忍者ブログ
soranokizunaのカケラたちや筆者のひとりごとを さらさらと ゆらゆらと
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


雫の音  shizuku no ne ー 18



拍手[10回]



当時、カガリのクラスはアリスのティーパーティーと題して喫茶店を出店することになった。
そこで、客層のターゲットをカップルに絞りフレイがこんなアイディアを出した。

『ブルーのリボンの付いたスプーンで、女の子が男の子に食べさせてあげるの!あーんってね。
で、男の子が女の子の左手の薬指にブルーのリボンを結んだら…
2人は幸せになれるっておまじない!』

フレイのアイディアは大当たりをしクラスの喫茶店は行列が出来る程で、
校内には左手にブルーのリボンを付けた女子が目立った。

カガリがアスランへの差し入れとして持ってきたオムライスにも、
ブルーのリボンが付いたスプーンが添えられていた。

アリスに扮してブルーのワンピースに白いフリルのエプロンを身につけたカガリが
“ほら、ちゃんと食べろ。”と差し出したオムライス、
でもアスランは受け取ってくれなくて、

『食べさせてくれるんだろう、それ。
確か、そういう趣旨の出し物だと聞いている。』

と真顔で言うので、この鈍感すぎる朴念仁にカガリは溜息を落とした。

『それはカップルをターゲットにした仕掛けのようなもので、
普通は、彼女が彼氏に食べさせてあげるんだよ。
まぁ、お客さんからリクエストがあったら、店員が食べさせてあげるって事になってるけど…。』

“ふーん。”と言ったアスランは何処か不機嫌そうで、
真面目なアスランには浮ついたイベントのように見えたのかもしれない。
というカガリの予想に反して、アスランは思わぬ事を言い出した。

『じゃぁ、食べさせてくれるんだろう、店員さん。』

『はぁぁぁぁぁ?!』

大声を上げるカガリに、アスランは何処か楽しんでいるように流し目をよこす。

『それにほら、俺は手が塞がってるし。』

アスランがお客様である以上、リクエストされれば応じるのがルールだし、
手が塞がる程忙しいから昼食を抜いていたのも事実で。
“うぅ〜。”と唸る他何も言えなくなってしまったカガリは、仕方なくスプーンを手に取った。
アスランの口に運ぶ、手が震える。

『ど…うだ?』

自分で調理したものでも無いけれど気になって、思わずカガリはアスランに顔を寄せれば、
嬉しそうにアスランが笑ってくれてほっとして、
凝り固まった体と心が解けていくようだった。
それをきっかけに、まるで高校2年生の頃のように会話が弾んで、
小ぶりのオムライスはあっという間になくなってしまった。

『ご馳走さま。』

そう言ってアスランはカガリの手からスプーンを抜き取り

ーーえ…?

左手の薬指にリボンを付けた。
アスランと触れ合った指先から全身に熱が広がって、カガリはイスの上で子猫のように跳ねた。

『あっ、アスラン!
お、お前、これっ。』

赤く染まった頬隠す事なんて出来ないまま、カガリはアスランに詰め寄った。
するとアスランは、

『こうすると、幸せになれるんだろ。』

と真面目に応えるから、カガリはまたしても何も言えなくなった。
アスランの言っている事は間違ってはいない、
これは“幸せにになれるおまじない”、という設定なのだから。
でも、それは恋人同士や想いを寄せる人の話であって──

──アスランがこのリボンをあげなきゃいけないのは、私じゃなくてラクスだろ…。

痛みと共に喉元までせり上がった言葉を
何故か嬉しそうに笑うアスランを前に言う訳にいかず、
カガリは飲み込んだ。
恨み言の一つを加えて。

『これじゃ、お客さんに頼まれても食べさせてあげられないじゃないか。』

するとアスランはスンとした顔をして作業に戻った。

『カガリが他の男に食べさせてやる必要は無い。』

カガリは目が点になり絶句し、
アスランの思考回路が理解できず溜息を落とした。
けれど──
左手の薬指に結ばれたロイヤルブルーの色彩が眩しくて目を細める。
これを外したい、なんて思えなかった。








パンフレットの訂正作業が終わってクラスに戻ると、
店内にラスクの姿を見つけて、カガリは咄嗟にリボンを隠した。
アスランの勘違いとは言え、このリボンを付ける資格があるのはラスクの方で、
彼に振られた自分じゃない。

──外ずさなきゃっ。

と理解はしているのに指先は拒むように震え出す。
と、カガリに着いてきたアスランがキラとラスクに声をかけた。
かわいらしく手を振った、ラスクの左手には既にブルーのリボンが結ばれていた。

ーーあれ?どうして…。

隣には寄り添うようにキラがいて、
ラクスにリボンを結んだのは

ーーキラ?

状況的にキラなのだろうと思うより、
キラとラクスが同じ空気を纏っていて2人でいることが自然なような気さえしてしまう。
互いを結ぶ見えない糸、その存在をはっきりと感じた気がして
カガリは瞬きを繰り返す。

淹れなおした3人分の紅茶と手作りクッキーを出すと、
“カガリもおいで”とアスランから誘われた。
戸惑いに竦みそうになった手をキラが包み込むような笑顔で捕まえてくれたから、
店番を抜けて4人でテーブルを囲むことにした。
カガリはラクスと同じテーブルに着くだけで感情の波を閉じ込めるように身を硬くしたが、
澄んだ泉のように清らかな彼女のことをすぐに大好きになってしまった。

弾む会話、その時小さな咳がラクスからこぼれた。
するとアスランはラクスに気遣うような視線を向けながら、キラとカガリに告げた。

『ラクスはそろそろ戻る時間だから。
今日はありがとう。』

『私はまだ大丈夫ですわっ。』

意外な程強い声にカガリは驚くが、

『ラクスは元々体が強くないだろ。
それに元気になったとは言え、まだ体調が戻ってきたばかりなんだ。』

慣れた手つきでラクスを支える、その仕草一つで2人が重ねてきた時間の長さを感じた。
ラクスの体調はあの事故のことも影響しているのだろう、
キラとカガリは視線を合わせると立ち上がってラクスを囲んだ。

『今日は来てくれてありがとな。
ラクスに会えて嬉しかったぞ。』

『今度は僕が会いに行くから。』

するとラクスは真珠のような涙を浮かべて小さく頷いた。
最後に4人で写真を撮って、ラクスはアスランに守られるように学校を後にした。
並んだ2人の背中が遠ざかる。

あの事故で心に傷を負ったのはアスランだけではない、
実の姉であるラクスが抱えるかなしみはどれ程のものだろうーー
そう思えば、鈴蘭のように笑うラクスは奇跡のようで、カガリはふとした瞬間に泣きそうになった。

あの時アスランに、ラクスのそばにいたいと言われた。
未だに胸の痛みは消えないし、どうしようもない想いはこの瞬間も溢れて溢れているけれど、
だけどカガリは1つの真実を見たと思った。

『ラクスのそばに、アスランがいて良かった。
だって、今日ラクスに会えて良かったって、
こんなに思ってる。』

そう言ったカガリの手を、キラがぎゅっと握った。
そのぬくもりに甘えるように肩にコツンと頭を預けると、

『やっぱり僕たちって双子だね。
僕も同じ事を思っていたから。』

そう言ったキラの声は少し涙にぬれていた気がした。














「終わったー!!」

カガリはガッツポーズのような伸びをした。
単純作業を集中して終えた時の独特の達成感に満たされる。

「ありがとう、カガリ。
本当に助かったよ。」

そう言って笑うアスランは生徒会室から抜け出たようで、

「この後飲みに行かないか。
今日のお礼に奢るよ。」

ネクタイを緩める仕草で今に引き戻されて、
カガリは自分だけが時空を行き来しているように感じるのは
心地良い疲労感で頭がぼんやりしているせいだろうか。

案の定、ゴハン命のカガリがお腹が空いたと言い、笑い出したアスラン。
でもこの時間ではいつかアスランと訪れた洋食屋はラストオーダーを過ぎているだろうし、
カガリの望むような食事ができる場所は24時間営業の定食屋かファミレスくらいしか空いていない。
今から帰ってコンビニ弁当は避けたいし、自炊する体力も残っていない。
どうしたものか、と会社の通用口を出て思案したカガリとは反対にアスランの足に迷いは無かった。

「アスラン何処かあてはあるのか?」

「バルドフェルドさんのお店へ行こう。
あそこは日中は1階でカフェをしているから、何か出してくれる筈だ。」

そのアスランの読みの通り、バルドフェルドさんは快く迎えてくれた。
しかも、

「すみません、クローズしたカフェまで開けていただいて。」

閉店したカフェのカウンターにだけ明かりが灯って、アスランとカガリは席についた。
その内側で手早く調理をするバルドフェルドは上機嫌だ。

「いいのだよ、アスラン君がやっと姫を連れてカフェに来てくれたんだからね。
約束から2ヶ月、僕はずっと待っていたんだよ。」

軽く圧をかけてくるバルドフェルドにアスランは肩をすくめた。
一方のカガリは首を傾げて、

「約束って何だ?
もしかして、私が酔って忘れてすっぽかしちゃったのかっ?」

勝手に結論付けて青くなるカガリにアスランは笑って応えた。

「俺とバルドフェルドさんとの約束だから。
それに、今回も約束は守れているとは言えないし、な。」

するとバルドフェルドはわざとらしく“おやおやぁ?”と声を上げた。

「今夜はデート、じゃないのかい?」

“そんな関係じゃないって!”と、出かかった言葉をカガリは飲み込んだ。
台風で延期にはなったけれど、アスランとサイクリングへ行く約束はした。
もしあの約束がフレイの言う通りデートになるならーー

カガリはそっと隣のアスランを見上げる。

ーーデートをする関係、って事になるのかな…?

急に意識してしまいカガリは頬を染めた、が、

「今日は急遽残業になってしまって。
カガリが助けてくれたんです。」

アスランは事実を言っただけなのに、
カガリは冷や水を浴びたような気持ちになって苦笑した。
勝手に舞い上がっている自分が恥ずかしい、
仮に2人で出かける事の定義がデートだとしても、

ーーアスランが好きなのはラクスなんだ。

それを無かった事にして、勝手に浮かれて…。

ーーバカだなぁ。

カガリは携帯の写真フォルダを繰る。
高校3年生の文化祭、最後に撮った4人の写真。
ラクスの隣にはキラが寄り添い、カガリの隣にはアスランが立っていた。
花のような笑顔を浮かべるラクスの左手にはキラが結んだリボンが写っていて、

ーーあの時、本当にこれで良かったのかな…。

カガリはアスランが結んだリボンを付けていた。

ーーアスランは本当はこのリボンをラクスに…。

そう思った時、アスランの声で現実に引き戻された。

「懐かしいな、文化祭。」

“えっ、あぁ…、うん。そうだな。”と、返事をするのがやっとだった。
すると、カウンター越しにバルドフェルドが首を伸ばした。

「わぁ、姫は一段とかわいいねぇ。
これ、いつの写真だい?」

「高校3年生の時に。
私のクラスは喫茶店を出店して、それでアリスの格好を。」

どう見てもかわいらしいのはラクスの方だと思ったが、カガリははにかみながら応えた。

「残業中にも、その時食べたオムライスの話をしていたんです。」

と、アスランが言うとバルドフェルドは口笛を吹いた。

「それは素晴らしい!
きょうの特別メニューはこちらでございます。」

アスランとカガリの前に置かれたのは

「オムライス…っ!」

こんな偶然あるのだろうか、
カガリは手を叩いて喜んだ。
と、アスランがバルドフェルドに注文を付けた。

「もしあれば、ブルーのリボンをカガリに。
文化祭の時、スプーンにブルーのリボンを付けて出していたんです。」

するとバルドフェルドはカフェのバックヤードへ姿を消すと、程なく1本のスプーンをカガリに差し出した。
スプーンの柄の先には、ロイヤルブルーの小さなリボンが可愛らしく結われている。

「さぁ、姫。
ステキなディナータイムを。
それからアスラン君、私はバーへ戻るから、
何かあったら連絡してくれたまえ。」

その言葉を残してバルドフェルドは姿を消して。
キャンドルの火が灯ったようなカウンターで2人きり。
鼓動が加速度を増していく。
胸の音もその奥にある想いも全部アスランに聞こえてしまいそうで、この沈黙がこわい。
こわい、のに耳を澄ましていたくなるような、
この時を大事にしたくなるような、
揺れ動く感情にカガリの瞳が潤む。

「食べさせてくれるんだろう、それ。」

記憶の中のアスランが今に重なっていく。
想いが過去に吸い寄せられたのか、過去から続く想いが今に手を伸ばしたのか、
カガリはリボンの付いたスプーンをアスランの口元に運ぶ。
あの日と同じ、震えた手に嬉しそうなあなたの顔ーー

「もう一回。」

甘やかな声に誘われてスプーンを運ぶ。
アスランがカガリのカウンターのイスに手を掛けた、
さっきよりも近付いた距離、
あと何センチでキスが出来るだろうーー

ーーわわっ、私は何を考えてるんだっ!

カガリはカシャンとスプーンを置くと、

「こ、これじゃぁ私が食べられないだろっ。」

と、最もらしい言葉を並べてカガリはあむっとオムライス口に入れた。
優しくとろけるたまごにほんのりとスパイシーなチキンライスが絶品で、
はにゃりと目を細めた。
カガリは美味しいゴハンは世界平和だと本気で思う、
だって、どんな時だって幸せな気分になるのだから。
そしてまたしてもバルドフェルドに感謝していた、
このオムライスが無ければきっと切り替えられ無い、

ーー自分を自分で保てない…。

抑えきれない想いを今この時だけでも胸の中に閉じ込めておかなければ、
きっと伝わってしまう。

ーーそれだけは絶対に駄目なんだ、
もう2度とあんな事…。

『本当に私たち、付き合っちゃおうか。』

ーーあんな事…。

絶対にダメだと心に固く誓った時、
アスランが食事を終えたカガリからスプーンを抜き取った。
そして、

ーーえ?

左手の薬指にリボンを結んだ。

「こうすると、幸せになれるんだろ。」

これは過去ーー?
違う、
アスランの眼差しも、
包み込むような手も、
伝わる熱も、
あの日と違う。

アスランの想いが見えた気がして、
あまりに都合の良すぎる自分の思考回路をカガリは力づくで抑え込む。
絶対にダメだって、決めたんだ。

「アスラン、勘違いしてるぞ。
そのリボンを結んで幸せになるのは、恋人とか、想いを寄せる人であって…。」

「分かってる、
全部知っていた。」

眼差しの熱に浮かされそう。
何がこわいのか分からないまま、カガリは身を引こうとして、
眼差しに、
繋がれたら手に、
拒まれる。
逃げられない。

「カガリ。
俺はずっとーー。」



ーーーーーーーー

高校生のアスランくんの言動にツッコミたくなりますね〜。
カガリの左手にリボン結んじゃうし、『他の男に食べさせる必要は無い。』とか
無意識の独占欲って…(^◇^;)

さて、ラクスの左手にも青いリボンが結ばれていましたが…
一体何があったのでしょうか?

そして現在に時間軸が戻って、アスランがいよいよ…。
次回もパロらしい展開です!
PR


追記を閉じる▲


当時、カガリのクラスはアリスのティーパーティーと題して喫茶店を出店することになった。
そこで、客層のターゲットをカップルに絞りフレイがこんなアイディアを出した。

『ブルーのリボンの付いたスプーンで、女の子が男の子に食べさせてあげるの!あーんってね。
で、男の子が女の子の左手の薬指にブルーのリボンを結んだら…
2人は幸せになれるっておまじない!』

フレイのアイディアは大当たりをしクラスの喫茶店は行列が出来る程で、
校内には左手にブルーのリボンを付けた女子が目立った。

カガリがアスランへの差し入れとして持ってきたオムライスにも、
ブルーのリボンが付いたスプーンが添えられていた。

アリスに扮してブルーのワンピースに白いフリルのエプロンを身につけたカガリが
“ほら、ちゃんと食べろ。”と差し出したオムライス、
でもアスランは受け取ってくれなくて、

『食べさせてくれるんだろう、それ。
確か、そういう趣旨の出し物だと聞いている。』

と真顔で言うので、この鈍感すぎる朴念仁にカガリは溜息を落とした。

『それはカップルをターゲットにした仕掛けのようなもので、
普通は、彼女が彼氏に食べさせてあげるんだよ。
まぁ、お客さんからリクエストがあったら、店員が食べさせてあげるって事になってるけど…。』

“ふーん。”と言ったアスランは何処か不機嫌そうで、
真面目なアスランには浮ついたイベントのように見えたのかもしれない。
というカガリの予想に反して、アスランは思わぬ事を言い出した。

『じゃぁ、食べさせてくれるんだろう、店員さん。』

『はぁぁぁぁぁ?!』

大声を上げるカガリに、アスランは何処か楽しんでいるように流し目をよこす。

『それにほら、俺は手が塞がってるし。』

アスランがお客様である以上、リクエストされれば応じるのがルールだし、
手が塞がる程忙しいから昼食を抜いていたのも事実で。
“うぅ〜。”と唸る他何も言えなくなってしまったカガリは、仕方なくスプーンを手に取った。
アスランの口に運ぶ、手が震える。

『ど…うだ?』

自分で調理したものでも無いけれど気になって、思わずカガリはアスランに顔を寄せれば、
嬉しそうにアスランが笑ってくれてほっとして、
凝り固まった体と心が解けていくようだった。
それをきっかけに、まるで高校2年生の頃のように会話が弾んで、
小ぶりのオムライスはあっという間になくなってしまった。

『ご馳走さま。』

そう言ってアスランはカガリの手からスプーンを抜き取り

ーーえ…?

左手の薬指にリボンを付けた。
アスランと触れ合った指先から全身に熱が広がって、カガリはイスの上で子猫のように跳ねた。

『あっ、アスラン!
お、お前、これっ。』

赤く染まった頬隠す事なんて出来ないまま、カガリはアスランに詰め寄った。
するとアスランは、

『こうすると、幸せになれるんだろ。』

と真面目に応えるから、カガリはまたしても何も言えなくなった。
アスランの言っている事は間違ってはいない、
これは“幸せにになれるおまじない”、という設定なのだから。
でも、それは恋人同士や想いを寄せる人の話であって──

──アスランがこのリボンをあげなきゃいけないのは、私じゃなくてラクスだろ…。

痛みと共に喉元までせり上がった言葉を
何故か嬉しそうに笑うアスランを前に言う訳にいかず、
カガリは飲み込んだ。
恨み言の一つを加えて。

『これじゃ、お客さんに頼まれても食べさせてあげられないじゃないか。』

するとアスランはスンとした顔をして作業に戻った。

『カガリが他の男に食べさせてやる必要は無い。』

カガリは目が点になり絶句し、
アスランの思考回路が理解できず溜息を落とした。
けれど──
左手の薬指に結ばれたロイヤルブルーの色彩が眩しくて目を細める。
これを外したい、なんて思えなかった。








パンフレットの訂正作業が終わってクラスに戻ると、
店内にラスクの姿を見つけて、カガリは咄嗟にリボンを隠した。
アスランの勘違いとは言え、このリボンを付ける資格があるのはラスクの方で、
彼に振られた自分じゃない。

──外ずさなきゃっ。

と理解はしているのに指先は拒むように震え出す。
と、カガリに着いてきたアスランがキラとラスクに声をかけた。
かわいらしく手を振った、ラスクの左手には既にブルーのリボンが結ばれていた。

ーーあれ?どうして…。

隣には寄り添うようにキラがいて、
ラクスにリボンを結んだのは

ーーキラ?

状況的にキラなのだろうと思うより、
キラとラクスが同じ空気を纏っていて2人でいることが自然なような気さえしてしまう。
互いを結ぶ見えない糸、その存在をはっきりと感じた気がして
カガリは瞬きを繰り返す。

淹れなおした3人分の紅茶と手作りクッキーを出すと、
“カガリもおいで”とアスランから誘われた。
戸惑いに竦みそうになった手をキラが包み込むような笑顔で捕まえてくれたから、
店番を抜けて4人でテーブルを囲むことにした。
カガリはラクスと同じテーブルに着くだけで感情の波を閉じ込めるように身を硬くしたが、
澄んだ泉のように清らかな彼女のことをすぐに大好きになってしまった。

弾む会話、その時小さな咳がラクスからこぼれた。
するとアスランはラクスに気遣うような視線を向けながら、キラとカガリに告げた。

『ラクスはそろそろ戻る時間だから。
今日はありがとう。』

『私はまだ大丈夫ですわっ。』

意外な程強い声にカガリは驚くが、

『ラクスは元々体が強くないだろ。
それに元気になったとは言え、まだ体調が戻ってきたばかりなんだ。』

慣れた手つきでラクスを支える、その仕草一つで2人が重ねてきた時間の長さを感じた。
ラクスの体調はあの事故のことも影響しているのだろう、
キラとカガリは視線を合わせると立ち上がってラクスを囲んだ。

『今日は来てくれてありがとな。
ラクスに会えて嬉しかったぞ。』

『今度は僕が会いに行くから。』

するとラクスは真珠のような涙を浮かべて小さく頷いた。
最後に4人で写真を撮って、ラクスはアスランに守られるように学校を後にした。
並んだ2人の背中が遠ざかる。

あの事故で心に傷を負ったのはアスランだけではない、
実の姉であるラクスが抱えるかなしみはどれ程のものだろうーー
そう思えば、鈴蘭のように笑うラクスは奇跡のようで、カガリはふとした瞬間に泣きそうになった。

あの時アスランに、ラクスのそばにいたいと言われた。
未だに胸の痛みは消えないし、どうしようもない想いはこの瞬間も溢れて溢れているけれど、
だけどカガリは1つの真実を見たと思った。

『ラクスのそばに、アスランがいて良かった。
だって、今日ラクスに会えて良かったって、
こんなに思ってる。』

そう言ったカガリの手を、キラがぎゅっと握った。
そのぬくもりに甘えるように肩にコツンと頭を預けると、

『やっぱり僕たちって双子だね。
僕も同じ事を思っていたから。』

そう言ったキラの声は少し涙にぬれていた気がした。














「終わったー!!」

カガリはガッツポーズのような伸びをした。
単純作業を集中して終えた時の独特の達成感に満たされる。

「ありがとう、カガリ。
本当に助かったよ。」

そう言って笑うアスランは生徒会室から抜け出たようで、

「この後飲みに行かないか。
今日のお礼に奢るよ。」

ネクタイを緩める仕草で今に引き戻されて、
カガリは自分だけが時空を行き来しているように感じるのは
心地良い疲労感で頭がぼんやりしているせいだろうか。

案の定、ゴハン命のカガリがお腹が空いたと言い、笑い出したアスラン。
でもこの時間ではいつかアスランと訪れた洋食屋はラストオーダーを過ぎているだろうし、
カガリの望むような食事ができる場所は24時間営業の定食屋かファミレスくらいしか空いていない。
今から帰ってコンビニ弁当は避けたいし、自炊する体力も残っていない。
どうしたものか、と会社の通用口を出て思案したカガリとは反対にアスランの足に迷いは無かった。

「アスラン何処かあてはあるのか?」

「バルドフェルドさんのお店へ行こう。
あそこは日中は1階でカフェをしているから、何か出してくれる筈だ。」

そのアスランの読みの通り、バルドフェルドさんは快く迎えてくれた。
しかも、

「すみません、クローズしたカフェまで開けていただいて。」

閉店したカフェのカウンターにだけ明かりが灯って、アスランとカガリは席についた。
その内側で手早く調理をするバルドフェルドは上機嫌だ。

「いいのだよ、アスラン君がやっと姫を連れてカフェに来てくれたんだからね。
約束から2ヶ月、僕はずっと待っていたんだよ。」

軽く圧をかけてくるバルドフェルドにアスランは肩をすくめた。
一方のカガリは首を傾げて、

「約束って何だ?
もしかして、私が酔って忘れてすっぽかしちゃったのかっ?」

勝手に結論付けて青くなるカガリにアスランは笑って応えた。

「俺とバルドフェルドさんとの約束だから。
それに、今回も約束は守れているとは言えないし、な。」

するとバルドフェルドはわざとらしく“おやおやぁ?”と声を上げた。

「今夜はデート、じゃないのかい?」

“そんな関係じゃないって!”と、出かかった言葉をカガリは飲み込んだ。
台風で延期にはなったけれど、アスランとサイクリングへ行く約束はした。
もしあの約束がフレイの言う通りデートになるならーー

カガリはそっと隣のアスランを見上げる。

ーーデートをする関係、って事になるのかな…?

急に意識してしまいカガリは頬を染めた、が、

「今日は急遽残業になってしまって。
カガリが助けてくれたんです。」

アスランは事実を言っただけなのに、
カガリは冷や水を浴びたような気持ちになって苦笑した。
勝手に舞い上がっている自分が恥ずかしい、
仮に2人で出かける事の定義がデートだとしても、

ーーアスランが好きなのはラクスなんだ。

それを無かった事にして、勝手に浮かれて…。

ーーバカだなぁ。

カガリは携帯の写真フォルダを繰る。
高校3年生の文化祭、最後に撮った4人の写真。
ラクスの隣にはキラが寄り添い、カガリの隣にはアスランが立っていた。
花のような笑顔を浮かべるラクスの左手にはキラが結んだリボンが写っていて、

ーーあの時、本当にこれで良かったのかな…。

カガリはアスランが結んだリボンを付けていた。

ーーアスランは本当はこのリボンをラクスに…。

そう思った時、アスランの声で現実に引き戻された。

「懐かしいな、文化祭。」

“えっ、あぁ…、うん。そうだな。”と、返事をするのがやっとだった。
すると、カウンター越しにバルドフェルドが首を伸ばした。

「わぁ、姫は一段とかわいいねぇ。
これ、いつの写真だい?」

「高校3年生の時に。
私のクラスは喫茶店を出店して、それでアリスの格好を。」

どう見てもかわいらしいのはラクスの方だと思ったが、カガリははにかみながら応えた。

「残業中にも、その時食べたオムライスの話をしていたんです。」

と、アスランが言うとバルドフェルドは口笛を吹いた。

「それは素晴らしい!
きょうの特別メニューはこちらでございます。」

アスランとカガリの前に置かれたのは

「オムライス…っ!」

こんな偶然あるのだろうか、
カガリは手を叩いて喜んだ。
と、アスランがバルドフェルドに注文を付けた。

「もしあれば、ブルーのリボンをカガリに。
文化祭の時、スプーンにブルーのリボンを付けて出していたんです。」

するとバルドフェルドはカフェのバックヤードへ姿を消すと、程なく1本のスプーンをカガリに差し出した。
スプーンの柄の先には、ロイヤルブルーの小さなリボンが可愛らしく結われている。

「さぁ、姫。
ステキなディナータイムを。
それからアスラン君、私はバーへ戻るから、
何かあったら連絡してくれたまえ。」

その言葉を残してバルドフェルドは姿を消して。
キャンドルの火が灯ったようなカウンターで2人きり。
鼓動が加速度を増していく。
胸の音もその奥にある想いも全部アスランに聞こえてしまいそうで、この沈黙がこわい。
こわい、のに耳を澄ましていたくなるような、
この時を大事にしたくなるような、
揺れ動く感情にカガリの瞳が潤む。

「食べさせてくれるんだろう、それ。」

記憶の中のアスランが今に重なっていく。
想いが過去に吸い寄せられたのか、過去から続く想いが今に手を伸ばしたのか、
カガリはリボンの付いたスプーンをアスランの口元に運ぶ。
あの日と同じ、震えた手に嬉しそうなあなたの顔ーー

「もう一回。」

甘やかな声に誘われてスプーンを運ぶ。
アスランがカガリのカウンターのイスに手を掛けた、
さっきよりも近付いた距離、
あと何センチでキスが出来るだろうーー

ーーわわっ、私は何を考えてるんだっ!

カガリはカシャンとスプーンを置くと、

「こ、これじゃぁ私が食べられないだろっ。」

と、最もらしい言葉を並べてカガリはあむっとオムライス口に入れた。
優しくとろけるたまごにほんのりとスパイシーなチキンライスが絶品で、
はにゃりと目を細めた。
カガリは美味しいゴハンは世界平和だと本気で思う、
だって、どんな時だって幸せな気分になるのだから。
そしてまたしてもバルドフェルドに感謝していた、
このオムライスが無ければきっと切り替えられ無い、

ーー自分を自分で保てない…。

抑えきれない想いを今この時だけでも胸の中に閉じ込めておかなければ、
きっと伝わってしまう。

ーーそれだけは絶対に駄目なんだ、
もう2度とあんな事…。

『本当に私たち、付き合っちゃおうか。』

ーーあんな事…。

絶対にダメだと心に固く誓った時、
アスランが食事を終えたカガリからスプーンを抜き取った。
そして、

ーーえ?

左手の薬指にリボンを結んだ。

「こうすると、幸せになれるんだろ。」

これは過去ーー?
違う、
アスランの眼差しも、
包み込むような手も、
伝わる熱も、
あの日と違う。

アスランの想いが見えた気がして、
あまりに都合の良すぎる自分の思考回路をカガリは力づくで抑え込む。
絶対にダメだって、決めたんだ。

「アスラン、勘違いしてるぞ。
そのリボンを結んで幸せになるのは、恋人とか、想いを寄せる人であって…。」

「分かってる、
全部知っていた。」

眼差しの熱に浮かされそう。
何がこわいのか分からないまま、カガリは身を引こうとして、
眼差しに、
繋がれたら手に、
拒まれる。
逃げられない。

「カガリ。
俺はずっとーー。」



ーーーーーーーー

高校生のアスランくんの言動にツッコミたくなりますね〜。
カガリの左手にリボン結んじゃうし、『他の男に食べさせる必要は無い。』とか
無意識の独占欲って…(^◇^;)

さて、ラクスの左手にも青いリボンが結ばれていましたが…
一体何があったのでしょうか?

そして現在に時間軸が戻って、アスランがいよいよ…。
次回もパロらしい展開です!
PR

コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿
URL:
   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字

Pass:
秘密: 管理者にだけ表示
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL

この記事へのトラックバック