカガリはうっとりと瞳開いて微笑んで、
そっとアスランの頬に触れた。
「どうしたんだ、アスラン。
また、かなしい夢でも見たのか。」
それは、高校生2年生の冬、ニコルを喪った時に
カガリがいつも言ってくれた言葉。
「大丈夫だぞ。
私がそばにいるからな。」
あの時のように、カガリは首に腕を回してアスランを抱きしめた。
ーーかなしい夢を見続けているのは、君の方だろ?
アスランは未だ夢から覚めないカガリを強く抱きしめた。
最初から叶わない恋に、カガリはどれ程の涙を落としてきたのだろう。
それでも、自分のかなしみを後回しにしてアスランを想い慰めようとしてくれる優しさに、
アスランはカガリに告げた。
「こんなかなしい恋は、もう終わりにしよう。
俺が絶対に、君を幸せにするから。」
ーーーーーー
こどもたちの体調不良で更新が滞ってしまい、申し訳ございません!
えーっと、アスラン、勝手にキスしちゃってますけど!!
どうなることやら…ですね。
さて、文化祭のお写真で、カガリさんが左手の薬指にリボンをしています。
これがどうして“本当の気持ち”なのか…は、今後のお話で出てきますので
少々お待ちくださいませ。
さぁ、次回は2人で迎える朝ですよ〜!
甘い朝…になるのでしょうか?
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