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soranokizunaのカケラたちや筆者のひとりごとを さらさらと ゆらゆらと
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ブルーのリボンにチェックのプリーツスカート。
涙が止まらず立ち尽くす高校生の私。
抱えきれない思いが溢れて、
誰にも受け止められずにこぼれて落ちて。

浮かんだ涙を手の甲で擦ろうとした時、
柔らかな何かが
ふわりと瞼をかすめた。
また1つ、頬を涙が伝った時、
今度は頬にふわりと落ちた。

ーー不思議、涙が消えていく…。

誰にも受け止められる事の無い想い、
なのに涙を受け止めてくれたのはアスランで、
これは夢なんだとカガリは思った。

だって、今もラクスを想い続けるアスランが、
私にキスをくれる筈無い。

これは、儚い、
でも優しい夢ーー

何度も何度もキスをして、
開いた瞳の先アスランは
何故か泣きそうな顔をしていて。
きっとまた、かなしい夢を見たのだろう、
カガリはアスランをそっと抱きしめた。

アスランが抱くかなしみを
少しでもわけてほしくて。



雫の音 - shizuku no ne ー 12


拍手[9回]















目を覚まして、視界に広がった見慣れぬ天井に

ーーそうだ、ここはエリカの家だっけ。

と思い、毎朝同じ事を考えてるなぁと、頭をポリポリしながらカガリは苦笑した。
1週間くらいで慣れるだろうか、そんな事を思った時、
自分が部屋着ではなくスラックスにブラウスのままで眠ってしまった事に気付く。
帰宅して即ベッドへダイブしたのだろう、
カガリはぼんやりとした頭で、“とりあえずシャワーかな…。”と、
脱いだスラックスとブラウスを置いて部屋を出た、
所で気がついた。

ーーあれ?バスルームは寝室を出て右斜め前じゃなかったけ?

しかし、バスルームは左斜め前にある。
鏡の世界に入ったようなグニャリと世界が歪むような感覚に頭を抑えた時、

ゴッ。

ペットボトルが床に落ちたような音がして、
音源に視線を向けるとアスランがいて、
カガリは首を傾げる。

ーー何で、エリカの家にアスランがいるんだ?

“ふむ…。”と考えだしたカガリを前に、
どこか慌てた様子でアスランが背を向けて叫んだ。

「カガリっ!
ふ、服っ!」

ーー服…?

は身につけておらず、下着姿の自分ーー
漸く事態を理解したカガリは

「うわぁぁぁぁぁっ!」

と叫んでペタンと座りこんだ。
両腕をクロスさせても何も隠せず、
カガリは恥ずかしさにぎゅっと目を閉じる。
と、バサリと頭上から布が降ってきて、
その拍子にアスランの香がふわっと広がり、反射的にカガリは赤面する。

「とっ、とりあえず、それっ!」

と言って、アスランはリビングの方へと消えていった。
カガリは猛スピードで布を被った。
ほんのりとあたたかいことから、アスランが着ていたVネックのTシャツをそのまま渡してくれたのだと悟り、
残ったぬくもりが肌に触れればアスランに抱きしめられているような錯覚を覚え
ぴょんっと飛び上がってしまう。

ーーあんな夢見たせいだっ。

夢が現実のようにリアルに思い出されて、カガリの胸は限界を超える程に高鳴っていた。
と、リビングの方からアスランの声がして、
それだけでカガリは子猫のように飛び上がった。

「ごめん、俺が着てた服で…。
新しいやつは寝室にあるんだが…。」

「こっ、これでいいっ!」

思いの外大きな声が出て、自分の声なのに驚いてぎゅっとTシャツの裾を握った。

「そうか…。
その…、そっちへ行ってもいいか。
服を取りに。」

アスランをそのまま放置してしまった事に今更気づき、カガリは慌ててリビングへ向かい、

「ご、ごめっ!
わっ、わわわっ!」

目に入った姿に思わず顔を覆った。
アスランの着ていた服をカガリが着てしまったのだから、上半身裸であることは当然の事、
とは分かっていても免疫の無いカガリには刺激が強すぎる。
そんなカガリの横をすり抜けてアスランが寝室に入って、カガリは漸く息が出来るようになった。

そしてクルリとリビングを見渡して気付いた、
ここはエリカの家じゃないと。

ーーもしかして、もしかして、もしかしてっ!

ここはエリカの家じゃない、
こんな生活感のあるホテルなんて無い、
そしてラフな格好のアスランがいる、
この条件を満たす場所は

ーーアスランの家っ!

「う、嘘だろぉっ!」

と、カガリが叫んだ時だった。
背後から声がして、カガリは子猫のように飛び上がった。

「気分はどうだ?
とりあえず、水。」

と、アスランは冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、
ソファーの前のローテーブルに置いた。
“ありがとう。”と言ってカガリはおずおずとソファーにかけ、ペットボトルを手に取った。
よく冷えたミネラルウォーターが体の中心を貫くようで心地よい。
カガリは段々と冷静さを取り戻し、意を決してアスランに尋ねた。

「ここって、アスランの家…なんだよな。
ごめん、寝ちゃって。」

「昨日の事、覚えているか?」

と真剣な眼差しで聞かれ、カガリは記憶の糸を辿った。

「えーっと、バルドフェルドさんのバーに行って。
フルーツカクテルがとっても美味しくて…。」

カガリは腕を組んで“うーん”と頭を傾けるが、記憶のカケラは出てこない。
という事は、

「私、寝ちゃった…とか。」

「あぁ、飲んでいる途中で。
その後のこと…は?」

アスランの態度はどこか緊張をはらんでいて、

ーーもしかして、とんでもない事をやらかしたのか…私!

咄嗟にカガリはアスランの胸ぐらを掴んだ。

「私、何しちゃったんだ!」

が、瞬時にカガリは方向転換をする。
やらかしてしまったのであれば、

「やっぱり教えてくれなくていいっ!
とにかくごめんっ!」

と言ってガバっと勢い良く頭を下げた。
自分の醜態の詳細を知って、アスランと普通に接する自信は無く、
かと言ってこの状況からアスランに迷惑をかけた事は明らかで無視は出来ない。
だから精一杯謝って、これで終わりにしてもらうのが得策だと考えたのだ。
めまぐるしい展開に呆気にとられた顔をしたアスランに、カガリは顔を上げるよう促された。

「いや、本当に、カガリが謝るような事は何も無い。
バルドフェルドさんが少し強いお酒を出してしまったようで…。」

申し訳無さそうに微笑むアスランに、
カガリは“でもっ、寝ちゃった私が悪いぞっ!”と詰め寄る。
すると、そっと距離を置かれた気がして、
ほんのりとさみしさを覚えた自分の身勝手さに唇を噛んだ。

「君を送り届けられれば良かったんだが、何処に住んでいるのか分からなくて、俺の家に。
それで…。」

言い淀み、膝の上で組んだ手を見詰めるアスラン。
どうしたのだろうかとカガリが首を傾けた時、
何気無くカウンターキッチンが目に入ってカガリは大きく瞳を開き、
引き寄せられるようにトテトテとキッチンに向かった。

ーー似てる、エリカのキッチンに。

ワークトップも色や質感、シンクや水栓金具、引き出しの木目の色合いや取っ手も同じだ。
それだけじゃない、とカガリはクルリとリビングを見渡した。
扉の色やノブの形、フローリングの色、それにーー
今度はバルコニーへ向かい、カガリはぴょんぴょんとジャンプした。
一面ガラス張りのリビングはバルコニーに直結しており、
そこからの風景までもそっくりなのだ。

「カガリ、どうした?」

アスランからしたらかなりの挙動不審な行動だっただろう。
しかし、カガリは興奮しながらアスランに問うた。

「なぁ、アスランのマンションって、カグヤ駅の近くか?」

「え、あぁ、そうだけど。」

それを聞いて確信したカガリは、今度は玄関へ向かった。
まるで子どものようにトタタタタと駆けていくカガリは、そのままドアを開けた。

「やっぱり!」

とはしゃぎ声を上げた時、カガリはアスランに抱き上げられて部屋に押し戻された。

「カガリ!
自分がどんな格好をしているのか分かっているのかっ!」

アスランの指摘にカガリは赤面し、ぐぐっとTシャツも裾を引っ張った。
借りたTシャツはワンピースのような着丈があるとは言え、
下着の上に1枚被っただけだったのを思い出し、“うぅぅ”と子猫が唸るような声を上げた。
一方のアスランは額に手を当てて緩く首を振っており、呆れられてしまったとカガリは下を向く。

「で、何が“やっぱり”なんだ?」

すると、カガリはぱっと顔を上げ興奮気味にアスランに詰め寄った。

「あのな、私も同じマンションに住んでるんだ!
しかもな、アスランとお隣さんなんだぞ!!」

“すごい偶然だ!”と飛び跳ねるカガリに
混乱ぎみのアスランは自らの絡まった糸を解くように問う。

「隣って…、もしかしてシモンズさんの言っていた女の子って、カガリのことだったのか?
バカンスの間、知り合いが住むって。」

「そうそう!
丁度、エリカ達の留守と私の出向の時期が重なってさ、住まわせてもらってるんだ。」

「そんな偶然って…。」

アスランの驚いた瞳の中に映るカガリは曇り無い笑顔だった。

「奇跡みたいだな。」

もう1度、アスランと交わる奇跡。
それが純粋に嬉しかった。

「本当だな。
やっと来てくれた、奇跡だ。」

そう言って笑いあった時は気が付かなかった──














「それって、大丈夫なの?
カガリは。」

フレイとミリィと一緒に、再会を祝してちょっぴり贅沢なランチを取っている時だった。
フレイは眉を寄せてカガリを見た。

「確かに、いきなり担当者が変更してアスランと一緒に仕事することになって、しかも家が隣って、奇跡的な偶然だと思うわ。
でも、高校生の頃あんた大変だったじゃない…。」

「あ…。」

カガリは思わずフォークを前菜の皿にカシャンと落とした。
その顔は真っ青だ。

「今ごろ気付いたの?
まぁ、もう大人なんだし、あんな事にはならないだろうけどね。」

と、食事をしても落ちないキレイなルージュが弧を描いた。
が、下を向いたままのカガリにミリィが控えめに、でも確実に核心をつく、
流石はフリーランスのライターだ。

「もしかして、カガリは今も…。」

金襴の友の前で感情は隠せずカガリの瞳に涙が溜まって、フレイとミリィは顔を合わせた。
今時、こんなピュアな恋なんてあるのだろうか。
あれから約10年経とうとしているのに、未だに初恋を胸に抱き続けているなんて。
しかもあんなに辛い初恋を──
ならば、全力で応援しなけれはならない。

「あんた綺麗になったんだから、もう1度頑張ってみるってのもアリよ!」

「そうね、あれから随分時間が過ぎたんだもの。
奇跡の再会は運命だったのかもよ。」

しかし、2人のエールは空振りに終わる。

「ダメなんだ。」

「え?」

カガリは真鯛の上にのったコンソメジュレを突っついて応えた。

「あの時と同じなんだ、今も。」

アスランにはずっと好きな人がいて、
その人とは離れ離れで、
でも忘れられなくて…。

「でも、アスラン君は、その人がラクスさんだとは言ってなかったんでしょ?」

話を冷静に整理していくミリィにフレイも頷く。
しかし、カガリはフルフルと首を振った。

「ラクス…だと思う。
だって、ラクスの写真を見た時のアスラン、すごく切なそうだったから…。」

フレイは顎に指先を当てた。
確かに、アスランの好きな人がラクスであるなら、カガリの恋は茨の道になるかもしれない。
けれど──

「アスランはシングルなんだし、
あんたの方に振り向かせる事は不可能じゃないわ。」

「そうよ。
自分の気持ちを大切にして、ね。」

いつでも味方でいてくれるフレイとミリィに、カガリは潤んだ瞳でコクンと頷いた。
何をどう頑張ればいいのか分からない、
だいたい自分に女としての魅力なんてあるのか疑問だし、
男の人を誘った事も口説いた事も無い。
だけど、これだけは分かる、
この奇跡を大切にする事が
アスランにとっても自分にとっても1番幸せな事なんだ。
例えこの恋が叶わなくても。













「えーーー!!!」

キラの絶叫がパソコンのパーツが散らばった部屋に響いた。

「うるさいぞ、キラ。」

アスランはため息を落とした。
キラとは大学を卒業した後も気楽な距離感が続いていた。
今日はキラがパソコンを組み替えたいと言い出したので、
こうしてキラの部屋に呼び出され、専らアスランが作業をしている。

「何それ!
カガリと同じ職場で家は隣って!
僕何も聞いてないんだけど!!」

「カガリを責めるなよ、家が隣なのは今朝分かったんだし。
それより何でカガリが帰国するって教えてくれなかった──」

「今朝あぁぁぁぁ!!!???」

アスランの声を遮ってキラが叫んだ。

「今朝って、今朝って、
君たち朝まで一緒だったとか言わないよね?」

キラの目が据わっている。
アスランは、このまま真実を伝えるべき迷った、その一瞬こそが真実を語っていることを悟り、キラは声ともつかない何かを発しながら頭を抱えて転げ回った。
その拍子にパーツの一つが電子ピアノの下に転がり、アスランはため息を落とす。
キラの完全な誤解だ。

「昨日はバルドフェルドさんの所で飲んで、カガリが寝てしまったから連れて帰っただけで。
キラが想像するような事は何も──」

キラはホラー映画並みのあり得ない動きで起き上がると
アスランの胸ぐらを掴んだ。

「わーざーとーだーろー!!!
わざと強いお酒を飲ませて、お持ち帰りしたんだろ!!
アスランのバカ!!」

キラは床に突っ伏して、おーいおいおいと泣き崩れてしまった。
カガリの事を溺愛するキラはカガリの帰国をどれ程楽しみにしていたかはアスランも理解できる、
が、冷静に見てキラのテンションは明らかにおかしく、“しばらく放っておこう。”と、アスランは作業に戻った。

バルドフェルドが変な気を回して強い酒を作ってカガリが寝てしまったのだ、そこにやましい下心は無い。
が、今朝のカガリには驚いたと、うっかり思い出したアスランは赤面した。
まさか下着姿で寝室から出てくるなんて…。
ブカブカのTシャツはカガリの体のラインを如実になぞり、視線のやり場に困っても抗えない力で引き付けられてしまった。
しかも、カガリは着丈も気にせず飛んだり跳ねたり走ったり、その度に裾は揺れるし、
恥ずかしがって裾を引っ張る度にVネックの胸元から谷間が覗いて──
良く理性が持ったものだと、自分を褒めてやりたいとアスランは思う。
と、同時にアスランの中で嫉妬も生まれる、
こんな無防備なカガリを、他の男がどれ程見てきたのだろうかと。
過去のカガリも今これからのカガリも独り占めしてしまいたい、
こんなにも欲望が強く色濃くなったのは昨日のキスのせい──。

──カガリは昨夜の事を知りたくないと言っていたけれど、
本当にこれで良かったのか…。

意思確認をせずに自分の気持ちを押し付けて、
それでいい筈無いのにもう弁解のチャンスは失われてしまった。

「カガリは何て言ってるの?
こんな偶然が重なってビックリしてるんじゃない?」

幾分冷静さを取り戻したのか、泣くのに飽きたのか、キラがまともな質問をしてきた、

「最初はぎこちなかったけど…、今朝は飛び跳ねて喜んでいたよ、“奇跡”だってさ。
月曜からは一緒に通勤するし、時々夕食を一緒にって約束もしたよ。」

だからありのままに応えたのにキラは無反応で、
“キラ?”と視線を向けると、何やら真剣な面持ちで考え込んでいる。
“うんうん”と頷いた所を見ると、キラなりの結論が出たようだ。

──本当にマイペースな奴だよな。

マイペースだが1度決めた事はやり通す、そんな強さはラクスに似ているとアスランは思った、その時だった。

「僕はカガリの味方だからね!」

宣戦布告のような語気にアスランは驚くが、

「そうなると思った。」

と、困ったような微笑みに変わって、キラはある予感に駆られる。

「アスラン、もしかして…。」

アスランは作業を続けながらキラに告げた。
自分の想いをキラに打ち明けたのは、初めての事だった。

「キラに何と言われようと、俺はやるだけの事はやってみる。
もう、後悔したくないんだ。」

やっと来てくれた奇跡を、運命に変えて。



ーーーーーーーーー

今回はパロディらしいドタバタな展開でした☆

無防備で無邪気すぎるカガリさんを目の前に、
アスランは理性を総動員(笑。
でも、ここで理性がぶっ壊れたら2人の幸せはもっと早くに訪れたのに…。

アスカガの関係って、実はお互いの理性が障壁になってしまうことってありますよね。
まぁ、そんな所が2人らしくて切な萌えなんですけどね。

さてさて、優しくもズバっと切り込むミリィと、
超絶美し~フレイ様の登場です!
この2人は、カガリの強力な応援団として今後も登場してくれます。

また、最後にキラ兄様も登場しました。
この物語では、キラ兄様はずっとこの調子ですのでご了承ください。
私はこんなキラ兄様がかわいらしくて好きですよ!

さて、次回はアスランとカガリが初めて2人で通勤します!
きゃ~、緊張しますね~。
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目を覚まして、視界に広がった見慣れぬ天井に

ーーそうだ、ここはエリカの家だっけ。

と思い、毎朝同じ事を考えてるなぁと、頭をポリポリしながらカガリは苦笑した。
1週間くらいで慣れるだろうか、そんな事を思った時、
自分が部屋着ではなくスラックスにブラウスのままで眠ってしまった事に気付く。
帰宅して即ベッドへダイブしたのだろう、
カガリはぼんやりとした頭で、“とりあえずシャワーかな…。”と、
脱いだスラックスとブラウスを置いて部屋を出た、
所で気がついた。

ーーあれ?バスルームは寝室を出て右斜め前じゃなかったけ?

しかし、バスルームは左斜め前にある。
鏡の世界に入ったようなグニャリと世界が歪むような感覚に頭を抑えた時、

ゴッ。

ペットボトルが床に落ちたような音がして、
音源に視線を向けるとアスランがいて、
カガリは首を傾げる。

ーー何で、エリカの家にアスランがいるんだ?

“ふむ…。”と考えだしたカガリを前に、
どこか慌てた様子でアスランが背を向けて叫んだ。

「カガリっ!
ふ、服っ!」

ーー服…?

は身につけておらず、下着姿の自分ーー
漸く事態を理解したカガリは

「うわぁぁぁぁぁっ!」

と叫んでペタンと座りこんだ。
両腕をクロスさせても何も隠せず、
カガリは恥ずかしさにぎゅっと目を閉じる。
と、バサリと頭上から布が降ってきて、
その拍子にアスランの香がふわっと広がり、反射的にカガリは赤面する。

「とっ、とりあえず、それっ!」

と言って、アスランはリビングの方へと消えていった。
カガリは猛スピードで布を被った。
ほんのりとあたたかいことから、アスランが着ていたVネックのTシャツをそのまま渡してくれたのだと悟り、
残ったぬくもりが肌に触れればアスランに抱きしめられているような錯覚を覚え
ぴょんっと飛び上がってしまう。

ーーあんな夢見たせいだっ。

夢が現実のようにリアルに思い出されて、カガリの胸は限界を超える程に高鳴っていた。
と、リビングの方からアスランの声がして、
それだけでカガリは子猫のように飛び上がった。

「ごめん、俺が着てた服で…。
新しいやつは寝室にあるんだが…。」

「こっ、これでいいっ!」

思いの外大きな声が出て、自分の声なのに驚いてぎゅっとTシャツの裾を握った。

「そうか…。
その…、そっちへ行ってもいいか。
服を取りに。」

アスランをそのまま放置してしまった事に今更気づき、カガリは慌ててリビングへ向かい、

「ご、ごめっ!
わっ、わわわっ!」

目に入った姿に思わず顔を覆った。
アスランの着ていた服をカガリが着てしまったのだから、上半身裸であることは当然の事、
とは分かっていても免疫の無いカガリには刺激が強すぎる。
そんなカガリの横をすり抜けてアスランが寝室に入って、カガリは漸く息が出来るようになった。

そしてクルリとリビングを見渡して気付いた、
ここはエリカの家じゃないと。

ーーもしかして、もしかして、もしかしてっ!

ここはエリカの家じゃない、
こんな生活感のあるホテルなんて無い、
そしてラフな格好のアスランがいる、
この条件を満たす場所は

ーーアスランの家っ!

「う、嘘だろぉっ!」

と、カガリが叫んだ時だった。
背後から声がして、カガリは子猫のように飛び上がった。

「気分はどうだ?
とりあえず、水。」

と、アスランは冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、
ソファーの前のローテーブルに置いた。
“ありがとう。”と言ってカガリはおずおずとソファーにかけ、ペットボトルを手に取った。
よく冷えたミネラルウォーターが体の中心を貫くようで心地よい。
カガリは段々と冷静さを取り戻し、意を決してアスランに尋ねた。

「ここって、アスランの家…なんだよな。
ごめん、寝ちゃって。」

「昨日の事、覚えているか?」

と真剣な眼差しで聞かれ、カガリは記憶の糸を辿った。

「えーっと、バルドフェルドさんのバーに行って。
フルーツカクテルがとっても美味しくて…。」

カガリは腕を組んで“うーん”と頭を傾けるが、記憶のカケラは出てこない。
という事は、

「私、寝ちゃった…とか。」

「あぁ、飲んでいる途中で。
その後のこと…は?」

アスランの態度はどこか緊張をはらんでいて、

ーーもしかして、とんでもない事をやらかしたのか…私!

咄嗟にカガリはアスランの胸ぐらを掴んだ。

「私、何しちゃったんだ!」

が、瞬時にカガリは方向転換をする。
やらかしてしまったのであれば、

「やっぱり教えてくれなくていいっ!
とにかくごめんっ!」

と言ってガバっと勢い良く頭を下げた。
自分の醜態の詳細を知って、アスランと普通に接する自信は無く、
かと言ってこの状況からアスランに迷惑をかけた事は明らかで無視は出来ない。
だから精一杯謝って、これで終わりにしてもらうのが得策だと考えたのだ。
めまぐるしい展開に呆気にとられた顔をしたアスランに、カガリは顔を上げるよう促された。

「いや、本当に、カガリが謝るような事は何も無い。
バルドフェルドさんが少し強いお酒を出してしまったようで…。」

申し訳無さそうに微笑むアスランに、
カガリは“でもっ、寝ちゃった私が悪いぞっ!”と詰め寄る。
すると、そっと距離を置かれた気がして、
ほんのりとさみしさを覚えた自分の身勝手さに唇を噛んだ。

「君を送り届けられれば良かったんだが、何処に住んでいるのか分からなくて、俺の家に。
それで…。」

言い淀み、膝の上で組んだ手を見詰めるアスラン。
どうしたのだろうかとカガリが首を傾けた時、
何気無くカウンターキッチンが目に入ってカガリは大きく瞳を開き、
引き寄せられるようにトテトテとキッチンに向かった。

ーー似てる、エリカのキッチンに。

ワークトップも色や質感、シンクや水栓金具、引き出しの木目の色合いや取っ手も同じだ。
それだけじゃない、とカガリはクルリとリビングを見渡した。
扉の色やノブの形、フローリングの色、それにーー
今度はバルコニーへ向かい、カガリはぴょんぴょんとジャンプした。
一面ガラス張りのリビングはバルコニーに直結しており、
そこからの風景までもそっくりなのだ。

「カガリ、どうした?」

アスランからしたらかなりの挙動不審な行動だっただろう。
しかし、カガリは興奮しながらアスランに問うた。

「なぁ、アスランのマンションって、カグヤ駅の近くか?」

「え、あぁ、そうだけど。」

それを聞いて確信したカガリは、今度は玄関へ向かった。
まるで子どものようにトタタタタと駆けていくカガリは、そのままドアを開けた。

「やっぱり!」

とはしゃぎ声を上げた時、カガリはアスランに抱き上げられて部屋に押し戻された。

「カガリ!
自分がどんな格好をしているのか分かっているのかっ!」

アスランの指摘にカガリは赤面し、ぐぐっとTシャツも裾を引っ張った。
借りたTシャツはワンピースのような着丈があるとは言え、
下着の上に1枚被っただけだったのを思い出し、“うぅぅ”と子猫が唸るような声を上げた。
一方のアスランは額に手を当てて緩く首を振っており、呆れられてしまったとカガリは下を向く。

「で、何が“やっぱり”なんだ?」

すると、カガリはぱっと顔を上げ興奮気味にアスランに詰め寄った。

「あのな、私も同じマンションに住んでるんだ!
しかもな、アスランとお隣さんなんだぞ!!」

“すごい偶然だ!”と飛び跳ねるカガリに
混乱ぎみのアスランは自らの絡まった糸を解くように問う。

「隣って…、もしかしてシモンズさんの言っていた女の子って、カガリのことだったのか?
バカンスの間、知り合いが住むって。」

「そうそう!
丁度、エリカ達の留守と私の出向の時期が重なってさ、住まわせてもらってるんだ。」

「そんな偶然って…。」

アスランの驚いた瞳の中に映るカガリは曇り無い笑顔だった。

「奇跡みたいだな。」

もう1度、アスランと交わる奇跡。
それが純粋に嬉しかった。

「本当だな。
やっと来てくれた、奇跡だ。」

そう言って笑いあった時は気が付かなかった──














「それって、大丈夫なの?
カガリは。」

フレイとミリィと一緒に、再会を祝してちょっぴり贅沢なランチを取っている時だった。
フレイは眉を寄せてカガリを見た。

「確かに、いきなり担当者が変更してアスランと一緒に仕事することになって、しかも家が隣って、奇跡的な偶然だと思うわ。
でも、高校生の頃あんた大変だったじゃない…。」

「あ…。」

カガリは思わずフォークを前菜の皿にカシャンと落とした。
その顔は真っ青だ。

「今ごろ気付いたの?
まぁ、もう大人なんだし、あんな事にはならないだろうけどね。」

と、食事をしても落ちないキレイなルージュが弧を描いた。
が、下を向いたままのカガリにミリィが控えめに、でも確実に核心をつく、
流石はフリーランスのライターだ。

「もしかして、カガリは今も…。」

金襴の友の前で感情は隠せずカガリの瞳に涙が溜まって、フレイとミリィは顔を合わせた。
今時、こんなピュアな恋なんてあるのだろうか。
あれから約10年経とうとしているのに、未だに初恋を胸に抱き続けているなんて。
しかもあんなに辛い初恋を──
ならば、全力で応援しなけれはならない。

「あんた綺麗になったんだから、もう1度頑張ってみるってのもアリよ!」

「そうね、あれから随分時間が過ぎたんだもの。
奇跡の再会は運命だったのかもよ。」

しかし、2人のエールは空振りに終わる。

「ダメなんだ。」

「え?」

カガリは真鯛の上にのったコンソメジュレを突っついて応えた。

「あの時と同じなんだ、今も。」

アスランにはずっと好きな人がいて、
その人とは離れ離れで、
でも忘れられなくて…。

「でも、アスラン君は、その人がラクスさんだとは言ってなかったんでしょ?」

話を冷静に整理していくミリィにフレイも頷く。
しかし、カガリはフルフルと首を振った。

「ラクス…だと思う。
だって、ラクスの写真を見た時のアスラン、すごく切なそうだったから…。」

フレイは顎に指先を当てた。
確かに、アスランの好きな人がラクスであるなら、カガリの恋は茨の道になるかもしれない。
けれど──

「アスランはシングルなんだし、
あんたの方に振り向かせる事は不可能じゃないわ。」

「そうよ。
自分の気持ちを大切にして、ね。」

いつでも味方でいてくれるフレイとミリィに、カガリは潤んだ瞳でコクンと頷いた。
何をどう頑張ればいいのか分からない、
だいたい自分に女としての魅力なんてあるのか疑問だし、
男の人を誘った事も口説いた事も無い。
だけど、これだけは分かる、
この奇跡を大切にする事が
アスランにとっても自分にとっても1番幸せな事なんだ。
例えこの恋が叶わなくても。













「えーーー!!!」

キラの絶叫がパソコンのパーツが散らばった部屋に響いた。

「うるさいぞ、キラ。」

アスランはため息を落とした。
キラとは大学を卒業した後も気楽な距離感が続いていた。
今日はキラがパソコンを組み替えたいと言い出したので、
こうしてキラの部屋に呼び出され、専らアスランが作業をしている。

「何それ!
カガリと同じ職場で家は隣って!
僕何も聞いてないんだけど!!」

「カガリを責めるなよ、家が隣なのは今朝分かったんだし。
それより何でカガリが帰国するって教えてくれなかった──」

「今朝あぁぁぁぁ!!!???」

アスランの声を遮ってキラが叫んだ。

「今朝って、今朝って、
君たち朝まで一緒だったとか言わないよね?」

キラの目が据わっている。
アスランは、このまま真実を伝えるべき迷った、その一瞬こそが真実を語っていることを悟り、キラは声ともつかない何かを発しながら頭を抱えて転げ回った。
その拍子にパーツの一つが電子ピアノの下に転がり、アスランはため息を落とす。
キラの完全な誤解だ。

「昨日はバルドフェルドさんの所で飲んで、カガリが寝てしまったから連れて帰っただけで。
キラが想像するような事は何も──」

キラはホラー映画並みのあり得ない動きで起き上がると
アスランの胸ぐらを掴んだ。

「わーざーとーだーろー!!!
わざと強いお酒を飲ませて、お持ち帰りしたんだろ!!
アスランのバカ!!」

キラは床に突っ伏して、おーいおいおいと泣き崩れてしまった。
カガリの事を溺愛するキラはカガリの帰国をどれ程楽しみにしていたかはアスランも理解できる、
が、冷静に見てキラのテンションは明らかにおかしく、“しばらく放っておこう。”と、アスランは作業に戻った。

バルドフェルドが変な気を回して強い酒を作ってカガリが寝てしまったのだ、そこにやましい下心は無い。
が、今朝のカガリには驚いたと、うっかり思い出したアスランは赤面した。
まさか下着姿で寝室から出てくるなんて…。
ブカブカのTシャツはカガリの体のラインを如実になぞり、視線のやり場に困っても抗えない力で引き付けられてしまった。
しかも、カガリは着丈も気にせず飛んだり跳ねたり走ったり、その度に裾は揺れるし、
恥ずかしがって裾を引っ張る度にVネックの胸元から谷間が覗いて──
良く理性が持ったものだと、自分を褒めてやりたいとアスランは思う。
と、同時にアスランの中で嫉妬も生まれる、
こんな無防備なカガリを、他の男がどれ程見てきたのだろうかと。
過去のカガリも今これからのカガリも独り占めしてしまいたい、
こんなにも欲望が強く色濃くなったのは昨日のキスのせい──。

──カガリは昨夜の事を知りたくないと言っていたけれど、
本当にこれで良かったのか…。

意思確認をせずに自分の気持ちを押し付けて、
それでいい筈無いのにもう弁解のチャンスは失われてしまった。

「カガリは何て言ってるの?
こんな偶然が重なってビックリしてるんじゃない?」

幾分冷静さを取り戻したのか、泣くのに飽きたのか、キラがまともな質問をしてきた、

「最初はぎこちなかったけど…、今朝は飛び跳ねて喜んでいたよ、“奇跡”だってさ。
月曜からは一緒に通勤するし、時々夕食を一緒にって約束もしたよ。」

だからありのままに応えたのにキラは無反応で、
“キラ?”と視線を向けると、何やら真剣な面持ちで考え込んでいる。
“うんうん”と頷いた所を見ると、キラなりの結論が出たようだ。

──本当にマイペースな奴だよな。

マイペースだが1度決めた事はやり通す、そんな強さはラクスに似ているとアスランは思った、その時だった。

「僕はカガリの味方だからね!」

宣戦布告のような語気にアスランは驚くが、

「そうなると思った。」

と、困ったような微笑みに変わって、キラはある予感に駆られる。

「アスラン、もしかして…。」

アスランは作業を続けながらキラに告げた。
自分の想いをキラに打ち明けたのは、初めての事だった。

「キラに何と言われようと、俺はやるだけの事はやってみる。
もう、後悔したくないんだ。」

やっと来てくれた奇跡を、運命に変えて。



ーーーーーーーーー

今回はパロディらしいドタバタな展開でした☆

無防備で無邪気すぎるカガリさんを目の前に、
アスランは理性を総動員(笑。
でも、ここで理性がぶっ壊れたら2人の幸せはもっと早くに訪れたのに…。

アスカガの関係って、実はお互いの理性が障壁になってしまうことってありますよね。
まぁ、そんな所が2人らしくて切な萌えなんですけどね。

さてさて、優しくもズバっと切り込むミリィと、
超絶美し~フレイ様の登場です!
この2人は、カガリの強力な応援団として今後も登場してくれます。

また、最後にキラ兄様も登場しました。
この物語では、キラ兄様はずっとこの調子ですのでご了承ください。
私はこんなキラ兄様がかわいらしくて好きですよ!

さて、次回はアスランとカガリが初めて2人で通勤します!
きゃ~、緊張しますね~。
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