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soranokizunaのカケラたちや筆者のひとりごとを さらさらと ゆらゆらと
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ずっと、君が好きだった。

出会った時から、ずっと──

太陽のような笑顔も
無条件でくれる優しさも
世界を変えていく強さも、

君の全てに惹かれていたんだ。


雫の音 ー shizuku no ne ー 最終話


拍手[16回]













君がくれたキスも
本当の想いも
この腕に抱くぬくもりも。

全部が夢のように消えてしまいそうで
だけど閉じ込めようと力を込めれば壊れてしまいそうで、
アスランは今を確かめるように
無垢な微笑みを浮かべて眠るカガリに頬を寄せた。
あの日と同じシャンプーの香りがして
くすぐったいような笑みが浮かぶ。

初めて“大切”という言葉の意味がわかった気がする。

ーー君を一生、大切にするから。

そう誓って、アスランはカガリにくちづけを落とした。
すると、天使が目覚めるようにカガリが琥珀色の瞳を開いた。
まだそこには夢が映っているようで、あまりに無垢な愛しい人にアスランはもう一度キスをする。
頬を染める仕草は可憐なのに、潤んだ瞳で見詰める視線は扇情的で。
一気に吹き飛びそうになる理性を繋ぎとめる。

「おはよう、カガリ。」

と髪をひと撫ですれば、音がする程真っ赤になったカガリは布団の中へ隠れてしまった。
ヒヨコがかくれんぼしたようにシーツの隙間からのぞく髪。
昨夜の事を思い出して恥ずかしがる初々しい反応が可愛らしくて、ついついいじめたくなってしまう。
一糸まとわぬ太腿に手を這わせれば、猫のような声が上がりアスランは笑った。

想いが通じれば心穏やかになる、なんて幻想だと思う。
だって、この想いは加速度をあげて大きくなっていく。

だから、カガリのしなやかな脚についた痕が許せなかった。
触れていいのは自分だけ、
他の奴の痕跡は全て消してやる、
そんな独占欲を抑える事なんて出来なかった。

微かに震えながら痕の理由を話したカガリの姿を思い出し、
アスランはカガリを抱き上げるように布団から引っ張り出した。

もう君を悲しませる事はしない。
君を悲しい選択肢の前に立たせない。
大好きな君の笑顔を、俺が守るから。
幸せにするから、
君を、
君と。

「カガリ、頼みたい事がある。」

君との幸せを確かにする、
第一歩をーー






















「ようこそお越しくださいました!」

ラクスの大輪の花のような笑顔から始まったホームパーティー。
当日の朝に誘いのメールがあり、夕方には開催してしまう強行突破のようなパーティーに招かれたのは、
僕とカガリとアスラン。
僕は先にラクスのお手伝いをしながら、ターゲットの2人を待った。
僕がいくらアスランの背中を押しても蹴っても動かないから、
こうなったら力づくでも2人をくっつけてあげるってのが
カガリの頼れるお兄ちゃんでありアスランの親友である僕の役割だと思ったからだ。
ラクスのエプロンをつけて全力でお手伝いしたのだけれど、どうしても約束の時間が気になってしまい
時計を見るたびにラクスに笑われてしまった。
そんな時、来客を告げるベルが鳴った。

「2人揃って遅刻って、何してたのさっ!」

と、思わず叱ってしまった時、
アスランとカガリが目を合わせて笑った。
その雰囲気が今までとは違って…。

ーーあれ?

「ちょっと作りすぎてしまいしたかしら?」

とラクスがキッチンワゴンを押してきた時には
ダイニングテーブルの上には並びきらない程の皿で占められていた。

「大丈夫だ!私お腹ぺっこぺこだから!
もう、今日は緊張しちゃって…。」

と、カガリがお腹を抑えれば

「じゃぁ、早速食べようか!」

と、僕は“待ってました!”とばかりにエプロンをバサァっと脱いだ、
その時、

「キラとラクスに報告したいことがあるんだ。」

アスランったら、改まっちゃって何なのさ。
ははーん、君達あれね、上手く行っちゃったってことね。
でもここは、何も気付いてませんって態度を貫くのがセオリーってものだから、
僕は何気なさを装って席についた。
見ればカガリがほんわりと頬を染めてアスランの裾を引っ張っていて
可愛らしさMAXの仕草に、僕は2人の間に割って入ってやりたい気持ちをこらえた。
このパーティーの目的は2人に幸せになってもらうため、
僕の役割はキューピッド。
まぁ、2人が先にくっついちゃったのは想定外だったけど、
邪魔者に転じるようなヘマはしないさ。
付き合う事になったって言うだけであんなに照れちゃう、カガリは本当に可愛いーー

「俺たち、結婚することになった。」

「はぁぁぁぁぁぁぁ???!!!!!」

僕は椅子がバターンと倒れる程の勢いで立ち上がった。

「ちょっと待って、僕の許しも無いのに結婚ってどういう事?
そもそも君達が付き合ってたって事すら知らされてないんだけどっ。
先ずはカガリのお兄様である僕に話を通すのが筋ってモンじゃない?
というか、アスラン一発殴るからねっっっ!!!」

と、キュービッドの僕はアスランに掴みかかり、
ラクスは“おめでとうございます!”と拍手をしている。
と、カガリは僕達の間に割って入り

「いっ、色々と事情があって!
説明するけど、先ずはお料理をいただかないか。
冷めてしまう前に。」

のタイミングで僕とカガリのお腹が“ぐ~”と揃って返事をして
パーティーは始まったのだ。










僕はアスランを睨みつけたまま、ラクスが取り分けてくれた前菜を頬張り
ほにゃりと顔が緩みそうになるのを必死で耐えた。
でも、あまりの美味しさに“ほにゃ”くらいはしてしまったかもしれないが、
すぐに姿勢を正してアスランを睨んだ、“さぁ、吐け!”と念じながら。
するとアスランは

「どこから話せばいいんだ。」

と、“ほにゃ~”と幸せそうに前菜を食べるカガリに話しかけ
カガリはモグモグしながら“そうだなぁ”と小首を傾げて

ーーこんな所でいちゃいちゃしないでよっ!

と、怒髪天を突く勢いの僕に
ラクスが勧めてくれた本日のスープ、ロシア風壷焼き濃厚クリーミーな味わいと
蓋の役割をしているサクサクのパイ生地のハーモニーに“ほにゃ~ん”としてしまい、
すぐに姿勢を正すと、態とらしく咳払いをしてアスランを睨んだ。
困ったように微笑むアスランの態度が余裕シャクシャクに見えて何だか癪だけど、
ラクスから“壷焼きは熱すぎました?”と問われると、もう一口食べてしまい
“はにゃ~ん”となってしまうから、僕は忙しい。

「昨日、カガリがお見合いをしてーー」

アスランの言葉を僕は遮った。

「えぇぇ!!
何で、カガリ、お見合いなんて!!」

カガリが悲しい選択をしてしまう程追い詰められていたなんて、
それを見逃していた僕は最低のお兄様だ。
キラがしょんぼりとすると、ラクスが“続きを聞きましょう”と背中をさすってくれた。

「俺も、昨日ラクスが教えてくれるまで知らなかった。
何とかお見合いを白紙にしてほしくて、
昨日の夜、カガリと話をしたんだ。
それで、結婚する事になった。」

簡潔明瞭無駄の無いアスランの説明、
でも、途中で話がぶっ飛んでいませんか?

「話をして、何で直ぐに結婚になっちゃうの!
先ずはお付き合いの前に交換日記からでしょ!」

するとアスランがカガリの頬についた壷焼きのパイ生地を取り
そのまま自分の口に入れ
ぽわんと頬を赤くしたカガリの初々しい事と言ったら!!
僕のスプーンを握る手に血管が浮かび上がる。

「俺がカガリと結婚したいからだ。
それに、お見合いの相手方へ断りを申し入れるんだ、相応の理由が必要だろ。
相手も相手だし。」

ーー“俺がカガリと結婚したいからだ”、だとぉ?!!!

「そうですわね、
確かお父様のお仕事のご関係とおっしゃってましたから、
穏便にかつご納得の上、白紙のするのが一番ですわ。」

さすがはラクス、聡い。
と、思った所で僕も気になった。

「そう言えばお見合い相手って誰だったの?」

するとカガリは小ぶりのミルクパンをちぎり、ふわりと上がった湯気に目を細めて
あむっと食べた後に答えた。

「ユウナだよ。
ユウナ・ロマ・セイラン。」

「「あの、ゲス野郎。」」

と、奇遇にもアスランと声が重なった。
アイツは典型的な2世バカで、経営能力は絶望的、女遊びや金遣いはひどいって有名で、
そんな噂しか聞こえてこない奴との未来に幸せなんてある筈無いことは容易に想像がつく。
アスランが破談にしてくれて感謝しかない。
と、そこまで考えてカガリが何故お見合いをしようとしたのか分かった気がする。
カガリはきっとアスランとの未来を諦めたんだ、
だから少しでもアスハ家の力になりたいと考えたのだろう。
痛々しい程健気なカガリに、キラは滲んだ涙をナプキンでそっと抑える。

「破談にするなら早い方がいいから、
今日の午前中に家に、午後はウズミ様にご挨拶に行って、
結婚の許しを得たよ。」

流石はアスラン、仕事が早い、かつ決定的。
カガリに告白するのにあんだけモタモタしてたのが嘘のよう。

「俺の家の方は大丈夫だと思ってたけど、
ウズミ様にお会いするのは緊張したよ。」

と、アスランが安堵の溜息をつくと、緊張度合いがどれ程だったのか想像がつく。
というか、僕もいつかそんな緊張を乗り越えなければならない、
と、さりげなく何処からかプレッシャーを感じるような…?

「私は何も心配してなかったぞ。
お父様はきっとアスランを気に入ってくださると思ってたから。
でも、裏からタマ爺が手を回していたなんてな。」

と、カガリが笑った。

「タマ爺って、タマナ電工のタマナ会長?」

と、ラクスにも分かるように問い返せば、カガリはにっこりと頷いた。

「実は、この間の木曜日にタマ爺がアスランに会いたいって言い出して、
3人で会食をしたんだよ。」

「まさかあの時、カガリに相応しい男か見定めれれていたなんて。」

と、アスランは笑っている。

「でな、会食の後にタマ爺と2人で飲んだ時に、ポロッとお見合いの話をしちゃってさ。
そしたらタマ爺からお父様に内々に連絡が行って、
“お見合いはやめた方がいい、然るべき相手がいる。”って話をしてくれてたみたいで。」

流石はオーブの大企業の会長だ。
カガリを守り、アスランとの結婚をスムーズに運ぶ下準備まで仕込むとは。
その手腕に僕は舌を巻く。

「タマナ会長にもご挨拶に行かないとな。」

「タマ爺、喜んでくれるといいな。」

と、カガリが幸せそうに笑って、

「タマ爺様は、おふたりの仲人、ですわね。」

と、ラクスが言ったので

「ちょーーーっと待った!」

僕はビシィっと挙手をした。

「君達、大事な事を忘れてない?
僕だよ、僕!
僕に許可もらってないんだから、結婚なんて許しませんからねっ!」

僕はプイっと顔を背け目を閉じる。
カガリの結婚相手として、あんなゲス野郎なんて論外だし、
何処の馬の骨とも分からない男よりはアスランの方がマシだけど、
でもでもやっぱりやっぱり、
かわいい妹を掻っ攫われるのは嫌で。

ガタリと椅子を引く音が聞こえた。
ふわりとお日様のような香りがして、両手がぬくもりに包まれた。
呼ばれたように目を開けると、幸せそうに笑うカガリ。

ーーその笑顔は反則だよ、カガリ。
もう、結婚を許すしかないじゃないか…。

「キラ、ずっと私の事を見守ってくれてありがとう。
結婚しても、ずっと大好きだからな。」

こんな事言われたら、

「もう、キラったら泣き虫だなぁ。」

いっつも、泣いてたのはカガリの方じゃないか。

「よしよし、
大丈夫、大丈夫。」

アスランの事を想ってつらくて苦しくて仕方ない時も、
誰かに告白されて胸を痛めていた時も、
いつだって僕が、

僕がカガリを抱きしめて
慰めていたのにーー

「カガリ、幸せになってね。」

僕はそう言うのが精一杯だった。













次々に出てくる美味しい料理が幸せを運んできて、
夢にまで見た今が煌めくように輝いて、
ずっと続けばいいのにと思っていても、とうとう食後のデザートになってしまった。
最後は僕の大好きなアップルパイ。
ラクスがファウステン・ファームのリンゴが手に入ったと、
ウキウキしながら作ってくれたものだ。
パイは焼きたてのサックサクで、コックリと煮込んだりんごが甘く爽やかで。
“ほにゃり”と味わっていたけれど、このままお開きには出来ない。
隣のラクスに目配せをする。
アスランとカガリの電撃報告程では無いけれど、僕達からもーー。

僕はカガリに視線を向ける。
またもや頬にパイ生地をつけていて、アスランがそれを取って自分の口に入れようとするから
慌てたカガリはアスランの指をあむっと食べて
アスランが真っ赤になっている。
何だか初々しい2人。

ーー2人とも、喜んでくれるといいな。

「僕達からも報告があるんだ。
えっとね、僕達ーー。」

その声をラクスが遮る。

「キラ。
わたくしに、プロポーズしてください。」

「「えぇぇぇ~!!」」

僕とカガリの声が重なった。
ラクスと想いが通じたのは昨日の事、
高校3年生の文化祭で結んだ約束を果たした時だった。
僕は初めて会った時からずっとラクスが好きだったんだ、
だからラクスがオーブに帰ってきてくれた今から
ゆっくりと2人の時間を重ねていきたいって思っていた。
もちろん、将来結ばれるならラクス以外あり得ない、
だけど昨日の今日じゃ早すぎる、先ずは離れていた時間を埋めてゆっくりとーー

そこまで考えて、ラクスの瞳にハッとする。

きっとラクスも同じなんだ、僕と。
君と僕はとても良く似ているから。
時を超えて、距離を超えて、ずっと想いが僕達をつないでくれていた。
だとしたら、僕達が考えていた“将来”を、僕達の“今”に変えたっていいんだ。
だってそれを僕達は望んでる、
心から。

「ラクス、僕と結婚してください。」

「はい。」

僕の大好きな、花のような笑顔。
そのまま僕の胸に飛び込んできた君。
君が起こしてくれる奇跡胸いっぱいにはらんで
僕は君を抱きしめた。

その後、カガリとアスランに色々と説明する事になったのは言うまでも無いことで。
特にカガリにはラクスとの事を何も話していなかったから驚かせちゃったみたいだった。
カガリにずっと黙っていたのは、僕もラクスもお互いにオーブで再会するまで”何もしない”ことを貫いていたから。
手紙も、電話も、もちろん会うことも、何もしない。
僕が君に何もしないんだ、僕が楽になるために誰かに相談するなんてしたくなかった。
想いを胸に仕舞ったまま、再会できる日に解き放つ、
言葉にはしなかったけど、僕とラクスの間で自然とできた約束だったから。

だから、ラクスの帰国の知らせをもらって
ずっと育てていた花が咲いたように喜びが開いていった。
それはラクスも同じだったようで、
昨日の早朝にアスランの家へ押しかけたのは、
僕と再会できるうれしさにテンションMAXで起こした行動だった。
その偶然がラクスとカガリを引き合わせ、
カガリのお見合いを阻止することが出来たのだ。
ラクスは幸せの女神だ、と僕は本気で思っている。

カガリは僕達の結婚を心から喜んでくれて、

「ラクスと姉妹になれるなんて夢みたいだ!」

と、既に本当の姉妹のようにラクスとはしゃいでいる。

ーーって事は、僕とアスランが兄弟に!?

僕は毅然とした態度で

「これからはお兄様と呼んでよね、アスラン。」

と言えば、軽く引かれた顔をされ

「コラ!私が姉なんだから、キラはアスランの弟だぞ!」

と間髪入れずにカガリが打ち返し、
僕はビシィっと挙手をして

「異議あり!お兄さんは僕で、カガリは妹です!」

と言えば、ラクスは鈴蘭のような笑みをこぼして、
アスランは困ったように笑っていて。

「家族が増えるって幸せだな。」

カガリの言葉が僕達を包む空気を
ハチミツ色に変えた。



――――――――――

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

先ず、アスランに言いたい、手が早ぇよ(笑。
カガリさんをさっそくいただいちゃいました。
でも、カガリさんが幸せそうなので良しとしましょう。
そして、カガリさんの縁談を破談にするための行動の早い事(笑。
そして決定的な事(笑。
キラじゃないですけど、この頭脳と行動力があるのに告白まで遠回りをしてしまう、
そこがアスランらしいかな、と。

アスランとカガリは、想いが通じるまでは遠回りをしてしまうタイプだと思いますが、
通じてしまえば、おとぎ話の結びのように
『末永く、幸せに暮らしましたとさ。』
という未来が待っていると思います。
SEEDの世界でも、きっとそんな未来を迎えられたらいいな。

そして、キラとラクスの電光石火のような展開に驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。
物語の端々でそこはかとなく匂わせていたので、お気づきの方の方が多かったでしょうか。
補足させていただきますと、キラとラクスは文化祭で出会い、互いにひかれあいます。
だから文化祭の写真には、ラクスの左手にキラが結んだリボンがあった訳です。
文化祭でキラは『今度は僕がラクスに会いに行く』的なことを言っていましたが、
キラはラクスが留学するまでの間、何度もラクスに会いに行っていました。
ラクスはキラとの出会いにより歌を取り戻す勇気を得て、パリへ留学を決意します。
互いに想いは胸に仕舞って、もう一度会える夢を抱いて2人は別れを選びます。
そして、再会したのが物語上の”昨日(=土曜日、カガリのお見合いの日)”だったんですね。
そこで2人は約束を果たすのですが…。
そのお話はいつか書けたらいいなと思います。

第〇話でキラの部屋に電子ピアノがあったのも、
ラクスと約束を果たすためだったんですよ。
また、第●話で“ベアー”のぬいぐるみをゲットしていますが、これはラクスへのプレゼントだったりします。

想いが通じて幸せいっぱいなカガリさんとアスランの
ラブラブな会話が見たいとのリクエストをいただいていますので、
後日、断片的なものですがおまけのお話をアップしたいと思います!

最後までお読みくださり、ありがとうございました!
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君がくれたキスも
本当の想いも
この腕に抱くぬくもりも。

全部が夢のように消えてしまいそうで
だけど閉じ込めようと力を込めれば壊れてしまいそうで、
アスランは今を確かめるように
無垢な微笑みを浮かべて眠るカガリに頬を寄せた。
あの日と同じシャンプーの香りがして
くすぐったいような笑みが浮かぶ。

初めて“大切”という言葉の意味がわかった気がする。

ーー君を一生、大切にするから。

そう誓って、アスランはカガリにくちづけを落とした。
すると、天使が目覚めるようにカガリが琥珀色の瞳を開いた。
まだそこには夢が映っているようで、あまりに無垢な愛しい人にアスランはもう一度キスをする。
頬を染める仕草は可憐なのに、潤んだ瞳で見詰める視線は扇情的で。
一気に吹き飛びそうになる理性を繋ぎとめる。

「おはよう、カガリ。」

と髪をひと撫ですれば、音がする程真っ赤になったカガリは布団の中へ隠れてしまった。
ヒヨコがかくれんぼしたようにシーツの隙間からのぞく髪。
昨夜の事を思い出して恥ずかしがる初々しい反応が可愛らしくて、ついついいじめたくなってしまう。
一糸まとわぬ太腿に手を這わせれば、猫のような声が上がりアスランは笑った。

想いが通じれば心穏やかになる、なんて幻想だと思う。
だって、この想いは加速度をあげて大きくなっていく。

だから、カガリのしなやかな脚についた痕が許せなかった。
触れていいのは自分だけ、
他の奴の痕跡は全て消してやる、
そんな独占欲を抑える事なんて出来なかった。

微かに震えながら痕の理由を話したカガリの姿を思い出し、
アスランはカガリを抱き上げるように布団から引っ張り出した。

もう君を悲しませる事はしない。
君を悲しい選択肢の前に立たせない。
大好きな君の笑顔を、俺が守るから。
幸せにするから、
君を、
君と。

「カガリ、頼みたい事がある。」

君との幸せを確かにする、
第一歩をーー






















「ようこそお越しくださいました!」

ラクスの大輪の花のような笑顔から始まったホームパーティー。
当日の朝に誘いのメールがあり、夕方には開催してしまう強行突破のようなパーティーに招かれたのは、
僕とカガリとアスラン。
僕は先にラクスのお手伝いをしながら、ターゲットの2人を待った。
僕がいくらアスランの背中を押しても蹴っても動かないから、
こうなったら力づくでも2人をくっつけてあげるってのが
カガリの頼れるお兄ちゃんでありアスランの親友である僕の役割だと思ったからだ。
ラクスのエプロンをつけて全力でお手伝いしたのだけれど、どうしても約束の時間が気になってしまい
時計を見るたびにラクスに笑われてしまった。
そんな時、来客を告げるベルが鳴った。

「2人揃って遅刻って、何してたのさっ!」

と、思わず叱ってしまった時、
アスランとカガリが目を合わせて笑った。
その雰囲気が今までとは違って…。

ーーあれ?

「ちょっと作りすぎてしまいしたかしら?」

とラクスがキッチンワゴンを押してきた時には
ダイニングテーブルの上には並びきらない程の皿で占められていた。

「大丈夫だ!私お腹ぺっこぺこだから!
もう、今日は緊張しちゃって…。」

と、カガリがお腹を抑えれば

「じゃぁ、早速食べようか!」

と、僕は“待ってました!”とばかりにエプロンをバサァっと脱いだ、
その時、

「キラとラクスに報告したいことがあるんだ。」

アスランったら、改まっちゃって何なのさ。
ははーん、君達あれね、上手く行っちゃったってことね。
でもここは、何も気付いてませんって態度を貫くのがセオリーってものだから、
僕は何気なさを装って席についた。
見ればカガリがほんわりと頬を染めてアスランの裾を引っ張っていて
可愛らしさMAXの仕草に、僕は2人の間に割って入ってやりたい気持ちをこらえた。
このパーティーの目的は2人に幸せになってもらうため、
僕の役割はキューピッド。
まぁ、2人が先にくっついちゃったのは想定外だったけど、
邪魔者に転じるようなヘマはしないさ。
付き合う事になったって言うだけであんなに照れちゃう、カガリは本当に可愛いーー

「俺たち、結婚することになった。」

「はぁぁぁぁぁぁぁ???!!!!!」

僕は椅子がバターンと倒れる程の勢いで立ち上がった。

「ちょっと待って、僕の許しも無いのに結婚ってどういう事?
そもそも君達が付き合ってたって事すら知らされてないんだけどっ。
先ずはカガリのお兄様である僕に話を通すのが筋ってモンじゃない?
というか、アスラン一発殴るからねっっっ!!!」

と、キュービッドの僕はアスランに掴みかかり、
ラクスは“おめでとうございます!”と拍手をしている。
と、カガリは僕達の間に割って入り

「いっ、色々と事情があって!
説明するけど、先ずはお料理をいただかないか。
冷めてしまう前に。」

のタイミングで僕とカガリのお腹が“ぐ~”と揃って返事をして
パーティーは始まったのだ。










僕はアスランを睨みつけたまま、ラクスが取り分けてくれた前菜を頬張り
ほにゃりと顔が緩みそうになるのを必死で耐えた。
でも、あまりの美味しさに“ほにゃ”くらいはしてしまったかもしれないが、
すぐに姿勢を正してアスランを睨んだ、“さぁ、吐け!”と念じながら。
するとアスランは

「どこから話せばいいんだ。」

と、“ほにゃ~”と幸せそうに前菜を食べるカガリに話しかけ
カガリはモグモグしながら“そうだなぁ”と小首を傾げて

ーーこんな所でいちゃいちゃしないでよっ!

と、怒髪天を突く勢いの僕に
ラクスが勧めてくれた本日のスープ、ロシア風壷焼き濃厚クリーミーな味わいと
蓋の役割をしているサクサクのパイ生地のハーモニーに“ほにゃ~ん”としてしまい、
すぐに姿勢を正すと、態とらしく咳払いをしてアスランを睨んだ。
困ったように微笑むアスランの態度が余裕シャクシャクに見えて何だか癪だけど、
ラクスから“壷焼きは熱すぎました?”と問われると、もう一口食べてしまい
“はにゃ~ん”となってしまうから、僕は忙しい。

「昨日、カガリがお見合いをしてーー」

アスランの言葉を僕は遮った。

「えぇぇ!!
何で、カガリ、お見合いなんて!!」

カガリが悲しい選択をしてしまう程追い詰められていたなんて、
それを見逃していた僕は最低のお兄様だ。
キラがしょんぼりとすると、ラクスが“続きを聞きましょう”と背中をさすってくれた。

「俺も、昨日ラクスが教えてくれるまで知らなかった。
何とかお見合いを白紙にしてほしくて、
昨日の夜、カガリと話をしたんだ。
それで、結婚する事になった。」

簡潔明瞭無駄の無いアスランの説明、
でも、途中で話がぶっ飛んでいませんか?

「話をして、何で直ぐに結婚になっちゃうの!
先ずはお付き合いの前に交換日記からでしょ!」

するとアスランがカガリの頬についた壷焼きのパイ生地を取り
そのまま自分の口に入れ
ぽわんと頬を赤くしたカガリの初々しい事と言ったら!!
僕のスプーンを握る手に血管が浮かび上がる。

「俺がカガリと結婚したいからだ。
それに、お見合いの相手方へ断りを申し入れるんだ、相応の理由が必要だろ。
相手も相手だし。」

ーー“俺がカガリと結婚したいからだ”、だとぉ?!!!

「そうですわね、
確かお父様のお仕事のご関係とおっしゃってましたから、
穏便にかつご納得の上、白紙のするのが一番ですわ。」

さすがはラクス、聡い。
と、思った所で僕も気になった。

「そう言えばお見合い相手って誰だったの?」

するとカガリは小ぶりのミルクパンをちぎり、ふわりと上がった湯気に目を細めて
あむっと食べた後に答えた。

「ユウナだよ。
ユウナ・ロマ・セイラン。」

「「あの、ゲス野郎。」」

と、奇遇にもアスランと声が重なった。
アイツは典型的な2世バカで、経営能力は絶望的、女遊びや金遣いはひどいって有名で、
そんな噂しか聞こえてこない奴との未来に幸せなんてある筈無いことは容易に想像がつく。
アスランが破談にしてくれて感謝しかない。
と、そこまで考えてカガリが何故お見合いをしようとしたのか分かった気がする。
カガリはきっとアスランとの未来を諦めたんだ、
だから少しでもアスハ家の力になりたいと考えたのだろう。
痛々しい程健気なカガリに、キラは滲んだ涙をナプキンでそっと抑える。

「破談にするなら早い方がいいから、
今日の午前中に家に、午後はウズミ様にご挨拶に行って、
結婚の許しを得たよ。」

流石はアスラン、仕事が早い、かつ決定的。
カガリに告白するのにあんだけモタモタしてたのが嘘のよう。

「俺の家の方は大丈夫だと思ってたけど、
ウズミ様にお会いするのは緊張したよ。」

と、アスランが安堵の溜息をつくと、緊張度合いがどれ程だったのか想像がつく。
というか、僕もいつかそんな緊張を乗り越えなければならない、
と、さりげなく何処からかプレッシャーを感じるような…?

「私は何も心配してなかったぞ。
お父様はきっとアスランを気に入ってくださると思ってたから。
でも、裏からタマ爺が手を回していたなんてな。」

と、カガリが笑った。

「タマ爺って、タマナ電工のタマナ会長?」

と、ラクスにも分かるように問い返せば、カガリはにっこりと頷いた。

「実は、この間の木曜日にタマ爺がアスランに会いたいって言い出して、
3人で会食をしたんだよ。」

「まさかあの時、カガリに相応しい男か見定めれれていたなんて。」

と、アスランは笑っている。

「でな、会食の後にタマ爺と2人で飲んだ時に、ポロッとお見合いの話をしちゃってさ。
そしたらタマ爺からお父様に内々に連絡が行って、
“お見合いはやめた方がいい、然るべき相手がいる。”って話をしてくれてたみたいで。」

流石はオーブの大企業の会長だ。
カガリを守り、アスランとの結婚をスムーズに運ぶ下準備まで仕込むとは。
その手腕に僕は舌を巻く。

「タマナ会長にもご挨拶に行かないとな。」

「タマ爺、喜んでくれるといいな。」

と、カガリが幸せそうに笑って、

「タマ爺様は、おふたりの仲人、ですわね。」

と、ラクスが言ったので

「ちょーーーっと待った!」

僕はビシィっと挙手をした。

「君達、大事な事を忘れてない?
僕だよ、僕!
僕に許可もらってないんだから、結婚なんて許しませんからねっ!」

僕はプイっと顔を背け目を閉じる。
カガリの結婚相手として、あんなゲス野郎なんて論外だし、
何処の馬の骨とも分からない男よりはアスランの方がマシだけど、
でもでもやっぱりやっぱり、
かわいい妹を掻っ攫われるのは嫌で。

ガタリと椅子を引く音が聞こえた。
ふわりとお日様のような香りがして、両手がぬくもりに包まれた。
呼ばれたように目を開けると、幸せそうに笑うカガリ。

ーーその笑顔は反則だよ、カガリ。
もう、結婚を許すしかないじゃないか…。

「キラ、ずっと私の事を見守ってくれてありがとう。
結婚しても、ずっと大好きだからな。」

こんな事言われたら、

「もう、キラったら泣き虫だなぁ。」

いっつも、泣いてたのはカガリの方じゃないか。

「よしよし、
大丈夫、大丈夫。」

アスランの事を想ってつらくて苦しくて仕方ない時も、
誰かに告白されて胸を痛めていた時も、
いつだって僕が、

僕がカガリを抱きしめて
慰めていたのにーー

「カガリ、幸せになってね。」

僕はそう言うのが精一杯だった。













次々に出てくる美味しい料理が幸せを運んできて、
夢にまで見た今が煌めくように輝いて、
ずっと続けばいいのにと思っていても、とうとう食後のデザートになってしまった。
最後は僕の大好きなアップルパイ。
ラクスがファウステン・ファームのリンゴが手に入ったと、
ウキウキしながら作ってくれたものだ。
パイは焼きたてのサックサクで、コックリと煮込んだりんごが甘く爽やかで。
“ほにゃり”と味わっていたけれど、このままお開きには出来ない。
隣のラクスに目配せをする。
アスランとカガリの電撃報告程では無いけれど、僕達からもーー。

僕はカガリに視線を向ける。
またもや頬にパイ生地をつけていて、アスランがそれを取って自分の口に入れようとするから
慌てたカガリはアスランの指をあむっと食べて
アスランが真っ赤になっている。
何だか初々しい2人。

ーー2人とも、喜んでくれるといいな。

「僕達からも報告があるんだ。
えっとね、僕達ーー。」

その声をラクスが遮る。

「キラ。
わたくしに、プロポーズしてください。」

「「えぇぇぇ~!!」」

僕とカガリの声が重なった。
ラクスと想いが通じたのは昨日の事、
高校3年生の文化祭で結んだ約束を果たした時だった。
僕は初めて会った時からずっとラクスが好きだったんだ、
だからラクスがオーブに帰ってきてくれた今から
ゆっくりと2人の時間を重ねていきたいって思っていた。
もちろん、将来結ばれるならラクス以外あり得ない、
だけど昨日の今日じゃ早すぎる、先ずは離れていた時間を埋めてゆっくりとーー

そこまで考えて、ラクスの瞳にハッとする。

きっとラクスも同じなんだ、僕と。
君と僕はとても良く似ているから。
時を超えて、距離を超えて、ずっと想いが僕達をつないでくれていた。
だとしたら、僕達が考えていた“将来”を、僕達の“今”に変えたっていいんだ。
だってそれを僕達は望んでる、
心から。

「ラクス、僕と結婚してください。」

「はい。」

僕の大好きな、花のような笑顔。
そのまま僕の胸に飛び込んできた君。
君が起こしてくれる奇跡胸いっぱいにはらんで
僕は君を抱きしめた。

その後、カガリとアスランに色々と説明する事になったのは言うまでも無いことで。
特にカガリにはラクスとの事を何も話していなかったから驚かせちゃったみたいだった。
カガリにずっと黙っていたのは、僕もラクスもお互いにオーブで再会するまで”何もしない”ことを貫いていたから。
手紙も、電話も、もちろん会うことも、何もしない。
僕が君に何もしないんだ、僕が楽になるために誰かに相談するなんてしたくなかった。
想いを胸に仕舞ったまま、再会できる日に解き放つ、
言葉にはしなかったけど、僕とラクスの間で自然とできた約束だったから。

だから、ラクスの帰国の知らせをもらって
ずっと育てていた花が咲いたように喜びが開いていった。
それはラクスも同じだったようで、
昨日の早朝にアスランの家へ押しかけたのは、
僕と再会できるうれしさにテンションMAXで起こした行動だった。
その偶然がラクスとカガリを引き合わせ、
カガリのお見合いを阻止することが出来たのだ。
ラクスは幸せの女神だ、と僕は本気で思っている。

カガリは僕達の結婚を心から喜んでくれて、

「ラクスと姉妹になれるなんて夢みたいだ!」

と、既に本当の姉妹のようにラクスとはしゃいでいる。

ーーって事は、僕とアスランが兄弟に!?

僕は毅然とした態度で

「これからはお兄様と呼んでよね、アスラン。」

と言えば、軽く引かれた顔をされ

「コラ!私が姉なんだから、キラはアスランの弟だぞ!」

と間髪入れずにカガリが打ち返し、
僕はビシィっと挙手をして

「異議あり!お兄さんは僕で、カガリは妹です!」

と言えば、ラクスは鈴蘭のような笑みをこぼして、
アスランは困ったように笑っていて。

「家族が増えるって幸せだな。」

カガリの言葉が僕達を包む空気を
ハチミツ色に変えた。



――――――――――

最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

先ず、アスランに言いたい、手が早ぇよ(笑。
カガリさんをさっそくいただいちゃいました。
でも、カガリさんが幸せそうなので良しとしましょう。
そして、カガリさんの縁談を破談にするための行動の早い事(笑。
そして決定的な事(笑。
キラじゃないですけど、この頭脳と行動力があるのに告白まで遠回りをしてしまう、
そこがアスランらしいかな、と。

アスランとカガリは、想いが通じるまでは遠回りをしてしまうタイプだと思いますが、
通じてしまえば、おとぎ話の結びのように
『末永く、幸せに暮らしましたとさ。』
という未来が待っていると思います。
SEEDの世界でも、きっとそんな未来を迎えられたらいいな。

そして、キラとラクスの電光石火のような展開に驚かれた方もいらっしゃるかもしれません。
物語の端々でそこはかとなく匂わせていたので、お気づきの方の方が多かったでしょうか。
補足させていただきますと、キラとラクスは文化祭で出会い、互いにひかれあいます。
だから文化祭の写真には、ラクスの左手にキラが結んだリボンがあった訳です。
文化祭でキラは『今度は僕がラクスに会いに行く』的なことを言っていましたが、
キラはラクスが留学するまでの間、何度もラクスに会いに行っていました。
ラクスはキラとの出会いにより歌を取り戻す勇気を得て、パリへ留学を決意します。
互いに想いは胸に仕舞って、もう一度会える夢を抱いて2人は別れを選びます。
そして、再会したのが物語上の”昨日(=土曜日、カガリのお見合いの日)”だったんですね。
そこで2人は約束を果たすのですが…。
そのお話はいつか書けたらいいなと思います。

第〇話でキラの部屋に電子ピアノがあったのも、
ラクスと約束を果たすためだったんですよ。
また、第●話で“ベアー”のぬいぐるみをゲットしていますが、これはラクスへのプレゼントだったりします。

想いが通じて幸せいっぱいなカガリさんとアスランの
ラブラブな会話が見たいとのリクエストをいただいていますので、
後日、断片的なものですがおまけのお話をアップしたいと思います!

最後までお読みくださり、ありがとうございました!
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