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金曜日の夜だというのに一向に帰り支度を始めないシンに、
アスランはパソコン越しに声をかけた。
「急ぎのものが無ければ帰っていいぞ。」
フロアに残っているのはアスランとシンのみだったため
声は思いの外響いた。
「急ぎっちゃぁ、急ぎなんだけど…。」
歯切れの悪いシンの手は止まっている、
という事はーー
「すまない、俺の決裁待ちかっ。」
と、アスランが慌てて書類を探そうとした手はシンの声に遮られる。
「いや、待ってるのはアスラン、
あんた。」
「え…。」
シンの眼差しに決心にも似た熱量を感じて、アスランはパソコンの電源を落として手早く帰り支度をした。
アスランとて急務に追われて残業をしていた訳では無かった、
ただあの部屋へ帰りたくなかった。
壁一枚向こうにカガリの存在を感じ、その度に後悔が募りそうで。
シンは何か話があるのだろう、
今の仕事の事か、それとも1月の昇格試験の事か…
プライベートの事を相談されても自分にアドバイス出来る事なんて何も無いし…。
内容がどうであれ本人がリラックスできるようシンに店を任せた所ーー
「じゃ、ここで!」
と、シンが意気揚々とのれんをくぐったのは
意外にもお好み焼き屋だった。
早速シンはジャケット脱いでネクタイを外すと、ぐいっと袖を捲り上げた。
「せーの、おりゃ~っ!」
気合十分でひっくり返したお好み焼きは鉄板の上をずるっと滑り
“あちゃー。”とシンはヘラで形を整えていた。
この様子ではしばらく相談の雰囲気では無いなと、アスランがおっとりと考えていた間に
歪な形の明太もちチーズが皿にのった。
「熱っっ。でも、うみゃぁ~いっ!」
シンは猫舌なのだろう、なのに切り分けたお好み焼きを冷ます事はせず
一気に口に入れては飛び上がり、
でも美味しさが全身から伝わってきてアスランは目を細める。
何処かカガリに似ている、
きっとカガリもこんな風に食べるんじゃないか。
ふーふーとお好み焼きに息を吹きかければいいのに、
そんなの待っていられないと頬張ってーー
目の前のシンにカガリの姿が重なって、アスランの胸に重層的な痛みが過ぎる。
それは、例え過去であってもカガリと恋人となり得たシンへの嫉妬でもあり、
昨夜カガリの意思を無視して傷付けた罪悪感でもあった。
「アスランって、お好み焼きでさえキレイだよなぁ。」
不意打ちのようなシンの発言に、意を解せずアスランは箸を止める。
「食べる所作っての?カガリに似てるなって。
2人とも、ふとした所から育ちの良さが見えるっていうか。」
「いや、似ているのはシンの方だ。
2人が同じ空気を纏っているように見えるから。」
再会した会議室でも、
休憩室で肩を並べていた時もーー
するとシンは驚きに瞳を開いた後、フイと視線を逸らした。
「気が合うだけ、じゃダメなんだって。」
何かを含んだシンの言葉を
“ハイ、豚玉お待ち~!”とハツラツとした店員に阻まれ、
“今度はアスランの番っ!”とシンに手渡されたので
アスランは説明書きを見ながら鉄板にタネを落とした。
鉄板から湯気と共になんとも言えない音が上がって、胃袋に直接響くようだ。
と、アスランが豚玉に集中している時だった。
「俺、カガリと付き合う前から、
カガリには別に好きな奴がいるって気づいてたんだ。
でも、自信があったんだよなぁ、ソイツを超えてやるってさ。
でもーー。」
飲み干したビールジョッキをゴトリと置いた。
「ダメだった。
どう頑張ってもダメっ!ってのが分かったのは、
カガリがキスさせてくれなかったから。」
「ーーえ。」
2人の間に沈黙が落ちる。
「あ、それ、そろそろひっくり返さないとっ!」
シンの声に条件反射して、アスランは豚玉をひっくり返した。
満月のような生地の上にこんがりと焼き色のついた豚バラ、
まるで雑誌から切り出したような出来栄えに
「くっそ~!
仕事も出来てお好み焼きも上手いって、
アンタ何者なんだよっ!」
と、シンはよく分からない事を言いながら
勢いのままにバシバシとソースとマヨネーズ、鰹節に青のりをトッピングして
2人の皿に豚玉が並んだ。
アスランは初めて焼いた豚玉を咀嚼しながらも
シンの言葉が全身を満たして味が分からなかった。
ーー“キスさせてもらえなかった”って…。
自ら導き出した解に、アスランの思考は冷え切っていく。
カガリは忘れられない人がいると言っていた、
その人以外のキスは受け入れられないのではないか、
今もーー。
アスランは血の気の失せた頭を抱えたくなった。
カガリの意思も大切にしてきた想いも無視して、
感情のままにキスをした、
それも一度では無い。
改めて己の罪の重さと深さを自覚して、アスランの視線が落ちた。
ーーどうすればいい。
あの日の事を蒸し返して謝る事がカガリにとって最善なのだろうか、
それともカガリの記憶に無い以上、もう無かった事にして黙っておくべきか、
いずれにせよ、次の出勤日の朝、どんな顔でカガリと会えばいいーー
「で、元カレの立場からお願いです。」
突然畏まったシンにつられるようにアスランは箸を置いた。
唇の端にソースを付けたシンはすっと頭を下げた、まるで騎士が礼をするように。
「カガリの悲しい恋を終わらせてやってください。」
「な、何を言ってーー」
カガリは“忘れられない人”以外受け入れられないのだと、
そう言ったのはシンだ。
ーーなのにどうして。
「もう時間が無いんだ。
カガリがスカンジナビアへ帰るからじゃない。
もうこれ以上、1分秒1秒だって悲しませたくない。」
顔を上げたシンの真紅の瞳に射抜かれる。
どんな弱音も言い訳も遮断する、強い眼差しにアスランは何も言えなくなる。
「だけど俺には、カガリの悲しみを終わりに出来なかったから。
学生の頃も、今も。
俺には出来ない。」
滲み出る苦味に、シンがどれ程カガリの事を想っていたのか、
何も出来なかった事を悔やんできたのかが分かる。
どんなに想っても、力を尽くしても、カガリの悲しみに手は届かない。
アスランは共鳴した胸の奥からため息を漏らした。
「俺だって同じだ。
カガリの悲しみを終わらせる事なんてーー。」
「出来る。
アスランなら、出来る。」
アスランの言葉を遮ってシンは言い切った。
根拠の見えない自信にアスランは困惑する。
「いや、俺にそんな…。
そもそも俺はカガリから殆ど何も聞いていない、
話したく無い…みたいだし。」
シンには涙も弱さも見せるのに、
フレイやミリアリアには以前から相談していたのに、
ーー俺には何も…。
「いつも側にいて笑ってくれるのに、自分の悲しみは見せない。
昔からそうだった。
俺とカガリの関係は。」
ーー悲しみから救ってくれたのは君なのに。
俺は君の悲しみに気付かずに、今もずっと何も出来ない。
「だから諦めんのかよ。
カガリが悲しんでるのを知りながら見て見ぬ振りして、
何処かの誰かがカガリを幸せにしてくれるのを、ずーっと待つのかよっ。」
「そんな事は言ってないーー」
「やってる事は同じだろっ。」
シンの言葉に撃たれる。
その通りだった。
でも、
「だからと言って、カガリが望んでもいないのに、
俺が何をしたって迷惑だろ。」
「そうだな。」
あっさりと肯定するシンにアスランは眉根を寄せる。
さっきから彼の言っている事は、“カガリを守りたい”という1本の軸がある以外は
支離滅裂なように思えてならない。
“イカ天お待ち~っ!”と、ハツラツとした店員にシンは生中2つを頼む。
タネの入ったボールをさりげなくアスラン側に寄せた事から、作れと言われているようで
アスランは豚玉の要領でタネを鉄板に落とした。
「でもさぁ、カガリがこれから何を望むかなんてわからない。
変わるかもしれないし、
変えられるかもしれない。
だから、大事なのはーー」
シンは劔の切っ尖を突き付けるように、アスランにヘラを向けた。
「アンタがどうしたいか、だ。」
ーーそんなの決まっている。
カガリを幸せにしたい。
他の誰でもない、俺が…。
だけどシンの言う通り、カガリの望みを変える事なんて現実的に可能なのだろうか。
ーーそんな、世界を変えるようなこと、俺には…。
その瞬間、過去のカガリの声が胸に響いた。
『大丈夫、アスランを1人にはしない、私もキラも手伝うから!
でもな、これはアスランがいなくちゃ出来ないんだ。』
あれは高校2年生の春、生徒会長に立候補する事に思い悩んでいた時、
背中を押してくれたのはカガリだった。
あの時は、カガリとキラの支えがあって生徒会長の責務を全うできて、
ニコルを亡くした時は、カガリが無条件の優しさを差し出してくれて…。
いつだって、カガリが俺の世界を変えてくれた。
だから今度は、
ーー俺が、君の世界を…。
「大丈夫っ!
元カレが言うんだから間違いないっ!」
何故か背後からルナの声がして、
振り返れば、半個室として立てられた仕切りの横からルナとメイリンが顔を出していて
「アスランさんっ、そろそろひっくり返さないとっ!」
メイリン声にハッとなったアスランは手早くイカ天をひっくり返した。
満月のように丸くふっくらとした焼き上がりに、
「くそ~っ!
やっぱりアスラン、焼くのうめぇっ!」
と、シンが悔しがり
ルナとメイリンがテーブルに雪崩れ込んできて。
同僚に自分の胸の内が何処まで筒抜けだったのか気恥ずかしくなったが
それ以上に彼等の気持ちが嬉しかった。
背中を蹴飛ばすような、エールをもらった気がした。
帰路に着いた足取は決して軽いものではなかったけれど、確かなものだった。
冬の星座に手を伸ばす。
白い息に霞む星ーー。
『もう時間が無いんだ。』
シンの言葉が胸を過ぎる。
『カガリがスカンジナビアへ帰るからじゃない。
もうこれ以上、1分秒1秒だって悲しませたくない。』
その通りだ。
もうこれ以上、カガリが悲しみの雫を落とさないように。
君の世界を変えて――
――俺に出来ること、
君が望むこと。
それが重なる奇跡を、
自分は起こせるのだろうか。
ーーーー
シンがちょっとカッコいいですよね!
時間が無いのは、カガリがスカンジナビアへ帰ってしまうからじゃない、
もうこれ以上、1分1秒だって悲しませたくない…。
アスラン、ホントそれよ!!
さぁ、次回から2人は駆け出していきます。
どうか見守っていただければ幸いです。
アスランはパソコン越しに声をかけた。
「急ぎのものが無ければ帰っていいぞ。」
フロアに残っているのはアスランとシンのみだったため
声は思いの外響いた。
「急ぎっちゃぁ、急ぎなんだけど…。」
歯切れの悪いシンの手は止まっている、
という事はーー
「すまない、俺の決裁待ちかっ。」
と、アスランが慌てて書類を探そうとした手はシンの声に遮られる。
「いや、待ってるのはアスラン、
あんた。」
「え…。」
シンの眼差しに決心にも似た熱量を感じて、アスランはパソコンの電源を落として手早く帰り支度をした。
アスランとて急務に追われて残業をしていた訳では無かった、
ただあの部屋へ帰りたくなかった。
壁一枚向こうにカガリの存在を感じ、その度に後悔が募りそうで。
シンは何か話があるのだろう、
今の仕事の事か、それとも1月の昇格試験の事か…
プライベートの事を相談されても自分にアドバイス出来る事なんて何も無いし…。
内容がどうであれ本人がリラックスできるようシンに店を任せた所ーー
「じゃ、ここで!」
と、シンが意気揚々とのれんをくぐったのは
意外にもお好み焼き屋だった。
早速シンはジャケット脱いでネクタイを外すと、ぐいっと袖を捲り上げた。
「せーの、おりゃ~っ!」
気合十分でひっくり返したお好み焼きは鉄板の上をずるっと滑り
“あちゃー。”とシンはヘラで形を整えていた。
この様子ではしばらく相談の雰囲気では無いなと、アスランがおっとりと考えていた間に
歪な形の明太もちチーズが皿にのった。
「熱っっ。でも、うみゃぁ~いっ!」
シンは猫舌なのだろう、なのに切り分けたお好み焼きを冷ます事はせず
一気に口に入れては飛び上がり、
でも美味しさが全身から伝わってきてアスランは目を細める。
何処かカガリに似ている、
きっとカガリもこんな風に食べるんじゃないか。
ふーふーとお好み焼きに息を吹きかければいいのに、
そんなの待っていられないと頬張ってーー
目の前のシンにカガリの姿が重なって、アスランの胸に重層的な痛みが過ぎる。
それは、例え過去であってもカガリと恋人となり得たシンへの嫉妬でもあり、
昨夜カガリの意思を無視して傷付けた罪悪感でもあった。
「アスランって、お好み焼きでさえキレイだよなぁ。」
不意打ちのようなシンの発言に、意を解せずアスランは箸を止める。
「食べる所作っての?カガリに似てるなって。
2人とも、ふとした所から育ちの良さが見えるっていうか。」
「いや、似ているのはシンの方だ。
2人が同じ空気を纏っているように見えるから。」
再会した会議室でも、
休憩室で肩を並べていた時もーー
するとシンは驚きに瞳を開いた後、フイと視線を逸らした。
「気が合うだけ、じゃダメなんだって。」
何かを含んだシンの言葉を
“ハイ、豚玉お待ち~!”とハツラツとした店員に阻まれ、
“今度はアスランの番っ!”とシンに手渡されたので
アスランは説明書きを見ながら鉄板にタネを落とした。
鉄板から湯気と共になんとも言えない音が上がって、胃袋に直接響くようだ。
と、アスランが豚玉に集中している時だった。
「俺、カガリと付き合う前から、
カガリには別に好きな奴がいるって気づいてたんだ。
でも、自信があったんだよなぁ、ソイツを超えてやるってさ。
でもーー。」
飲み干したビールジョッキをゴトリと置いた。
「ダメだった。
どう頑張ってもダメっ!ってのが分かったのは、
カガリがキスさせてくれなかったから。」
「ーーえ。」
2人の間に沈黙が落ちる。
「あ、それ、そろそろひっくり返さないとっ!」
シンの声に条件反射して、アスランは豚玉をひっくり返した。
満月のような生地の上にこんがりと焼き色のついた豚バラ、
まるで雑誌から切り出したような出来栄えに
「くっそ~!
仕事も出来てお好み焼きも上手いって、
アンタ何者なんだよっ!」
と、シンはよく分からない事を言いながら
勢いのままにバシバシとソースとマヨネーズ、鰹節に青のりをトッピングして
2人の皿に豚玉が並んだ。
アスランは初めて焼いた豚玉を咀嚼しながらも
シンの言葉が全身を満たして味が分からなかった。
ーー“キスさせてもらえなかった”って…。
自ら導き出した解に、アスランの思考は冷え切っていく。
カガリは忘れられない人がいると言っていた、
その人以外のキスは受け入れられないのではないか、
今もーー。
アスランは血の気の失せた頭を抱えたくなった。
カガリの意思も大切にしてきた想いも無視して、
感情のままにキスをした、
それも一度では無い。
改めて己の罪の重さと深さを自覚して、アスランの視線が落ちた。
ーーどうすればいい。
あの日の事を蒸し返して謝る事がカガリにとって最善なのだろうか、
それともカガリの記憶に無い以上、もう無かった事にして黙っておくべきか、
いずれにせよ、次の出勤日の朝、どんな顔でカガリと会えばいいーー
「で、元カレの立場からお願いです。」
突然畏まったシンにつられるようにアスランは箸を置いた。
唇の端にソースを付けたシンはすっと頭を下げた、まるで騎士が礼をするように。
「カガリの悲しい恋を終わらせてやってください。」
「な、何を言ってーー」
カガリは“忘れられない人”以外受け入れられないのだと、
そう言ったのはシンだ。
ーーなのにどうして。
「もう時間が無いんだ。
カガリがスカンジナビアへ帰るからじゃない。
もうこれ以上、1分秒1秒だって悲しませたくない。」
顔を上げたシンの真紅の瞳に射抜かれる。
どんな弱音も言い訳も遮断する、強い眼差しにアスランは何も言えなくなる。
「だけど俺には、カガリの悲しみを終わりに出来なかったから。
学生の頃も、今も。
俺には出来ない。」
滲み出る苦味に、シンがどれ程カガリの事を想っていたのか、
何も出来なかった事を悔やんできたのかが分かる。
どんなに想っても、力を尽くしても、カガリの悲しみに手は届かない。
アスランは共鳴した胸の奥からため息を漏らした。
「俺だって同じだ。
カガリの悲しみを終わらせる事なんてーー。」
「出来る。
アスランなら、出来る。」
アスランの言葉を遮ってシンは言い切った。
根拠の見えない自信にアスランは困惑する。
「いや、俺にそんな…。
そもそも俺はカガリから殆ど何も聞いていない、
話したく無い…みたいだし。」
シンには涙も弱さも見せるのに、
フレイやミリアリアには以前から相談していたのに、
ーー俺には何も…。
「いつも側にいて笑ってくれるのに、自分の悲しみは見せない。
昔からそうだった。
俺とカガリの関係は。」
ーー悲しみから救ってくれたのは君なのに。
俺は君の悲しみに気付かずに、今もずっと何も出来ない。
「だから諦めんのかよ。
カガリが悲しんでるのを知りながら見て見ぬ振りして、
何処かの誰かがカガリを幸せにしてくれるのを、ずーっと待つのかよっ。」
「そんな事は言ってないーー」
「やってる事は同じだろっ。」
シンの言葉に撃たれる。
その通りだった。
でも、
「だからと言って、カガリが望んでもいないのに、
俺が何をしたって迷惑だろ。」
「そうだな。」
あっさりと肯定するシンにアスランは眉根を寄せる。
さっきから彼の言っている事は、“カガリを守りたい”という1本の軸がある以外は
支離滅裂なように思えてならない。
“イカ天お待ち~っ!”と、ハツラツとした店員にシンは生中2つを頼む。
タネの入ったボールをさりげなくアスラン側に寄せた事から、作れと言われているようで
アスランは豚玉の要領でタネを鉄板に落とした。
「でもさぁ、カガリがこれから何を望むかなんてわからない。
変わるかもしれないし、
変えられるかもしれない。
だから、大事なのはーー」
シンは劔の切っ尖を突き付けるように、アスランにヘラを向けた。
「アンタがどうしたいか、だ。」
ーーそんなの決まっている。
カガリを幸せにしたい。
他の誰でもない、俺が…。
だけどシンの言う通り、カガリの望みを変える事なんて現実的に可能なのだろうか。
ーーそんな、世界を変えるようなこと、俺には…。
その瞬間、過去のカガリの声が胸に響いた。
『大丈夫、アスランを1人にはしない、私もキラも手伝うから!
でもな、これはアスランがいなくちゃ出来ないんだ。』
あれは高校2年生の春、生徒会長に立候補する事に思い悩んでいた時、
背中を押してくれたのはカガリだった。
あの時は、カガリとキラの支えがあって生徒会長の責務を全うできて、
ニコルを亡くした時は、カガリが無条件の優しさを差し出してくれて…。
いつだって、カガリが俺の世界を変えてくれた。
だから今度は、
ーー俺が、君の世界を…。
「大丈夫っ!
元カレが言うんだから間違いないっ!」
何故か背後からルナの声がして、
振り返れば、半個室として立てられた仕切りの横からルナとメイリンが顔を出していて
「アスランさんっ、そろそろひっくり返さないとっ!」
メイリン声にハッとなったアスランは手早くイカ天をひっくり返した。
満月のように丸くふっくらとした焼き上がりに、
「くそ~っ!
やっぱりアスラン、焼くのうめぇっ!」
と、シンが悔しがり
ルナとメイリンがテーブルに雪崩れ込んできて。
同僚に自分の胸の内が何処まで筒抜けだったのか気恥ずかしくなったが
それ以上に彼等の気持ちが嬉しかった。
背中を蹴飛ばすような、エールをもらった気がした。
帰路に着いた足取は決して軽いものではなかったけれど、確かなものだった。
冬の星座に手を伸ばす。
白い息に霞む星ーー。
『もう時間が無いんだ。』
シンの言葉が胸を過ぎる。
『カガリがスカンジナビアへ帰るからじゃない。
もうこれ以上、1分秒1秒だって悲しませたくない。』
その通りだ。
もうこれ以上、カガリが悲しみの雫を落とさないように。
君の世界を変えて――
――俺に出来ること、
君が望むこと。
それが重なる奇跡を、
自分は起こせるのだろうか。
ーーーー
シンがちょっとカッコいいですよね!
時間が無いのは、カガリがスカンジナビアへ帰ってしまうからじゃない、
もうこれ以上、1分1秒だって悲しませたくない…。
アスラン、ホントそれよ!!
さぁ、次回から2人は駆け出していきます。
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