忍者ブログ
soranokizunaのカケラたちや筆者のひとりごとを さらさらと ゆらゆらと
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


切り分けられたケーキが全員の手に渡った頃、アスランはこっそりと会場に戻り
窓際のシンとルナのテーブルについて、ゆったりとしたため息をついた。
やっと息ができる、そんな気分だった。




雫の音 ー shizuku no ne ー 15


拍手[11回]





カガリが余興として即興で企画したじゃんけん大会のお陰で、
アスランのバースデーパーティーからただの楽しい飲み会に空気が大きく変わった。
主役がいなくなった事で綺麗所の一極集中が解けて、
さらに元気と希望を取り戻した男達が積極的に動き出したのだ。
これも全てカガリのお陰だとアスランは思う。

「参ったけど助かったよ。
本当に、カガリはすごいな。」

と、アスランは懐かしさに目を細める。

「高校生の頃、俺は人付き合いが苦手なのに生徒会長になってしまって。
いつもカガリに助けてもらっていたな。」

くしゃりと笑ったアスランに、シンとルナもつられるように笑った。
そこへ会場を動き回っていたカガリが駆けてきた、
その姿はブルーのリボンにチェックのスカートを翻す、あの日のカガリが眩しく重なった。
カガリから、“余興に一役かってくれた女性達に感謝の言葉をかけて回れ。”、と耳打ちされ、
アスランは頷いた。

「私からもお礼は言ったんだけど、
きっとアスランから声をかけてもらった方がみんな喜ぶからさっ!」

彼女達にはお礼を言わなければならないが、
それ以上に感謝をしなければならない、
いや感謝をしたいのはーー

「わかった、直ぐに。
その前にカガリ、ありがーー。」

「カガリちゃーん!
みんな待ってるんだぜ。
さ、飲もう飲もう!」

アスランの言葉は遮られ、カガリは男に肩を抱かれて連れて行かれてしまった。
中程のテーブルには部署を跨いだ男達、だけではなく若手の女性職員も集まっており、
その中心でカガリはひまわりのような笑顔を向けていた。

今夜はあの笑顔を独り占めできる筈だったのに…。

アスランはルナから勧められた赤ワインを受け取って、やり切れなさを飲み込んだ。
今日が自分の誕生日だなんて、カガリに言われるまで忘れていた。
カガリが誕生日を覚えていてくれた事も、
初めて食事に誘ってくれた事も、

ーーすごく、嬉しかった。

今夜は2人で過ごせると思っていたのに…。
まともに会話もできない状況にアスランは何度目かのため息をついた。

ーー散々な誕生日だな。

アスランは気持ちを切り替えられないまま、カガリに教えてもらった功労者達へと挨拶に回った。









「あーあ、ありゃ何人カガリに落ちたかなぁ。」

シンとルナのテーブルに戻った時、何気無いシンの呟きをアスランは聞き逃さなかった。

ーー落ちたって…?

どういう意味なのか、ただ嫌な予感がアスランを焦られる。
ルナがシンに問う。

「落ちたって、惚れちゃったってこと?」

「そうそう、カガリってすごいモテるんだよ。
スカンジナビアではミスキャンパスよりも大学のアイドルよりも、
ある意味人気だったんじゃないかなぁ。」

昔を懐かしむようにシンが笑った。

「それも男女関係無く。
まぁ、分け隔て無く仲良くしちゃうし、ノーガードだからさ、
勘違いした男達が泣きを見るんだよ。」

「親みのあるカリスマ性っていうのかしら、矛盾してるかもしれないけど。
惹きつけられるものがあるあよね。
あの性格だし、笑顔に華があって、スタイルもいいし。」

シンとルナの会話を聞きながら、アスランは衝撃を受けていた。
カガリが魅力的な事は誰よりも知っている、
だからカガリがモテるのも理解は出来る、
が、実際にあのテーブルの中にカガリを狙う男がいるのを許せない。
今すぐカガリを連れ戻したい、そんな衝動に駆られた、

「スタイルはスゲェよ。
あぁ見えて隠れ巨乳だし、ヒップラインなんか最高だし!」

「へー、良くご存知でっ!」

「元カレですから。」

が、シンの発言にアスランは拳を握りしめる。
シンが元カレである以上、カガリを抱いた事がある…のだろう。
中学生のようなプラトニックなお付き合いを大学生がするなんて考えられない。
覚悟も理解もしていたが、言いようの無い感情が蠢く。
今朝、電車で抱きしめたカガリの体を、
自分のものにした男達がいるーー。
それを許した過去の自分が、何よりも許せない。

「でも、シンがちょっと羨ましいっ!
私も見てみたいっ!」

ここで嫉妬するのではなく、こうなる所がサッパリとしたルナの良さだ。
すると、

「じゃぁ、今度カガリさんを誘って温泉へ行こうよ、お姉ちゃん。」

どこからともなくメイリンが現れ、テーブルに収まった。

「カガリさんに今日のお礼もしたいし。
アスランさんも一緒に行きませんか?」

「えっ、あ…。
カガリに聞く方が先じゃないか。」

アスランはやっとの思いで言葉を繋いだ。
同僚と一緒にプライベートで外出した事なんて殆ど無く、
ましてや旅行なんて行った事は無い。
だけどカガリも行くのであれば一緒に行きたいし、

ーーもし飲みすぎて、この間のように寝てしまったらっ。

と考えてアスランはカガリのいるテーブルを見た。
まるで旧知の仲のように打ち解けた彼等と一緒に写真を撮っている、
その様子を見るに飲み過ぎでも飲まされ過ぎでも無いようだ。
アスランは腕時計を確認し、そろそろお開きであることにホッとした。

ーー疲れた…。

だから、早くカガリと2人きりになりたかった。
いつもの道を2人で帰りたい、
声が聞きたい。
でも本当はそれだけでは無くて、
手を繋いで、抱きしめて。
カガリが欲しいと、思う。
暴走気味な自分の思考にアスランは苦笑した。

ーーそれもこれも、今朝の電車のせいだ。

カガリが潰されないように守ろうとした、
事はきっかけに過ぎなくて、
この状況を言い訳にしてカガリを抱きしめていた。
カガリに触れるのは再会したあの日以来で、
煩い程に鼓動が打ってカガリに聞こえてしまうそうだと焦った時、
カガリからも鼓動が聞こえてきて、
その音とリズムが嬉しくて。
声をかけても返事をしてくれず、
でも髪の間から覗く耳たぶもうなじも真っ赤になっていて、
こんなにかわいい君を離すなんて事は無理だった。
再会したあの日に増して甘い匂いがする気がして、呼吸をする度に胸を満たした。

思い出しただけで体に熱がこもるようで、アスランは静めるように息を吐き出した。

お開きの時間となり、店員に促され各々身支度をし外へ流れ出した時、
アスランはカガリが例のテーブルのメンバーと外へ出たのを確認すると後を追いかけた。

「カガリっ。」

そう声を掛けようとして強く腕を引かれた。
見ればメイリンがガバリと頭を下げた。

「今日はすみませんでしたっ。
こんな大規模なパーティーになってしまって。」

「いや…、賑やかで、みんな楽しんでいたようだから。
幹事、大変だっただろ。
お疲れ様、ありがとう。」

と、アスランは切り上げようとしたが、メイリンが女子とは思えない力でしがみついてきた。
アスランは驚きで言葉を失った。

「あの、これじゃ私の気がすみませんっ。
この後、少しだけでいいんで、お礼をさせてくださいっ!」

お礼の意味が良く分からず反応に遅れた、のがアスランの最大の敗因だった。

「あらあらメイリン、少し酔ってるんじゃ無い?
幹事をねぎらって送ってあげたらアスラン。」

と言い出したのはルナで、
よりによって加勢に回ったのは、

「大丈夫か、メイリンっ!
アスラン、送ってやれよ。
色んな気苦労もあったろうに…、ご苦労様メイリン。」

カガリだった。
まるで何処かの国の騎士のように凛々しくメイリンを撫でる姿に、
周囲の女性から悲鳴が上がった。

「退路は断たれな、アスラン。」

シンにポムと肩を叩かれて、アスランは空に叫びたくなった。

ーー何て誕生日だっ!

そうこうしている内に、
カガリは先程の男に腰を抱かれて“もう一杯飲んで帰ろう”と誘われながら彼等の輪に飲み込まれ、
シンとルナは何だかんだで仲良く手を繋いで歩き出し、
残されたアスランはメイリンを送るしか無い現実を受け止めざるを得なかった。
もう何度目かの溜息を飲み込んで、“行こうか。”と声をかけようとしてアスランは携帯を取り出した。

「すまないが、1件だけ連絡を。」

「カガリさんに、ですか?」

メイリンの思わぬ返しにアスランは絶句し、結果的にメイリンに解答を伝えてしまったようなものだった。
するといきなりメイリンが笑い出し、本当にこの子は酔っ払っているのではないかと心配が募った。

「メ、メイリン…?」

胸元を抑えて呼吸を整えながら、メイリンは言った。

「スミマセン、私は大丈夫ですから。
ちょっと、予感的中に、びっくりして、ショックな筈なのにそんなにショックじゃなくてっ。」

アスランからしたらメイリンの発言の意味が分からず、しかもまた笑い出してしまった彼女を目の前に
カガリにメッセージを送る訳に行かず、携帯を片手にどうする事も出来なくなってしまった。

「直ぐに用件は終わりますから、少し歩きませんか?」

そう言われて、アスランは携帯を納めるとメイリンと並んで歩き出した。













「実は私、入社試験の時から、ずっとアスランさんの事を見てたんです。
一目惚れってやつです。」

アスランは驚いてメイリンを見た、
するとメイリンは困ったように笑った。

「やっぱり、気付いてませんでした…よね。
私、結構アスランさんのこと追いかけてたんですよ、
部署は違うけど少しは接点が出来るようにって頑張って!
アスランさんの事を観察するのが日課になって…、って、観察は失礼ですよね。」

アスランはこんな時に何と言ったらいいか分からず、
キラだったらどうするだろう、とコミュニケーションと距離感の達人の顔を思い浮かべていた。

「でも、突然アスランさんが変わったんです、丁度1ヶ月前から…。」

「変わった?」

聞き流しは出来なかった、
動機はどうであれ、外から見て自分の職場での立ち振る舞いやパフォーマンスの質が落ちていたのであれば
直ぐ改善しなければならない。
が、メイリンの応えはアスランの想像とは別物だった。

「アスランさん、良く笑うようになったっんです。
それも社交上の笑顔じゃなくて、もっと自然な感じで、
心から嬉しそうに、楽しそうに。」

つられるようにメイリンは笑った。

「わぁ〜、あんな風に笑うんだってビックリしちゃって!
で、なんで笑うようになったのか知りたくなって、毎日観察して。
そして気付いたんです、アスランさんの視線先にいつもカガリさんがいる事に。」

アスランは思わず立ち止まり、全身が冷え切って行くのを感じた。
自分の態度はそんなにあからさまだったのだろうか。

そんなアスランの思考を先回りして、メイリンはビシっと人差し指を立てた。

「大丈夫です、気付いているのは私くらいだと思います。
少なくとも、お姉ちゃんもシンも、もちろんカガリさんも気付いていませんし、
アスランさんとカガリさんの噂も聞きません。」

「…、そうか。」

メイリンの発言にほっとして、アスランはメイリンと共にもう一度歩き出す。

「どうしてカガリさんなんだろうって思って、
今度はカガリさんも観察するようになったんですけど、」

“本当に観察が好きなんだな。”と、アスランはおっとりと思いながら耳を傾けた。

「アスランさんが好きになるのも分かります、
太陽みたいにキラキラしてて、カガリさんはとってもステキで。
今日だって、あの状況でアスランさんを助けて、
あの場を盛り上げて、みーんなハッピーになって!
本当にすごい人で、かわいくて、優しくて、かっこよくて。
で、気が付いたら、私アスランさんよりカガリさんの方が好きになっちゃったんです。
それが今日、はっきりしました。
だから…、」

そう言って、メイリンはアスランの前に立ちはだかった。

「私達はライバルなんです!」

「…は?」

鳩が豆鉄砲をくらった、とはこんな顔なのだろう。
してやったりと、メイリンは笑った。

「冗談ですよ!もう、真面目過ぎるんだから!」

と言われて、アスランはやはり何と返していいのか分からないので、
メイリンが笑いのツボから脱するのをとりあえず待つことにした。
と、メイリンは“コホン”と咳払いをして仕切り直した。

「私はアスランさんの事も、カガリさんの事も大好きなんです。
だから、アスランさんへの恋を終わりにします!
そしてお二人の幸せを願っています!
今までありがとうございました!」

一息でそう言って、メイリンはペコリと頭を下げた。
アスランはやはりどう応えていいのか分からなかった。
だけど、

「メイリンはすごいな。」

素直な言葉が漏れた。

「自分の想いに正直で、
それを実行して、
想いを伝えて。」

全部アスランには出来なかったことだった、
どれ程長い間カガリを想っていても、自分の根幹に関わる程深く想っていても。
もう2度と後悔はしたくないし、諦めるつもりも無い。
だけど──

黙り込んでしまったアスランに、メイリンはビシィっと言い放った。

「アスランさんには頑張ってもらわなきゃ困ります!
それにのんびりしている時間は無いですよ、
カガリさんはあと2カ月でスカンジナビアへ帰っちゃうんですから!」

──あと2カ月。

「告白して気まずくなってお仕事に影響が出るかも、なんて考えてる場合じゃ無いんです!」

──それもあるが…。

他の誰かを想い続けるカガリに自分の想いを伝えた所で結果は見えている。
このままではだめなんだ。

──今の自分に何が出来るだろう。




曖昧に笑ったアスランを見て、メイリンは2人にはもっと別の事情があるのかもしれないと思う。
メイリンが2人を観察し続けて分かった事は、
アスランがカガリを想っているだけじゃない、

ーーきっとカガリさんも…。

ならば、とメイリンの瞳に決意が宿る。
2人の幸せのお手伝いをしなければ、と。
その胸の内には、使命感と、未来に約束した幸せと、
ほんの少しの切なさがあった。









メイリンと別れた後、カガリに連絡しようと携帯を出した。
するとカガリからのメッセージが届いていて、
二次会に参加せずに帰宅したのだろうとほっとした。

《アスラン、今日はお疲れ様。
パーティーはみんな楽しそうで大成功だったな。

言いそびれちゃったけど、
お誕生日おめでとう!!

おやすみなさい。》

──お誕生日おめでとう、か…。

本音を言えば、直接カガリから聞きたかった。
カガリからお祝いのメッセージをもらったのにそれ以上を望むなんて、
去年の自分が見たら怒られそうだ。
でも、もしあの時シン達と会わなければ、
もしあの時飲み会を断っておけば──
そう考えずにはいられなかった。




ーーーーーーーー

安定のタイミングの悪さですね、アスラン…(^◇^;)

カガリにお礼を言おうとしては連れ去られ、
一緒に帰ろうとしてはメイリンを送ってやれと言われ…。
嬉しかったのは通勤電車の間だけで散々な誕生日になってしまいました。

メイリンも悪気があった訳じゃないんですよ、
2人の邪魔をしたかった訳でも無く。
今後は陰ながら2人の応援団になってくれる事でしょう。

さて、こうしてアスランの誕生日の夜はふけていきます。
次回は誕生日の翌日のお話です。
なんと、キラ兄様視点でお話が進みますよ!
ということは………ドタバタ全開ですので、お楽しみに☆
PR


追記を閉じる▲




カガリが余興として即興で企画したじゃんけん大会のお陰で、
アスランのバースデーパーティーからただの楽しい飲み会に空気が大きく変わった。
主役がいなくなった事で綺麗所の一極集中が解けて、
さらに元気と希望を取り戻した男達が積極的に動き出したのだ。
これも全てカガリのお陰だとアスランは思う。

「参ったけど助かったよ。
本当に、カガリはすごいな。」

と、アスランは懐かしさに目を細める。

「高校生の頃、俺は人付き合いが苦手なのに生徒会長になってしまって。
いつもカガリに助けてもらっていたな。」

くしゃりと笑ったアスランに、シンとルナもつられるように笑った。
そこへ会場を動き回っていたカガリが駆けてきた、
その姿はブルーのリボンにチェックのスカートを翻す、あの日のカガリが眩しく重なった。
カガリから、“余興に一役かってくれた女性達に感謝の言葉をかけて回れ。”、と耳打ちされ、
アスランは頷いた。

「私からもお礼は言ったんだけど、
きっとアスランから声をかけてもらった方がみんな喜ぶからさっ!」

彼女達にはお礼を言わなければならないが、
それ以上に感謝をしなければならない、
いや感謝をしたいのはーー

「わかった、直ぐに。
その前にカガリ、ありがーー。」

「カガリちゃーん!
みんな待ってるんだぜ。
さ、飲もう飲もう!」

アスランの言葉は遮られ、カガリは男に肩を抱かれて連れて行かれてしまった。
中程のテーブルには部署を跨いだ男達、だけではなく若手の女性職員も集まっており、
その中心でカガリはひまわりのような笑顔を向けていた。

今夜はあの笑顔を独り占めできる筈だったのに…。

アスランはルナから勧められた赤ワインを受け取って、やり切れなさを飲み込んだ。
今日が自分の誕生日だなんて、カガリに言われるまで忘れていた。
カガリが誕生日を覚えていてくれた事も、
初めて食事に誘ってくれた事も、

ーーすごく、嬉しかった。

今夜は2人で過ごせると思っていたのに…。
まともに会話もできない状況にアスランは何度目かのため息をついた。

ーー散々な誕生日だな。

アスランは気持ちを切り替えられないまま、カガリに教えてもらった功労者達へと挨拶に回った。









「あーあ、ありゃ何人カガリに落ちたかなぁ。」

シンとルナのテーブルに戻った時、何気無いシンの呟きをアスランは聞き逃さなかった。

ーー落ちたって…?

どういう意味なのか、ただ嫌な予感がアスランを焦られる。
ルナがシンに問う。

「落ちたって、惚れちゃったってこと?」

「そうそう、カガリってすごいモテるんだよ。
スカンジナビアではミスキャンパスよりも大学のアイドルよりも、
ある意味人気だったんじゃないかなぁ。」

昔を懐かしむようにシンが笑った。

「それも男女関係無く。
まぁ、分け隔て無く仲良くしちゃうし、ノーガードだからさ、
勘違いした男達が泣きを見るんだよ。」

「親みのあるカリスマ性っていうのかしら、矛盾してるかもしれないけど。
惹きつけられるものがあるあよね。
あの性格だし、笑顔に華があって、スタイルもいいし。」

シンとルナの会話を聞きながら、アスランは衝撃を受けていた。
カガリが魅力的な事は誰よりも知っている、
だからカガリがモテるのも理解は出来る、
が、実際にあのテーブルの中にカガリを狙う男がいるのを許せない。
今すぐカガリを連れ戻したい、そんな衝動に駆られた、

「スタイルはスゲェよ。
あぁ見えて隠れ巨乳だし、ヒップラインなんか最高だし!」

「へー、良くご存知でっ!」

「元カレですから。」

が、シンの発言にアスランは拳を握りしめる。
シンが元カレである以上、カガリを抱いた事がある…のだろう。
中学生のようなプラトニックなお付き合いを大学生がするなんて考えられない。
覚悟も理解もしていたが、言いようの無い感情が蠢く。
今朝、電車で抱きしめたカガリの体を、
自分のものにした男達がいるーー。
それを許した過去の自分が、何よりも許せない。

「でも、シンがちょっと羨ましいっ!
私も見てみたいっ!」

ここで嫉妬するのではなく、こうなる所がサッパリとしたルナの良さだ。
すると、

「じゃぁ、今度カガリさんを誘って温泉へ行こうよ、お姉ちゃん。」

どこからともなくメイリンが現れ、テーブルに収まった。

「カガリさんに今日のお礼もしたいし。
アスランさんも一緒に行きませんか?」

「えっ、あ…。
カガリに聞く方が先じゃないか。」

アスランはやっとの思いで言葉を繋いだ。
同僚と一緒にプライベートで外出した事なんて殆ど無く、
ましてや旅行なんて行った事は無い。
だけどカガリも行くのであれば一緒に行きたいし、

ーーもし飲みすぎて、この間のように寝てしまったらっ。

と考えてアスランはカガリのいるテーブルを見た。
まるで旧知の仲のように打ち解けた彼等と一緒に写真を撮っている、
その様子を見るに飲み過ぎでも飲まされ過ぎでも無いようだ。
アスランは腕時計を確認し、そろそろお開きであることにホッとした。

ーー疲れた…。

だから、早くカガリと2人きりになりたかった。
いつもの道を2人で帰りたい、
声が聞きたい。
でも本当はそれだけでは無くて、
手を繋いで、抱きしめて。
カガリが欲しいと、思う。
暴走気味な自分の思考にアスランは苦笑した。

ーーそれもこれも、今朝の電車のせいだ。

カガリが潰されないように守ろうとした、
事はきっかけに過ぎなくて、
この状況を言い訳にしてカガリを抱きしめていた。
カガリに触れるのは再会したあの日以来で、
煩い程に鼓動が打ってカガリに聞こえてしまうそうだと焦った時、
カガリからも鼓動が聞こえてきて、
その音とリズムが嬉しくて。
声をかけても返事をしてくれず、
でも髪の間から覗く耳たぶもうなじも真っ赤になっていて、
こんなにかわいい君を離すなんて事は無理だった。
再会したあの日に増して甘い匂いがする気がして、呼吸をする度に胸を満たした。

思い出しただけで体に熱がこもるようで、アスランは静めるように息を吐き出した。

お開きの時間となり、店員に促され各々身支度をし外へ流れ出した時、
アスランはカガリが例のテーブルのメンバーと外へ出たのを確認すると後を追いかけた。

「カガリっ。」

そう声を掛けようとして強く腕を引かれた。
見ればメイリンがガバリと頭を下げた。

「今日はすみませんでしたっ。
こんな大規模なパーティーになってしまって。」

「いや…、賑やかで、みんな楽しんでいたようだから。
幹事、大変だっただろ。
お疲れ様、ありがとう。」

と、アスランは切り上げようとしたが、メイリンが女子とは思えない力でしがみついてきた。
アスランは驚きで言葉を失った。

「あの、これじゃ私の気がすみませんっ。
この後、少しだけでいいんで、お礼をさせてくださいっ!」

お礼の意味が良く分からず反応に遅れた、のがアスランの最大の敗因だった。

「あらあらメイリン、少し酔ってるんじゃ無い?
幹事をねぎらって送ってあげたらアスラン。」

と言い出したのはルナで、
よりによって加勢に回ったのは、

「大丈夫か、メイリンっ!
アスラン、送ってやれよ。
色んな気苦労もあったろうに…、ご苦労様メイリン。」

カガリだった。
まるで何処かの国の騎士のように凛々しくメイリンを撫でる姿に、
周囲の女性から悲鳴が上がった。

「退路は断たれな、アスラン。」

シンにポムと肩を叩かれて、アスランは空に叫びたくなった。

ーー何て誕生日だっ!

そうこうしている内に、
カガリは先程の男に腰を抱かれて“もう一杯飲んで帰ろう”と誘われながら彼等の輪に飲み込まれ、
シンとルナは何だかんだで仲良く手を繋いで歩き出し、
残されたアスランはメイリンを送るしか無い現実を受け止めざるを得なかった。
もう何度目かの溜息を飲み込んで、“行こうか。”と声をかけようとしてアスランは携帯を取り出した。

「すまないが、1件だけ連絡を。」

「カガリさんに、ですか?」

メイリンの思わぬ返しにアスランは絶句し、結果的にメイリンに解答を伝えてしまったようなものだった。
するといきなりメイリンが笑い出し、本当にこの子は酔っ払っているのではないかと心配が募った。

「メ、メイリン…?」

胸元を抑えて呼吸を整えながら、メイリンは言った。

「スミマセン、私は大丈夫ですから。
ちょっと、予感的中に、びっくりして、ショックな筈なのにそんなにショックじゃなくてっ。」

アスランからしたらメイリンの発言の意味が分からず、しかもまた笑い出してしまった彼女を目の前に
カガリにメッセージを送る訳に行かず、携帯を片手にどうする事も出来なくなってしまった。

「直ぐに用件は終わりますから、少し歩きませんか?」

そう言われて、アスランは携帯を納めるとメイリンと並んで歩き出した。













「実は私、入社試験の時から、ずっとアスランさんの事を見てたんです。
一目惚れってやつです。」

アスランは驚いてメイリンを見た、
するとメイリンは困ったように笑った。

「やっぱり、気付いてませんでした…よね。
私、結構アスランさんのこと追いかけてたんですよ、
部署は違うけど少しは接点が出来るようにって頑張って!
アスランさんの事を観察するのが日課になって…、って、観察は失礼ですよね。」

アスランはこんな時に何と言ったらいいか分からず、
キラだったらどうするだろう、とコミュニケーションと距離感の達人の顔を思い浮かべていた。

「でも、突然アスランさんが変わったんです、丁度1ヶ月前から…。」

「変わった?」

聞き流しは出来なかった、
動機はどうであれ、外から見て自分の職場での立ち振る舞いやパフォーマンスの質が落ちていたのであれば
直ぐ改善しなければならない。
が、メイリンの応えはアスランの想像とは別物だった。

「アスランさん、良く笑うようになったっんです。
それも社交上の笑顔じゃなくて、もっと自然な感じで、
心から嬉しそうに、楽しそうに。」

つられるようにメイリンは笑った。

「わぁ〜、あんな風に笑うんだってビックリしちゃって!
で、なんで笑うようになったのか知りたくなって、毎日観察して。
そして気付いたんです、アスランさんの視線先にいつもカガリさんがいる事に。」

アスランは思わず立ち止まり、全身が冷え切って行くのを感じた。
自分の態度はそんなにあからさまだったのだろうか。

そんなアスランの思考を先回りして、メイリンはビシっと人差し指を立てた。

「大丈夫です、気付いているのは私くらいだと思います。
少なくとも、お姉ちゃんもシンも、もちろんカガリさんも気付いていませんし、
アスランさんとカガリさんの噂も聞きません。」

「…、そうか。」

メイリンの発言にほっとして、アスランはメイリンと共にもう一度歩き出す。

「どうしてカガリさんなんだろうって思って、
今度はカガリさんも観察するようになったんですけど、」

“本当に観察が好きなんだな。”と、アスランはおっとりと思いながら耳を傾けた。

「アスランさんが好きになるのも分かります、
太陽みたいにキラキラしてて、カガリさんはとってもステキで。
今日だって、あの状況でアスランさんを助けて、
あの場を盛り上げて、みーんなハッピーになって!
本当にすごい人で、かわいくて、優しくて、かっこよくて。
で、気が付いたら、私アスランさんよりカガリさんの方が好きになっちゃったんです。
それが今日、はっきりしました。
だから…、」

そう言って、メイリンはアスランの前に立ちはだかった。

「私達はライバルなんです!」

「…は?」

鳩が豆鉄砲をくらった、とはこんな顔なのだろう。
してやったりと、メイリンは笑った。

「冗談ですよ!もう、真面目過ぎるんだから!」

と言われて、アスランはやはり何と返していいのか分からないので、
メイリンが笑いのツボから脱するのをとりあえず待つことにした。
と、メイリンは“コホン”と咳払いをして仕切り直した。

「私はアスランさんの事も、カガリさんの事も大好きなんです。
だから、アスランさんへの恋を終わりにします!
そしてお二人の幸せを願っています!
今までありがとうございました!」

一息でそう言って、メイリンはペコリと頭を下げた。
アスランはやはりどう応えていいのか分からなかった。
だけど、

「メイリンはすごいな。」

素直な言葉が漏れた。

「自分の想いに正直で、
それを実行して、
想いを伝えて。」

全部アスランには出来なかったことだった、
どれ程長い間カガリを想っていても、自分の根幹に関わる程深く想っていても。
もう2度と後悔はしたくないし、諦めるつもりも無い。
だけど──

黙り込んでしまったアスランに、メイリンはビシィっと言い放った。

「アスランさんには頑張ってもらわなきゃ困ります!
それにのんびりしている時間は無いですよ、
カガリさんはあと2カ月でスカンジナビアへ帰っちゃうんですから!」

──あと2カ月。

「告白して気まずくなってお仕事に影響が出るかも、なんて考えてる場合じゃ無いんです!」

──それもあるが…。

他の誰かを想い続けるカガリに自分の想いを伝えた所で結果は見えている。
このままではだめなんだ。

──今の自分に何が出来るだろう。




曖昧に笑ったアスランを見て、メイリンは2人にはもっと別の事情があるのかもしれないと思う。
メイリンが2人を観察し続けて分かった事は、
アスランがカガリを想っているだけじゃない、

ーーきっとカガリさんも…。

ならば、とメイリンの瞳に決意が宿る。
2人の幸せのお手伝いをしなければ、と。
その胸の内には、使命感と、未来に約束した幸せと、
ほんの少しの切なさがあった。









メイリンと別れた後、カガリに連絡しようと携帯を出した。
するとカガリからのメッセージが届いていて、
二次会に参加せずに帰宅したのだろうとほっとした。

《アスラン、今日はお疲れ様。
パーティーはみんな楽しそうで大成功だったな。

言いそびれちゃったけど、
お誕生日おめでとう!!

おやすみなさい。》

──お誕生日おめでとう、か…。

本音を言えば、直接カガリから聞きたかった。
カガリからお祝いのメッセージをもらったのにそれ以上を望むなんて、
去年の自分が見たら怒られそうだ。
でも、もしあの時シン達と会わなければ、
もしあの時飲み会を断っておけば──
そう考えずにはいられなかった。




ーーーーーーーー

安定のタイミングの悪さですね、アスラン…(^◇^;)

カガリにお礼を言おうとしては連れ去られ、
一緒に帰ろうとしてはメイリンを送ってやれと言われ…。
嬉しかったのは通勤電車の間だけで散々な誕生日になってしまいました。

メイリンも悪気があった訳じゃないんですよ、
2人の邪魔をしたかった訳でも無く。
今後は陰ながら2人の応援団になってくれる事でしょう。

さて、こうしてアスランの誕生日の夜はふけていきます。
次回は誕生日の翌日のお話です。
なんと、キラ兄様視点でお話が進みますよ!
ということは………ドタバタ全開ですので、お楽しみに☆
PR

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:
   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック