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soranokizunaのカケラたちや筆者のひとりごとを さらさらと ゆらゆらと
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「ただいまぁ…。」

カガリは帰宅すると、ふらふらとソファーに沈み込んだ。
ファミリータイプのソファーが全身を受け止めてくれて、心地良さに目を閉じる。
と、今日のアスランの表情が思い出され、カガリは苦い気持ちでいっぱいになった。



雫の音 ー shizuku no ne ー 16


拍手[9回]



アスランはパーティーの間中、表面上は笑顔を浮かべてはいたが控えめに言っても楽しんでいるようには思えなかった。
バースデーケーキのケーキカットに至っては場が混乱し、
流石のアスランからも社交上の笑顔が消えて困惑した様子で。
あのままアスランを放っておくことも、
誰も手を出さない状況を見逃す事も出来なかった。
そこで急な仕事を言い訳にアスランをあの場から離れさせ、
即興で企画したじゃんけん大会が予想以上に盛り上がってくれて本当に良かったとカガリは思う。
これをきっかけに、カガリは普段関わりの無い部署の者達と交流できたのは嬉しいハプニングではあったが…。

カガリはソファーに身を預けて天井を仰いだ。

アスランがこんな誕生日を望んでいなかった事は確かだ。

──今朝、私がアスランを誘ったりしたからだ。

カガリは足元のカバンから携帯を取り出した。

──やっぱり、アスランに謝った方がいい…かな。

でも、今朝謝った時は逆にアスランに気を遣わせてしまったことを考えると安易に謝るのも気が引ける。
溜息が零れた時、喉が渇いていた事を思い出して冷蔵庫を開けた。
ファミリータイプの大型冷蔵庫の1番上、
昨夜焼いたチーズケーキが目に入ってカガリは苦い思いで視線を落とした。

──このケーキをアスランに渡す事は、
もう出来ないだろうな…。

それ以前に、おめでとうの一言さえ言えていない。

全部自分の播いた種だと分かっていても、
アスランに、大切な誕生日に、迷惑をかけてしまったと分かっていても、
カガリは涙を堪えきれず、
ゴシゴシと目元を擦った。
まるで高校生に戻ったように。



















ピンポーン。

土曜の朝から鳴ったインターフォンをキラは無視した。
この時間帯であれば宅配便では無いだろう、
だとしたら新聞の勧誘か何かだと決め込んで二度寝に入った。
が、

ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!

──3連打って、も~!!!

昼前まで寝るという健全な土曜日の過ごし方を邪魔されて、
不機嫌な顔でキラはリビングのインターフォン画面を見た、
瞬間、先程の不機嫌は吹き飛び小躍りしそうな勢いでマンションのロックを外した。

「ごめんな、キラ。
こんな朝から。
寝てただろ?」

「いいんだよ!
カガリならいつでも大歓迎!!!」

キラのマンションにやって来たのはカガリだった。
手には大きな紙袋を持っている。
キラの視線に気付いたカガリは困ったと言わんばかりに笑った。

「ケーキが余っちゃってさ。
でも、午前中には食べきらないと悪くなりそうで…。
キラなら朝からケーキ、いけるだろ?」

「もちろん!!
ホールだっていけちゃう!!」

「そう言うと思った。」

と、2人で笑い合った。
こうして2人でいるだけで離れていた時間を越えられる。
カガリと双子で良かったと、こんな瞬間にも奇跡を感じだ。

そしてこれも自分達が双子だからなんだろう。

「カガリ、何かあった?」

一目見た時から何か見えない糸のような違和感があったのだ。
その違和感は何処か懐かしい香りがした。
カガリは曖昧に笑って、

「おすすめの紅茶持ってきたから、今淹れるな。」

と、キッチンに立ってしまった。
紅茶を淹れる所作だけで、カガリがお嬢さまなのだと思い知る。
サッパリとした性格とのギャップからお育ちの良さが際立つ。

「じゃ、僕はケーキを用意しよーっと♪」

ケーキの箱を開けて、キラはパタンと箱を閉じた。

「はい、キラ。
ナイフと、それから皿な。
タルト地になってるから切るの大変かも!」

と、テキパキと出された指示に従えばこの箱の中のケーキを食べる事になるのだが、
その前にキラは確認しておきたかった。

「あのさぁ、カガリ。
このケーキ、本当に食べてもいい…んだよね?」

「変なこと言うなよ、
キラと一緒に食べるために持ってきたんだから。」

カガリは変わらぬ表情で手を動かしている。
こんなに指細かったっけ、なんて関係ない事をキラは考えてしまった。

キラはもう一度箱を開けて平皿にベイクドチーズケーキを出した。
ケーキにのったプレートに書かれた文字、
それこそがキラの感じた違和感の正体だった。

“ Happy birthday ! Athrun ”

カガリがダイニングテーブルに茶器を並べている間に、キラは空に語りかけるように天井を仰いだ。

──ねぇ、どうするべきだと思う?

応えが無いことを知っていても、
問うてしまうのはいつものキラの癖。
遠く離れた君を想って、
耳を澄ませて。

──そうだよね。

キラは手早く携帯を操作すると、
何気なさを装ってダイニングテーブルにケーキを運んだ。

「「いただきまーす!」」

向かい合って君と朝食を。
なんて贅沢な時間なんだ、とキラが浸っていた幸せの時間は携帯の着信音で遮られた。
この着信音を待ってた…のも事実だけど、
けどやっぱり、

──癪にさわるよねっ!

「オハヨー。」

キラは棒読みで電話に出た。
目の前のカガリがそっと席を外そうとしてくれて、キラは軽く手を上げて制した。

「残念、多分もう間に合わないよ。
ごしゅーしょーサマー。
じゃね。」

これくらい意地悪をしてもいいだろう、
だって多分、じゃなくて確実に、

──昨日の夜カガリを泣かせたのは君なんだから。

しかし、思いの外電話の相手は食い下がる。

──まぁ、これくらいの根性は見せてもらわないとね。

電話を切ると、カガリが心配そうにこっちを見ていたから、
にっこりと笑ってみせて

「さぁ、食べよう!」

と、カガリが並べたフォークを使わずに
キラはベイクドチーズケーキにかぶりついた。
カガリのお手製ベイクドチーズケーキは懐かしくて、そして

「しゃいこ〜!!!」

キラはほにゃりと目を細めて味わった。












彼がやって来たのは、
3杯目の紅茶のお代わりを飲み干した頃だった。
滅多に焦る事の無い君が、秋も深まったこの季節に汗だくなっいる。
こんな珍しい姿にキラは笑いが止まらなかったが、
ここは大切な妹を守る兄として毅然とした態度を示した。

「おはよー、思ったより早かったね。
でも残念、ケーキならもう売り切れだよ。」

玄関で棒読みで伝えると彼はズカズカとリビングへ向かい、
やれやれとキラは肩を竦めて後に続いた。
“キラ、お客さんかぁ?”と呑気な声を出したカガリは来客者を見て固まった。
キラは想像通りの展開に、やはり吹き出しそうになりググッと耐えた。

「アスラン…、なん…で?」

「ケーキ…。」

「へ?」

「ケーキを…、食べたい。」

耐えきれずキラに爆笑がリビングに響いた。
キラはひーひー言いながらアスランの肩を叩いて

「もっと他に言い方あるでしょ、アスラン!
面白すぎっ!」

アスランはばつが悪そうな表情をした後、ダイニングテーブルを見た。
中央の平皿にはタルト地のカケラしか残っていなかった、が、
メッセージプレートののった最後の1ピースがキラの座っていた席の前に残っていた、
最初の一口をかじられた状態で。

「これ、食べてもいいか?」

と聞かれたカガリは顔を真っ赤にして、キラの皿を取り上げた。

「ダメだっ、こんな食べかけっ!
そ、それにアスラン、二日酔いなのに朝からケーキなんて食べられないだろ?
また今度焼くから、その時にーー。」

「いいんだっ!
今、食べたい。
そのケーキを。」

あまりに不器用すぎるアスランに、
“でも…。”と言って瞳を揺らすかわいいカガリに、
キラはくすぐったいような気持ちになる。
最初はアスランの目の前で最後の1ピースをこれ見よがしに食べてやろうと思っていたが、

ーーまぁ、いっか。

面白過ぎる光景を見せてくれたお礼にとキラは親友にケーキを譲ることにした。

アスランがとても嬉しそうに笑うから、
そんなアスランを見るカガリが幸せそうだから、
きっとこれで良かったんだ。

ーーちょっと癪にさわるけどね!

ずっとかなしい恋に涙してきたカガリと、
ずっと後悔を抱いてきたアスランを、
僕はずっとそばで見てきた。
だからもう一度、2人が出会う時が来たら
絶対に応援しようと決めていた。
ただ見守るだけじゃなくて、今度は現実的な力になろう、と。

ーーねぇ、君達は知らないでしょ。
かなしみも、後悔も、
抱いていたのは君達だけじゃないって事を。

でも、応援の必要は無いのかもしれないとキラは思う。
だって、どう見てもこの2人はーー












昼前になって、カガリはフレイとミリィとランチの約束があるからと帰り支度を始めた。
ショートパンツからスラリと伸びる脚、透け感のあるニットから見える体のライン、
大人になっちゃったなぁとキラはぼんやりと思いつつ、
隣の不器用すぎる朴念仁をチラリと見る。

ーーねぇ、君。
こんなに可愛いカガリを毎日のように見てて、良く手を出さないよね?

ブーティーを履いてクルリと振り返って、“じゃぁな。”と振ったカガリの手を
いきなりアスランが掴んだ。
ぎょっとする僕。

ーーえっ!何なのっ?!

一方のカガリは、ほわんと頬を染めていて、

ーーそこは恐がる所でしょっ!

とキラはツッコミを入れる。

「ケーキ、ありがとう。
とても美味しかったし、嬉しかった。」

もう何処からつっこんでいいのか分からない程不器用な言葉なのに、

「良かった。
私も食べてもらえて、嬉しかった…ぞ。
お誕生日おめでとう、アスラン。」

応えるカガリのはにかんだ表情が超絶かわいくて、

ーーあぁ〜、もぉ〜!!

キラは身悶える。
カガリが扉の向こうへ消えると、キラはアスランに詰め寄ろうとして空振りに終わる。
アスランが“反則だろ…”と、その場にしゃがみ込んだからだ。
そんなアスランの胸ぐらを掴んで揺さぶった。

「ねぇ、君達何なのっ!
どうなってるのっ?
てか、良く我慢できるよねっ!
君ってホントに男なのっ?」

「意味が分からないぞ、キラ…。」

「意味分かんないのは君の方だから!」

リビングに移動すると、キラはテレビドラマで良くある取り調べのようにアスランを睨んだ。
全部吐けと言わんばかりのキラの表情に、アスランは“参ったな”と呟いて続けた。

「キラ、ケーキのことを教えてくれてありがとう。
また後悔する所だった。
それにさっきも。」

「さっきって?」

するとアスランは左手で目元を押さえた。

「玄関で…、
キラがいなければカガリに手を出していたかも…。」

と、ため息を落とすアスランにキラは

「手を出しちゃえばいいじゃん!
まぁ、手を出したらタダじゃおかないけど!!」

兄として、目の前で妹に手を出す輩がいればぶん殴るが、
あんなにかわいいカガリを目の前に何も出来ないのは男としてどうかと思う。
複雑な兄心というものだ。

「カガリの意思を無視してそんな事出来る訳無いだろう。」

と本気で真面目に遠い目をするアスランに、キラは目が点になる。

ーーはぁ?何言ってるの?
誕生日にわざわざ手作りのケーキ焼いてくれるんだよ、
あんなはにかんだ表情でお祝いしてくれるんだよ、
カガリの気持ちは分かりきってるじゃん!!

何も言わないキラを他所にアスランは続ける。

「キラも知ってるじゃないか、
カガリにずっと好きな人がいるって。」

ーーそれって、君の事でしょ?

「ずっとつらい恋をしているようで…。
そんなカガリに俺の気持ちを押し付けても、結果は見えているだろ。」

ーーうん、上手くいくよね。

「カガリを困らせるだけだ。」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ?」

キラの絶叫にアスランは目をむいた。

「君ってバカなんじゃないの?!」

「バカとは何だっ。俺は真剣にー」

「それは分かってるけど、う〜ぁあぁぁ、もうっ!」

キラ叫びながら頭を抱えた。
カガリの想いを伝えのは自分の役割じゃないとは分かっていても、
呆れる程真面目にすれ違っている2人を見るのはもどかしいを通り越して発狂しそうだ。
今朝のカガリの様子から、カガリもアスランの想いに気付いていないようで。

ーーと言うか、カガリは積極的に距離を取ろうとしてない?
あんな愛情ダダ漏れのケーキなんか作っておいて!

「キラ、大丈夫か。
さっきから様子がおかしいぞ。」

ーーおかしいのは君の方だからっ!

とツッコミを入れたい所をぐっと抑えて、キラはアスランに諭した。

「とにかく!
カガリはあと2ヶ月でスカンジナビアに帰っちゃうんだから、
もう押して押して押し倒すしかないんじゃないの?!」

キラのアドバイスは半ばヤケクソだったが、唯一にして決定的な作戦であることも事実だったが、

「そんな一方的にーー」

バカが付くほど誠実な彼には難易度が高すぎる作戦で。

ーーねぇ、どうしたらいいと思う?

キラは空を見上げるように天井を仰いだ。
遠く離れた君がいてくれたら、
そう思わずにはいられなかった。



ーーーーーーー

カガリのこともアスランのことも、1番側で見てきたのはキラです。
キラもまた、かなしみと後悔を抱いています。
カガリが涙を流す度に、アスランが後悔を滲ませる度に、
キラだってつらい思いを抱いてきたんですね。

さて、次回はまたしても時間が動き
カガリがスカンジナビアへ帰るカウントダウンが始まります。
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アスランはパーティーの間中、表面上は笑顔を浮かべてはいたが控えめに言っても楽しんでいるようには思えなかった。
バースデーケーキのケーキカットに至っては場が混乱し、
流石のアスランからも社交上の笑顔が消えて困惑した様子で。
あのままアスランを放っておくことも、
誰も手を出さない状況を見逃す事も出来なかった。
そこで急な仕事を言い訳にアスランをあの場から離れさせ、
即興で企画したじゃんけん大会が予想以上に盛り上がってくれて本当に良かったとカガリは思う。
これをきっかけに、カガリは普段関わりの無い部署の者達と交流できたのは嬉しいハプニングではあったが…。

カガリはソファーに身を預けて天井を仰いだ。

アスランがこんな誕生日を望んでいなかった事は確かだ。

──今朝、私がアスランを誘ったりしたからだ。

カガリは足元のカバンから携帯を取り出した。

──やっぱり、アスランに謝った方がいい…かな。

でも、今朝謝った時は逆にアスランに気を遣わせてしまったことを考えると安易に謝るのも気が引ける。
溜息が零れた時、喉が渇いていた事を思い出して冷蔵庫を開けた。
ファミリータイプの大型冷蔵庫の1番上、
昨夜焼いたチーズケーキが目に入ってカガリは苦い思いで視線を落とした。

──このケーキをアスランに渡す事は、
もう出来ないだろうな…。

それ以前に、おめでとうの一言さえ言えていない。

全部自分の播いた種だと分かっていても、
アスランに、大切な誕生日に、迷惑をかけてしまったと分かっていても、
カガリは涙を堪えきれず、
ゴシゴシと目元を擦った。
まるで高校生に戻ったように。



















ピンポーン。

土曜の朝から鳴ったインターフォンをキラは無視した。
この時間帯であれば宅配便では無いだろう、
だとしたら新聞の勧誘か何かだと決め込んで二度寝に入った。
が、

ピンポーン!
ピンポーン!
ピンポーン!

──3連打って、も~!!!

昼前まで寝るという健全な土曜日の過ごし方を邪魔されて、
不機嫌な顔でキラはリビングのインターフォン画面を見た、
瞬間、先程の不機嫌は吹き飛び小躍りしそうな勢いでマンションのロックを外した。

「ごめんな、キラ。
こんな朝から。
寝てただろ?」

「いいんだよ!
カガリならいつでも大歓迎!!!」

キラのマンションにやって来たのはカガリだった。
手には大きな紙袋を持っている。
キラの視線に気付いたカガリは困ったと言わんばかりに笑った。

「ケーキが余っちゃってさ。
でも、午前中には食べきらないと悪くなりそうで…。
キラなら朝からケーキ、いけるだろ?」

「もちろん!!
ホールだっていけちゃう!!」

「そう言うと思った。」

と、2人で笑い合った。
こうして2人でいるだけで離れていた時間を越えられる。
カガリと双子で良かったと、こんな瞬間にも奇跡を感じだ。

そしてこれも自分達が双子だからなんだろう。

「カガリ、何かあった?」

一目見た時から何か見えない糸のような違和感があったのだ。
その違和感は何処か懐かしい香りがした。
カガリは曖昧に笑って、

「おすすめの紅茶持ってきたから、今淹れるな。」

と、キッチンに立ってしまった。
紅茶を淹れる所作だけで、カガリがお嬢さまなのだと思い知る。
サッパリとした性格とのギャップからお育ちの良さが際立つ。

「じゃ、僕はケーキを用意しよーっと♪」

ケーキの箱を開けて、キラはパタンと箱を閉じた。

「はい、キラ。
ナイフと、それから皿な。
タルト地になってるから切るの大変かも!」

と、テキパキと出された指示に従えばこの箱の中のケーキを食べる事になるのだが、
その前にキラは確認しておきたかった。

「あのさぁ、カガリ。
このケーキ、本当に食べてもいい…んだよね?」

「変なこと言うなよ、
キラと一緒に食べるために持ってきたんだから。」

カガリは変わらぬ表情で手を動かしている。
こんなに指細かったっけ、なんて関係ない事をキラは考えてしまった。

キラはもう一度箱を開けて平皿にベイクドチーズケーキを出した。
ケーキにのったプレートに書かれた文字、
それこそがキラの感じた違和感の正体だった。

“ Happy birthday ! Athrun ”

カガリがダイニングテーブルに茶器を並べている間に、キラは空に語りかけるように天井を仰いだ。

──ねぇ、どうするべきだと思う?

応えが無いことを知っていても、
問うてしまうのはいつものキラの癖。
遠く離れた君を想って、
耳を澄ませて。

──そうだよね。

キラは手早く携帯を操作すると、
何気なさを装ってダイニングテーブルにケーキを運んだ。

「「いただきまーす!」」

向かい合って君と朝食を。
なんて贅沢な時間なんだ、とキラが浸っていた幸せの時間は携帯の着信音で遮られた。
この着信音を待ってた…のも事実だけど、
けどやっぱり、

──癪にさわるよねっ!

「オハヨー。」

キラは棒読みで電話に出た。
目の前のカガリがそっと席を外そうとしてくれて、キラは軽く手を上げて制した。

「残念、多分もう間に合わないよ。
ごしゅーしょーサマー。
じゃね。」

これくらい意地悪をしてもいいだろう、
だって多分、じゃなくて確実に、

──昨日の夜カガリを泣かせたのは君なんだから。

しかし、思いの外電話の相手は食い下がる。

──まぁ、これくらいの根性は見せてもらわないとね。

電話を切ると、カガリが心配そうにこっちを見ていたから、
にっこりと笑ってみせて

「さぁ、食べよう!」

と、カガリが並べたフォークを使わずに
キラはベイクドチーズケーキにかぶりついた。
カガリのお手製ベイクドチーズケーキは懐かしくて、そして

「しゃいこ〜!!!」

キラはほにゃりと目を細めて味わった。












彼がやって来たのは、
3杯目の紅茶のお代わりを飲み干した頃だった。
滅多に焦る事の無い君が、秋も深まったこの季節に汗だくなっいる。
こんな珍しい姿にキラは笑いが止まらなかったが、
ここは大切な妹を守る兄として毅然とした態度を示した。

「おはよー、思ったより早かったね。
でも残念、ケーキならもう売り切れだよ。」

玄関で棒読みで伝えると彼はズカズカとリビングへ向かい、
やれやれとキラは肩を竦めて後に続いた。
“キラ、お客さんかぁ?”と呑気な声を出したカガリは来客者を見て固まった。
キラは想像通りの展開に、やはり吹き出しそうになりググッと耐えた。

「アスラン…、なん…で?」

「ケーキ…。」

「へ?」

「ケーキを…、食べたい。」

耐えきれずキラに爆笑がリビングに響いた。
キラはひーひー言いながらアスランの肩を叩いて

「もっと他に言い方あるでしょ、アスラン!
面白すぎっ!」

アスランはばつが悪そうな表情をした後、ダイニングテーブルを見た。
中央の平皿にはタルト地のカケラしか残っていなかった、が、
メッセージプレートののった最後の1ピースがキラの座っていた席の前に残っていた、
最初の一口をかじられた状態で。

「これ、食べてもいいか?」

と聞かれたカガリは顔を真っ赤にして、キラの皿を取り上げた。

「ダメだっ、こんな食べかけっ!
そ、それにアスラン、二日酔いなのに朝からケーキなんて食べられないだろ?
また今度焼くから、その時にーー。」

「いいんだっ!
今、食べたい。
そのケーキを。」

あまりに不器用すぎるアスランに、
“でも…。”と言って瞳を揺らすかわいいカガリに、
キラはくすぐったいような気持ちになる。
最初はアスランの目の前で最後の1ピースをこれ見よがしに食べてやろうと思っていたが、

ーーまぁ、いっか。

面白過ぎる光景を見せてくれたお礼にとキラは親友にケーキを譲ることにした。

アスランがとても嬉しそうに笑うから、
そんなアスランを見るカガリが幸せそうだから、
きっとこれで良かったんだ。

ーーちょっと癪にさわるけどね!

ずっとかなしい恋に涙してきたカガリと、
ずっと後悔を抱いてきたアスランを、
僕はずっとそばで見てきた。
だからもう一度、2人が出会う時が来たら
絶対に応援しようと決めていた。
ただ見守るだけじゃなくて、今度は現実的な力になろう、と。

ーーねぇ、君達は知らないでしょ。
かなしみも、後悔も、
抱いていたのは君達だけじゃないって事を。

でも、応援の必要は無いのかもしれないとキラは思う。
だって、どう見てもこの2人はーー












昼前になって、カガリはフレイとミリィとランチの約束があるからと帰り支度を始めた。
ショートパンツからスラリと伸びる脚、透け感のあるニットから見える体のライン、
大人になっちゃったなぁとキラはぼんやりと思いつつ、
隣の不器用すぎる朴念仁をチラリと見る。

ーーねぇ、君。
こんなに可愛いカガリを毎日のように見てて、良く手を出さないよね?

ブーティーを履いてクルリと振り返って、“じゃぁな。”と振ったカガリの手を
いきなりアスランが掴んだ。
ぎょっとする僕。

ーーえっ!何なのっ?!

一方のカガリは、ほわんと頬を染めていて、

ーーそこは恐がる所でしょっ!

とキラはツッコミを入れる。

「ケーキ、ありがとう。
とても美味しかったし、嬉しかった。」

もう何処からつっこんでいいのか分からない程不器用な言葉なのに、

「良かった。
私も食べてもらえて、嬉しかった…ぞ。
お誕生日おめでとう、アスラン。」

応えるカガリのはにかんだ表情が超絶かわいくて、

ーーあぁ〜、もぉ〜!!

キラは身悶える。
カガリが扉の向こうへ消えると、キラはアスランに詰め寄ろうとして空振りに終わる。
アスランが“反則だろ…”と、その場にしゃがみ込んだからだ。
そんなアスランの胸ぐらを掴んで揺さぶった。

「ねぇ、君達何なのっ!
どうなってるのっ?
てか、良く我慢できるよねっ!
君ってホントに男なのっ?」

「意味が分からないぞ、キラ…。」

「意味分かんないのは君の方だから!」

リビングに移動すると、キラはテレビドラマで良くある取り調べのようにアスランを睨んだ。
全部吐けと言わんばかりのキラの表情に、アスランは“参ったな”と呟いて続けた。

「キラ、ケーキのことを教えてくれてありがとう。
また後悔する所だった。
それにさっきも。」

「さっきって?」

するとアスランは左手で目元を押さえた。

「玄関で…、
キラがいなければカガリに手を出していたかも…。」

と、ため息を落とすアスランにキラは

「手を出しちゃえばいいじゃん!
まぁ、手を出したらタダじゃおかないけど!!」

兄として、目の前で妹に手を出す輩がいればぶん殴るが、
あんなにかわいいカガリを目の前に何も出来ないのは男としてどうかと思う。
複雑な兄心というものだ。

「カガリの意思を無視してそんな事出来る訳無いだろう。」

と本気で真面目に遠い目をするアスランに、キラは目が点になる。

ーーはぁ?何言ってるの?
誕生日にわざわざ手作りのケーキ焼いてくれるんだよ、
あんなはにかんだ表情でお祝いしてくれるんだよ、
カガリの気持ちは分かりきってるじゃん!!

何も言わないキラを他所にアスランは続ける。

「キラも知ってるじゃないか、
カガリにずっと好きな人がいるって。」

ーーそれって、君の事でしょ?

「ずっとつらい恋をしているようで…。
そんなカガリに俺の気持ちを押し付けても、結果は見えているだろ。」

ーーうん、上手くいくよね。

「カガリを困らせるだけだ。」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ?」

キラの絶叫にアスランは目をむいた。

「君ってバカなんじゃないの?!」

「バカとは何だっ。俺は真剣にー」

「それは分かってるけど、う〜ぁあぁぁ、もうっ!」

キラ叫びながら頭を抱えた。
カガリの想いを伝えのは自分の役割じゃないとは分かっていても、
呆れる程真面目にすれ違っている2人を見るのはもどかしいを通り越して発狂しそうだ。
今朝のカガリの様子から、カガリもアスランの想いに気付いていないようで。

ーーと言うか、カガリは積極的に距離を取ろうとしてない?
あんな愛情ダダ漏れのケーキなんか作っておいて!

「キラ、大丈夫か。
さっきから様子がおかしいぞ。」

ーーおかしいのは君の方だからっ!

とツッコミを入れたい所をぐっと抑えて、キラはアスランに諭した。

「とにかく!
カガリはあと2ヶ月でスカンジナビアに帰っちゃうんだから、
もう押して押して押し倒すしかないんじゃないの?!」

キラのアドバイスは半ばヤケクソだったが、唯一にして決定的な作戦であることも事実だったが、

「そんな一方的にーー」

バカが付くほど誠実な彼には難易度が高すぎる作戦で。

ーーねぇ、どうしたらいいと思う?

キラは空を見上げるように天井を仰いだ。
遠く離れた君がいてくれたら、
そう思わずにはいられなかった。



ーーーーーーー

カガリのこともアスランのことも、1番側で見てきたのはキラです。
キラもまた、かなしみと後悔を抱いています。
カガリが涙を流す度に、アスランが後悔を滲ませる度に、
キラだってつらい思いを抱いてきたんですね。

さて、次回はまたしても時間が動き
カガリがスカンジナビアへ帰るカウントダウンが始まります。
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