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soranokizunaのカケラたちや筆者のひとりごとを さらさらと ゆらゆらと
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オーブで初めて迎える月曜日、
カガリは緊張で朝食もろくに喉を通らなかった。
あのゴハン命のカガリが、である。

ーーやっぱり、一緒に通勤しようなんて約束しなきゃ良かった…。

もう何度目かのため息を飲み込んで、カガリはマンションのエントランスへ向かった。
“もう高校生じゃないんだぞっ!”、そう自分を鼓舞して。

「おはよう、カガリ。
行こうか。」

「う…、うんっ。」

高校生の頃とはまるで違った。
隣のアスランはあの頃よりも背が伸びて、スーツが似合う大人になっていて、
あの頃と変わらない恋心に振り回されっぱなしの自分だけが時が止まったように幼く感じる。
ただ隣を歩くだけで、
電車に揺られながら向き合うだけで、
こんなにも胸が高鳴って、
心臓がもたない。

そっとアスランを伺い見れば、どこか機嫌が良さそうで、
一緒に通勤するこの時間を楽しんでくれているのかと思うと、
ふわふわとした、
キラキラとした、
そんな気持ちになる。
初恋が生まれるような。




雫の音 ー shizuku no ne ー 13


拍手[12回]







叶わぬ恋の人、
その人との生活が始まる前は
胸の痛みとそれを塗り隠す作業の連続になることも覚悟した。
毎日仕事で顔を合わせ、帰宅すれば壁一枚向こう側にアスランの存在を感じて…、
普通で居られる筈無い。
でも、

「な?あり得ないだろ?」
「ホント、しんじられなーい!ね、カガリ。」

蓋を開けてみれば楽しい時間で溢れていた。
それもこれもシンとルナのお陰だと、カガリは心の底から感謝していた。
仕事の延長線上ギリギリラインの雑談が多い2人に、職場では笑いが止まらなかった。
でも、ここぞの集中力は驚異的で爆発力があり、流石若手のエースと言われる程だ。

直属の上司であるアスランはカガリの歓迎会の時に、

「その集中力を常にキープしてほしいんだが…。」

と苦笑していたが、カガリからみれば、

「その緩急の“緩”が大事なんだろ。
跳び箱の助走やロイター板の役割なんだよ、きっと。」

と言えば、シンとルナから

「「カガリ、分かってるぅ〜!!」」

と抱きつかれ、すっかり懐かれてしまった。
打ち込める仕事があることと刺激的な仲間がいることで、
いい汗をかいたような達成感が次のやる気を引き出す好循環がこの職場にはあった。
それがカガリをカガリとして支える一助になっていた。

ーーもう高校生の頃とは違うんだ。

そう自信を持って言える。
アスランを見る度に、
心が揺れ動く度に、
痛みに涙が溢れてしまうような
弱くて幼い自分じゃない。
恋はあの頃から止まったままかもしれないけれど、
確実に時は過ぎていて、
きっと、

ーー私も少しは大人になったんだ。













「で、アンタはそれでいいの?」

「へ?」

お好み焼きを前にしても美人は美人だなぁ、と
呑気にそんな事を思っていたカガリは、間抜けた返事をした。
するとフレイはあからさまにため息をついて、ビシィっとカガリにヘラを向けた。

「あんたはアスランの事を振り向かせたいんでしょ!
だったら、楽しい毎日を過ごしてるだけでいいのかって聞いてるの。
もうすぐオーブに来て1ヶ月経つのよ。」

音ハメのように絶妙なタイミングで、ミリィが豚玉をひっくり返して香ばしい音が響いた。

「そうね、カガリの出向期間って3ヶ月なんでしょ?
だったあと2ヶ月…、意外と時間無いわよ。」

「う…ん。」

カガリはミリィが切り分けてくれた明太餅チーズを口に入れた。
熱さにハフハフしながら、何と言ったらいいのかと頭を悩ませている時にミリィが、

「いくら今の距離感が良いからと言って、
このままで良いかどうかは分からないわよ。」

と、カガリの心をすっぱ抜き、
フレイが、

「現状維持なんてぬるい事言ってちゃダメよ!
絶対、後で後悔するんだからっ!」

と、今のカガリの態度をバッサリと切り捨てた。
ミリィとフレイの言う通りだった、
カガリは今のアスランとの距離感とオーブでの生活に満足していたのだ。

「毎日が楽しくて、面白くて、やりがいがあって、それに…。」

「何よ。」

「アスランが、良く嬉しそうな顔してて…。」

ふとした時に見せるアスランの表情は穏やかで、
カガリの大好きな笑顔で。
もしアスランの笑顔を作っているのが今の生活なら、

「このままでいた方がいいのかなって。」

高校生の頃、涙を堪えられなくなるから、
正面から見る事が出来なくなったアスランの笑顔。
それをありふれた奇跡のように毎日見ることができる。
それだけでオーブに戻ってきて良かった思える。

「バッカじゃないの!」

ガツンっ、とフレイが鉄板の豚玉を真っ二つに切った。

「失った高校生活取り戻してる場合じゃないのよ。
モーションかけなきゃっ。」

「も、モーションって言われても。
何をどうするんだよ。」

タジタジなカガリに、ミリィが“まぁまぁ”となだめながら追加のマヨネーズをかけた。
意外な事にマヨラーだ。

「駆け引きなんて考えなくていいのよ、
ただ、“あなたの事が好きなんです”って、ほんのちょっと示すだけで、ね。」

するとカガリは立ち上がらんばかりに手を振った。

「そんなの無理無理!
だって、それで失敗しちゃったんだから…。」

だんだん声と共に体も小さくなるカガリに、フレイがはっぱをかける。

「大丈夫よ!
失敗があるからこそ、今度はちゃんと出来るって考えなきゃ。」

「それに、真っ直ぐな所がカガリのいい所なんだし。
そのままでいいのよ。」

恋愛経験が乏しいカガリにとっては難しい問題で、

「もっと具体的に言ってくれないと分からないぞっ!」

と声を上げると、待ってましたとばかりに2人に作戦を叩き込まれた。
そうして気付くのだ、これが2人の狙いだったのだと。
お好み焼き屋を出る時、フレイとミリィは大満足の顔をしていたが、
カガリは実習レポートを課された大学生のような気分だった。





ーーーーーーーーーーー

お好み焼き、いいですよね。

カガリがオーブに来て1ヶ月もたったのに進展無し…。
何やってるんだよアスラン!と、お叱りの声が聞こえてきそうですね(^◇^;)

さぁ、フレイ様とミリィ編集長の作戦とはいかに!?
次回からドタバタの展開です☆
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叶わぬ恋の人、
その人との生活が始まる前は
胸の痛みとそれを塗り隠す作業の連続になることも覚悟した。
毎日仕事で顔を合わせ、帰宅すれば壁一枚向こう側にアスランの存在を感じて…、
普通で居られる筈無い。
でも、

「な?あり得ないだろ?」
「ホント、しんじられなーい!ね、カガリ。」

蓋を開けてみれば楽しい時間で溢れていた。
それもこれもシンとルナのお陰だと、カガリは心の底から感謝していた。
仕事の延長線上ギリギリラインの雑談が多い2人に、職場では笑いが止まらなかった。
でも、ここぞの集中力は驚異的で爆発力があり、流石若手のエースと言われる程だ。

直属の上司であるアスランはカガリの歓迎会の時に、

「その集中力を常にキープしてほしいんだが…。」

と苦笑していたが、カガリからみれば、

「その緩急の“緩”が大事なんだろ。
跳び箱の助走やロイター板の役割なんだよ、きっと。」

と言えば、シンとルナから

「「カガリ、分かってるぅ〜!!」」

と抱きつかれ、すっかり懐かれてしまった。
打ち込める仕事があることと刺激的な仲間がいることで、
いい汗をかいたような達成感が次のやる気を引き出す好循環がこの職場にはあった。
それがカガリをカガリとして支える一助になっていた。

ーーもう高校生の頃とは違うんだ。

そう自信を持って言える。
アスランを見る度に、
心が揺れ動く度に、
痛みに涙が溢れてしまうような
弱くて幼い自分じゃない。
恋はあの頃から止まったままかもしれないけれど、
確実に時は過ぎていて、
きっと、

ーー私も少しは大人になったんだ。













「で、アンタはそれでいいの?」

「へ?」

お好み焼きを前にしても美人は美人だなぁ、と
呑気にそんな事を思っていたカガリは、間抜けた返事をした。
するとフレイはあからさまにため息をついて、ビシィっとカガリにヘラを向けた。

「あんたはアスランの事を振り向かせたいんでしょ!
だったら、楽しい毎日を過ごしてるだけでいいのかって聞いてるの。
もうすぐオーブに来て1ヶ月経つのよ。」

音ハメのように絶妙なタイミングで、ミリィが豚玉をひっくり返して香ばしい音が響いた。

「そうね、カガリの出向期間って3ヶ月なんでしょ?
だったあと2ヶ月…、意外と時間無いわよ。」

「う…ん。」

カガリはミリィが切り分けてくれた明太餅チーズを口に入れた。
熱さにハフハフしながら、何と言ったらいいのかと頭を悩ませている時にミリィが、

「いくら今の距離感が良いからと言って、
このままで良いかどうかは分からないわよ。」

と、カガリの心をすっぱ抜き、
フレイが、

「現状維持なんてぬるい事言ってちゃダメよ!
絶対、後で後悔するんだからっ!」

と、今のカガリの態度をバッサリと切り捨てた。
ミリィとフレイの言う通りだった、
カガリは今のアスランとの距離感とオーブでの生活に満足していたのだ。

「毎日が楽しくて、面白くて、やりがいがあって、それに…。」

「何よ。」

「アスランが、良く嬉しそうな顔してて…。」

ふとした時に見せるアスランの表情は穏やかで、
カガリの大好きな笑顔で。
もしアスランの笑顔を作っているのが今の生活なら、

「このままでいた方がいいのかなって。」

高校生の頃、涙を堪えられなくなるから、
正面から見る事が出来なくなったアスランの笑顔。
それをありふれた奇跡のように毎日見ることができる。
それだけでオーブに戻ってきて良かった思える。

「バッカじゃないの!」

ガツンっ、とフレイが鉄板の豚玉を真っ二つに切った。

「失った高校生活取り戻してる場合じゃないのよ。
モーションかけなきゃっ。」

「も、モーションって言われても。
何をどうするんだよ。」

タジタジなカガリに、ミリィが“まぁまぁ”となだめながら追加のマヨネーズをかけた。
意外な事にマヨラーだ。

「駆け引きなんて考えなくていいのよ、
ただ、“あなたの事が好きなんです”って、ほんのちょっと示すだけで、ね。」

するとカガリは立ち上がらんばかりに手を振った。

「そんなの無理無理!
だって、それで失敗しちゃったんだから…。」

だんだん声と共に体も小さくなるカガリに、フレイがはっぱをかける。

「大丈夫よ!
失敗があるからこそ、今度はちゃんと出来るって考えなきゃ。」

「それに、真っ直ぐな所がカガリのいい所なんだし。
そのままでいいのよ。」

恋愛経験が乏しいカガリにとっては難しい問題で、

「もっと具体的に言ってくれないと分からないぞっ!」

と声を上げると、待ってましたとばかりに2人に作戦を叩き込まれた。
そうして気付くのだ、これが2人の狙いだったのだと。
お好み焼き屋を出る時、フレイとミリィは大満足の顔をしていたが、
カガリは実習レポートを課された大学生のような気分だった。





ーーーーーーーーーーー

お好み焼き、いいですよね。

カガリがオーブに来て1ヶ月もたったのに進展無し…。
何やってるんだよアスラン!と、お叱りの声が聞こえてきそうですね(^◇^;)

さぁ、フレイ様とミリィ編集長の作戦とはいかに!?
次回からドタバタの展開です☆
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